2018年ベストソング10選

今年はゲーム「Nier:Automata」にハマったことから古いゲーム音楽発掘に夢中になってしまい、いつもの年ほど他の曲を開拓できなかったなー、と思っていますがやります。
最後の( )は総再生数です。ではどうぞ。

 

10. Play A Love Song / 宇多田ヒカル (27)

初恋はなかなかとっつきづらいアルバムだった、と素直に思います。淡白なメロディ、シンプルで音数の多くないアレンジは未だ音が多めで派手な曲が多いJ-POPとしてはいささか物足りなかった。しかし彼女のライブでは初恋の曲も生まれ変わるかのように生き生きと鳴らされており、あわてて何度も聞き返したことでこの順位に。

特にこの曲はシンプルな四つ打ちからゴスペルコーラスが絡むあたりが実にセンスがよろしく、アルバムで聴くよりは断然ライブですね。祝福感満載で幸せになれます。

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9. Summer Gate / 佐藤千亜妃 (27)

2018年はたくさんライブに行けたのですが、きのこ帝国だけ行きそびれてしまったので2019年に期待しています。僕はきのこ帝国のR&Bチューンに弱くて、少しクロノスタシスを思わせるこの曲が一番気に入りました。気だるい恋愛をしている少しスレた女の子が思い浮かぶ歌詞が未だ刺さってしまうのは僕がうまく年を重ねられていないのかもしれないです。全体的にポップスにまとまってた新しいきのこ帝国のアルバムより、全曲方向性がバラバラな彼女のソロの方が刺さったなあ。

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8. 清廉なるHeretics / 毛蟹 Feat. DracoVirgo (28)

Fate / Grand Order 亜種特異点Ⅳ 禁忌降臨庭園 セイレム の主題歌。今年はボーカロイド曲を漁れなかったのでいつものボカロ枠がないのですが、毛蟹さんはもとボカロPから商業作曲家にStep Upした方だったりしますのでこれもボカロ枠、かな。

とにかく静かなピアノのイントロから最初のサビの多重コーラスのアレンジが好みど真ん中で、その勢いで最後まで聞いてしまった曲です。最後まで聞くとだいぶハードロック調のアレンジになっちゃってアニソン感がしすぎてしまうのはちょっといまいちなのですがそこは商業作曲として仕方ないかな。アニソンみたいなものだし。

セイレムの配信自体は去年だったのですが、魔女裁判というテーマは人間の愚かさを直球で示していてとても好きですねえ。過去の人間が塩で満たした水に魔女候補を沈めて「ほら、こいつは水に浮くから魔女だ! 死刑だ!」とか真面目にやっていたと思うと背筋が寒くなりますよね。曲も不穏なものが揃っていて、この曲以外にも「迷信の街」のずっと同じベースラインが鳴り続ける感じも好みでした。

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迷信の街も是非。再生回数は19回でした。

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7. WATER BLUE NEW WORLD / Aqours(30) 

今年もラブライブは強かったです。しっかり紅白にも出場していて後ろに二次元キャラの正解ダンスが映る中で(本当に恐ろしい演出、アイマスではやらない)絶対失敗できないパフォーマンスをしっかり成功させていて見事でした。紅白で歌った曲ではありませんが、この曲はアニソンの特徴であるめまぐるしい上に転調を多用するコード進行が楽しめる曲です。サビの途中でさらに一回転調して盛り上げてくるマシマシ手法を使ってきて、アニソンの良い意味での過剰さが楽しめる一品となっています。30回聞いたらちょっと飽きちゃいましたけれど。

コード進行は以下のサイトにあります。
サビの2フレーズ目でわかりやすく+1されていますね。
WATER BLUE NEW WORLD / Aqours | rechord - 演奏もできるコード進行共有サービス

解説記事も見つけました。

fujiwaland.hatenadiary.jp

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6. 初恋 / 宇多田ヒカル (31)

歌い出しから消え入りそうな細い声で歌う新たな初恋。ドキュメンタリーでは最初はリズム入りだったのがリズムをなくしたほうが緊張感がでると気づき、オーケストラを予約するシーンが記録されていましたが、まさにこの選択はバッチリで、この曲のなんともいえない緊張感はリズムレスでなければなし得ないでしょう。

「もしもあなたに出会えずにいたら
 誰かにいつかこんな気持ちにさせられたとは思えない」

という歌詞がまたすごいですね。もはや初恋というよりは、人生の指針との出会いのような、憎みながらも絶対に離れられない何かのような、そんな感じです。

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ショートバージョンで1000万再生ってすごいですね。

5. Break In To Break Out / Lyn (31)

Persona 5 のアニメ版OPですが、これはすごい曲です。何がすごいって、むちゃくちゃシンプルなアレンジなのにアニソンなのですよ。キックと裏打ちのハットのみで手数の少ないリズムを刻み、ギターと少しのエレピでABメロをシンプルに鳴らし、サビでストリングスを入れる。こんなにシンプルなのにこのOP感。ちょうど7位にラブライブの工夫に工夫を凝らしたアレンジの曲を紹介したので対比していただきたいのですが、アニソンって基本ヤサイニンニクマシマシなこってりラーメンなのに、この曲は麺と醤油スープとネギだけで美味しいラーメンなんです!

是非アニメOP映像とともに聞いて欲しい。OP映像もサビで敢えて「静止画」になってライトで音合わせするという小憎さ。引き算の美学ってやっぱり格好いいです。

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4. 鏡面の波 [Orchestra Ver.] / YURiKA (43)

これはごめんなさい。完全に去年の2位鏡面の波を引きずっています。鏡面の波は本当に好きで今年も40回ぐらい再生数を足しました。オーケストラバージョンになるとメロディ自体も美しいことがよくわかるのですが、それで再生したというより、原曲が好きすぎてアレンジもたまに聞いてたら今年4位になってしまった感じです。

僕はロックが好きな人って一応公言しているつもりなんですが、エレクトロニカがそれと同じぐらい好きなの認めざるおえないんですよね。僕もギターより電子音の人かもしれない。実は。

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3. Be The One / PANDORA (43)

2018年の衝撃的な事件の一つとして小室哲哉氏が音楽業界から引退したことがあるのですが、その前にはAccess浅倉大介氏とユニットを組んでこんな格好いい曲作ってたんですよね。まだまだ小室哲哉枯れてないどころか、テクノのレジェンドたる二人がいまだにこんなにみずみずしいテクノを作って仮面ライダービルドのOPに色を添えるなんて痛快だなと思っていた矢先で凄まじくショックでした。

是非聞いてみてください。一周回って気鋭の新人アーティストのテクノと言われても不思議なこの勢い。でもよく聞くとシンセ使いに二人の匂いもしたり。あー小室哲哉が音楽発表しないなんて日本の多大なる損失ですよ。もう。

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2. POP TEAM EPIC / 上坂すみれ (45)

2018年で最も尖っていたアニメといえばポプテピピックなんですが、そのOPは意外なほどに格好良い出来でようやく日本にも浸透したEDM、ダヴステップにさらに電波ソングチップチューンの要素を足してできています。この曲を歌いこなすのは、過去に12拍子変態アニソンなどを歌いこなした経歴のある上坂すみれ嬢。いい感じに感情を抑えて歌っているようにも見え、この曲を理解して歌いこなしている感じがあります。

結局このアニメ、この曲以上に尖った曲はなかったように思いますね。

この辺が現在ロックがヒップホップやテクノに遅れをとっている理由かもしれない。つまりテン年代はギターではなく電子音で叛逆するんですよ。きっと。

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これはさらに覚悟を決めないと聞き辛い彼女のデビューシングル。歌が12拍子です。無駄にイントロが長い上に痛い。でもすごく尖っている。

あとやっぱり彼女はなんか目が死んでる気がする。そこがいいんだけど。

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1. Lemon / 米津玄師 (50)

普通すぎでごめんなさい。

でもこの曲もまた一般受けしまくっているのに批評家も語りやすい曲で、まず最初に「いまだーにあなたーのことをーゆめーにみる(クェッ)」っていう謎の鳥の声のようなサンプリングがきっちり入っていて。これは洋楽好きな人がピンとくるサンプリングです。これをこの美しいバラードにぶち込んでくるのが彼のセンスなんですよね。

もともと初音ミクの曲を投稿していた頃から彼は「美しい」要素と「汚い」要素をまぜて美しく仕上げるのが得意でしたが、よく考えるとそれが得意なのってジブリ宮崎駿なんじゃないかやっぱりトップクリエイターってそうなるのかって感じもしますが、それがプロになってさらに洗練された感があります。一時的にその「自由さ」さが失われたように感じた時期もありましたが、今は編曲家が優秀なのか「あーもしかしてボカロの頃もこれが本当はやりたかったのかな」というように彼のやりたいことが現代最先端のどの要素であるかをきっちり理解して洗練された音に変えてくるので本当に無敵な感じがしますね。

付け加えていえば、この曲はサビのメロディが抜群に美しいです。彼の低い声からひねり出す高音がまたこの曲の美しさに熱を添えています。2018年は彼の年。文句なし。

あと、この曲2.4億再生してるんですが、日本の曲が億再生行く日がくると思いませんでした。日本の人口からして億はありえないと思ってたのですが内訳はどうなっているんでしょうか。時代は完全に変わりましたねー。

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以降、次点というより同じぐらい好きなのですが集計方法(2018年発売の曲を2018年の再生回数で並べているので前半発売の曲が有利)によってカウントが少ない曲達。

16. Another Silent Way (Film Edit) / Underworld (19)

今年は地味に僕の大好きなUK勢、UnderworldProdigymuse あたりが新譜を出してくれた年でもありましたが、完全にPOPを取り込み時代進化した muse より、自分の音を突き詰め続ける UnderworldProdigyがピンときました。特にこの曲は Underworld でも久しぶりのヒット。得意の削岩機風のような忙しないビートに、子気味良いシンセがなる疾走感溢れる曲です。

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18. Future Pop / Perfume (18)

僕は中田ヤスタカのオリジナリティをまだはっきり理解できていなかったなあと思い知らされました。次の作風などいらない、彼はずっとこんな感じで曲を作り続ければそれだけで革新であると、改めて気づきました。Perfumeのライブでこの暴力的に潰された音が鳴らす音の圧の中で踊る姿はすごかった。まだまだ、チームPerfumeの快進撃は続くのでしょう。

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22. 丸ノ内サディスティック / 宇多田ヒカル&小袋成彬 (16)

宇多田ヒカル椎名林檎は今年も天才でいてくれて助かる、とはゲスの極み乙女の川谷さんのコラムでの発言ですが、本当にそうですね。そしてそんな椎名林檎の曲を宇多田ヒカルと新進気鋭のシンガー小袋成彬でカバー。悪いわけがありません。Jazzyな仕上がりでありながら、クラブでもかけられる四つ打ちでもあり、なんとも浮遊感が心地よい仕上がりです。どうも宇多田ヒカルは最新の音(メロディではなく、音そのもの)にはそんなに興味がないらしく、アドバイスに小袋さんを頼ったりするらしいですね。

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29. 獣ゆく細道 / 椎名林檎宮本浩次 (13)

今年も天才でよかった。椎名林檎のペアシングルシリーズ、2018年になってわかったのですが、これは彼女のプロデューサー力を見せつけるプロジェクトなんですよね。ウルフルズ宮本浩次と組んで彼らの力を最大限に引き出す。彼女自身はフロントに立ちながらも目立ちすぎずに微笑んでいる。紅白の絵も圧巻の出来でした。今日も人を斬って帰ってきた浪人宮本浩次を迎える花魁の女林檎、そんな世界観を完成させる見事さ。バンドとはパフォーマーなのですね。YouTubeTwitterでみたMステのパフォーマンスを数えるともっと再生しています。

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過去ログ。

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宇多田ヒカル Laughter in the Dark 2018 at 横浜アリーナ

宇多田ヒカルといえば、若干15歳にして「な なかいめの べ るでじゅわきをとったきみ」というワンフレーズで天才の所業とわかる衝撃的なシングルを発表して音節の切り方を分析する評論家もなんとなく聞いている一般人も虜にしたアーティストである。僕も例に漏れず彼女に心酔した一人で、作曲しながら宇多田ヒカルの多重コーラスとかに影響受けてるなあと思ったりするのだが、彼女の素晴らしいところは「宇多田ヒカルの素晴らしさ」を誰に話しても一定の共感を得られるところである。僕の愛するSUPERCARRadioheadは僕も空気を読んでわかりそうな人にしか話さないが、宇多田ヒカルはお茶の間にもちゃんと届いている。

 

そんな彼女のライブ。いかにもスタジオミュージシャンテトリスの腕は廃人級の彼女は体力がなくライブがうまくないなんて噂も流れたりしていたが、果たして。僕はどんな手を使ってでもこのチケットを取る気だった。しかし、彼女のチケットシステムは札束でも友達の多さでも殴れないように緻密に設計されていた。このシステムは引きこもりオタク美少女ヒッキーの意思が絡んでいると言うのは考えすぎだろうか。

 

しかしそうなると完全な運勝負。落選続きで自分の運のなさに半ば絶望していたところ、土壇場で機材解放席が取れた。しかも初日。最悪宇多田ヒカルはスクリーンでしか見えないことを覚悟したが、座って見れば全体が横から見渡せる席で全然悪くなかった。息を呑んで登場を待つ。待ちながら、僕はこんなに宇多田ヒカルが好きだったのかと再認識した。ドキドキが止まらなかった。

 

(ここからセットリストのネタバレ含む)

 

最初の曲は「あなた」。隣の女の子が彼女が登場した瞬間口を押さえたので横目でちらりと見たらやはり泣いていた。多分「えっ・・・宇多田ヒカル・・・実在したんだ・・・うそ・・・」って感じだったのだと思う。わかる。もらい泣きしそうになった。

 

しかしやはり生で聴く彼女の声はすごい。彼女の声は選ばれし者だけの持つ倍音*1が含まれていると言うが、確かにマイクの音量が特別大きいわけではないし声もそこまで大きくないのにものすごくクリアに聞こえる。そして伴奏と声の馴染み方が半端ない。音が大きすぎるライブは疲れてしまう最近の僕にはちょうどよいバランスでとても心地よい。座りながらゆらゆら揺れていた。

 

次は「道」。軽快な四つ打ちとシンセに切実な歌詞。そしてその四つ打ちを引き継いだまま大名曲「Traveling」になだれ込む。もうすでにここで感極まっていた。よく立ち上がらないで我慢したと思う。

 

Traveling」〜「Colors」〜「Prisoner Of Love」ともっと新作「初恋」を中心に組むと思っていた期待を裏切る名曲のオンパレード。いい歌詞が本当によく聞こえる。彼女の歌詞はその人間性を反映してか不思議と天才感の薄い、日常会話のような言葉遣いをしてきて親近感が湧くのだけれど、その中で突然心に突き刺さるようなフレーズを交えてくるので油断ならない。アッパーなチューンのコミカルな歌詞も例外ではない。鳥肌の回数は数えるのを諦めた。

 

その後の「Kiss & Cry」ではコーラスに「Can you keep a secret?」を交えてプチマッシュアップにしてみたり、「SAKURAドロップス」の最後「好きで好きでどうしようもない それとこれとは関係ない」のリフレインではシンセのアルペジエイターにむかって陶酔感あふれるフレーズを作り上げたりしてみたり。後者の姿は「Everything in its right place」でサンプラーで切り刻んだ自分の声と遊ぶトムヨークと重なった。

 

なんというか、Mac の Logic X と向き合ってコードから曲を作る彼女は、部屋の中で緻密に練り上げて今日のライブを作ったのではなかろうか。それがとても「らしい」と感じて、そこにまた感動した。

 

さらにヒッキー流ロックといった趣の「光」が始まっていよいよ感動しすぎて涙が出てきた。「光」も好きなんですよ。ギターの響きの格好よさと歌詞の素晴らしさ。「真夜中に」ってなかなか「光」ってタイトルで出てこない言葉だと思うんですよ。「テレビ消して私のことだけを見ていてよ」は未だテレビ主流だった当時の時代感も感じつつリフレインにふさわしい痺れるフレーズ。彼女の歌って恋の歌が多いですけれど、不思議と恋愛に溺れた女の子という像が浮かんでこない、歌われている男の子ではなく女の子そのもののほうに興味が湧く。これも個性だと思う。とりあえず、こんな言葉で女の子に口説かれたら、ぞっこんになってしまうでしょう。

 

さらにダンサーを交えて、同性愛を歌った「ともだち」と、ヒッキー自身がまさかのラップを披露したヒップポップ「Too Proud」で、最先端の音もアピール。彼女はすっとステージを後にしました。休憩かな、と思いきや突然、スクリーンにピース又吉との対談が映し出されました。これがこのツアーの最大級のネタバレです。これから参加を控えている人はここでブラウザバック推奨。

 

****

 

一見ただのツアーのテーマ「Laughter in the Dark」についての対談で、ショウの中でその背景を語っちゃうのはどうなんだろうとか頭に疑問符を浮かべながら「まあこういう感じも宇多田ヒカルかな」と思って完全に油断していたら、これ、ガチコントでした。まさかライブ中に本気で笑わせられると思わなかった。かなり長くて全然終わらないし。これは今までのライブの中でも初めての体験でした。又吉氏の脚本すごい。

 

ムービーの途中で新作アルバムの中でももっとも冷たくて暗い「夕凪」が流れてきた時は、まさかこの笑いの流れから絶望に至るのか、ギャップ凄すぎるだろと思ったらただBGMで使われていただけでした。ただ、「ギャップで攻める」という予想はだいたい合っていて、ムービーが終わると歓声が上がり何かと思ったら、センターステージに宇多田ヒカルが登場して「誓い」が始まりました。笑いで緊張感が抜けたところに、すごい緊張感をもった跳ねすぎて前につんのめるリズムが印象的な曲。すごい構成。完全にやられました。

 

そこからもすごい。最も印象的なパートだったかもしれない。彼女の壮絶な体験が目の前に浮かび上がってくるかのようで息が苦しくなった「真夏の通り雨」、飾らないシンプルな美しさで攻めてくる「花束を君に」、センターからフロントにもどった後には「Forevermore」。

 

「Forevermore」。この曲がリリースされた時は小躍りしたのを思い出します。いやあ、リズムも面白くエレピは小洒落てて音楽的に好きすぎるのに歌詞で「あなたの代わりなんて居やしない こればっかりは裏切られても変わらない」なんて歌われるのですから。昔から彼女の歌詞はすごいですが、最近の曲でさらに磨きがかかったような気がします。

 

マイクスタンドが置かれてから満を持して「First Love」、そして「初恋」。20年越しに同じテーマを歌う彼女の成長が垣間見られる小憎い演出です。「First Love」は「明日の今頃には」の部分がとにかく好きで、歌詞とメロディってこんなに綺麗に合うんだなってここでいつも感極まってしまいます。Bメロなのに。「初恋」はよりドラマチックにその瞬間を描いた名曲で、甘い「First Love」と比べると人生の重みとか刹那だからこその美みたいな感じがします。が、彼女も緊張していたのか2フレーズ目で失敗して、やり直す一面も。

 

格好良い流れは絶たれたけれど、これにはガッツポーズしました。だって、初日だけのハプニングとしてツアーに行った他の人に自慢できるんですもの。こういうのもライブの楽しさです。

 

最後のMCも可愛らしかった。話すのが苦手でオタク感溢れてて、それなのに動作がいちいち可愛いの、ライトノベルのヒロインみたいじゃないですか。

 

「これが最後の曲・・・最後の曲、だよね。ちょっと確認、あ、合ってた」

 

「よーしがんばる、がんばるぞ」

 

とかゆるく始めたくせに「Play A Love Song」っていうアンセム鳴らし始めるの反則だと思います。始めるならばちゃんと名曲感出してこうもったいぶって壮大に始めてほしい。可愛らしいガッツポーズで、ほわんと癒してから始めないでほしい。スタンダードな四つ打ちピアノからゴスペル調のコーラス交えつつ、最後はゴスペル要素を前面に出して祝福感いっぱいにするのやめてほしい。センスが良すぎてもう嫌!

 

そのあとのアンコールも、ぶっといベースで始まるジャズ調で物語の登場人物視点の歌詞が珍しい「俺の彼女」から始まりこれまで見せてなかった一面を見せつつ、ついに「Automatic」。最初にも書きましたけど「な なかいめの べ るでじゅわきをとったきみ」でもう名曲確定なのに加えて「声を聞けば自動的に」の楽器のフレーズのような落ちていくメロディがまた独特かつクールでサビでは「It's Automatic!!」と誰もが口ずさめる感じを出してくる。はあ。ため息。

 

3階の人は立ち上がらないでって言われましたが、すいません「Automatic」は無理でした。今まで不恰好に体を揺らしながらよく耐えたなと褒めてください。最後尾なので誰にも迷惑はかけてないと思います。

 

そして最後はベスト収録の「Goodbye Happiness」で完。ベストってあまり好きじゃなくて聞いてなかったんですが、すごくラストっぽい雰囲気を持った曲で、もう一度聞き直しました。これ、名曲でした。アウトロでステージの各サイドにぺこんとお辞儀する彼女が可愛いなと思っていたら電気がついて、僕の夢のような時間は終わりを告げたのでした。

 

****

 

安定感のある伴奏。

小さくても歌詞が聞き取りやすい、楽器と綺麗に混ざる天性の声。

絶妙な音響の元で鳴らされる新旧交えた名曲たち。

落ち着いていてハートフルな観客席。

宇多田ヒカルの自身のかわいらしさ。

意外性のあるムービーの演出。

 

褒めるところしか思いつかない素晴らしいライブでした。今年ベスト確定。というか、全曲イントロドンできるぐらい好きな僕では冷静に判断できるわけないのですが、同じ気持ちの人がたくさんいることを信じています。

 

しかしながら、生身の彼女を始めて目の当たりにして、それでも彼女のつかみどころのなさは一層増してしまったような気がしています。MCとか見てるとお喋り不器用なオタク美人にも見えるのに、ひとたびイントロが流れ歌を歌えば音楽に愛された天才としか思えないし、歌詞は人懐っこく愛らしいのに心に刺さる。二面性、というか、才能とキャラがチグハグ、という感じです。

 

「憧れは理解とは最も程遠い感情」というのは我らが藍染隊長*2の台詞ですが、このライブで彼女への憧れは一層増し、より理解ができなくなってしまったのでした。とりあえず、理解できるまで行き続けたい。次が何年後かはわからないけれど、絶対に。

*1:普通に歌ってるだけで二つの声を多重録音したかのような周波数成分になること。音楽においていらない音を削ることは簡単だが足すことは難しいので、倍音のない人より優れていると言われる。やくしまるえつこ氏とかも持っているらしい。

*2:BLEACHを読んでください

Mew Frengers 15th Anniversary @ the garden hall

しっかりとした感想は書かなくても日記程度に書いていこうと思ったのです。

Frengers には本当にいい曲しかないなと改めて思ったライブでした。イントロから心震えて身体が飛び跳ね出す Am I Wry? No から、幻想的かつサビの疾走感も素敵な 156 、Snow Brigade は一番と言っていいほどの盛り上がりを見せ、ヨーナスも思わず観客席にマイクを向けてました。歌えなかったけど。中盤の女性ボーカルをフューチャーしたパートも天使の声二つの掛け合いが美しく、She came home for Christmas でその映像と共に語られる切ない童話のような世界観で美しさの頂点を迎えて涙し、 She Sprider ではワクワクが止まらず手拍子。何気にMewとの出会いはラジオから聞こえてきたこの曲で、イントロから心掴まれて慌てて録音し何度も聞いていた記憶が蘇ります。まだ高校生の頃だよ、怖っ。ラジオの録音の悪さがなんかシューゲーザーっぽくって逆に良かったんですよね。そして最後はいつもの曲。あまりに綺麗な終わりに誰もアンコールは求めずさらりと終わりました。

 

休憩前に最新の曲も含めたセトリもあり、セカンドの大好きな3曲 Apocalypso Special The Zookeeper's Boy も全て聞けて大満足でしたね。1st と 2nd が忘れられない僕のようなファンにはほぼベストのセトリではないかと。Mew の魅力はドラムだよな、と再認識したりもしました。

 

「歳をとると青春時代に聴いた曲しか聞けなくなるらしいですね」

「あ、私それです」

 

という会話が聞こえてきましたが。そうなりたくないなあと思いつつ、Mew はやっぱり 1st と 2nd が良すぎますよね。ね。

打ち上げ花火下から見るか横から見るか。感想

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僕はシャフトには良いシャフトと悪いシャフトしかなくて真ん中はないと思っている。ちなみに良いシャフトは、まどまぎや化物語、悪いシャフトは映画傷物語だ。

結局のところシャフトは放っておくと新房監督の映像実験室になって、映画館よりもどこかの美術展に展示すべきじゃないのかと思うものになるのだけれど、そうならないためには、ストーリーやキャラに物凄い強度がいると思うのだ。
この映画の原作は当時は物凄い強度を持っていたのかも知れないが、今の時代に同じ強度を持たせるためにはアレンジが必要だ。しかしそれはシャフトの映像によるアレンジではなくてストーリーのアレンジが必要だったのだと思う。

結果、米津さんのテーマソングばかりが印象的で、ストーリーは心に残らず、映像実験すらも今ひとつ不発に終わるという中途半端な出来になった。映像実験すら不発なのは「君の名は。」で新海監督のオタク臭を取っ払った川村元気プロデューサーの舵取りかもしれない。名プロデューサーもたまには失敗することはあるよね。

とにかくなずなの可愛さとテーマソングの打上花火以外印象に残らなかった。そしてなずなより戦場ヶ原ひたぎさんの方が100倍可愛いです。

Persona5をクリアしたよ

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出展:http://persona5.jp/sp/
突然、何かの出来事で見える世界が変わってしまうという経験はないだろうか。嬉しいことがあって、世界の全てがキラキラして見えたり、裏切りを疑って、親しく思えた友達が突然得体の知れない生き物に思えたり。そういう心の在り方、すなわち認知の歪みの中を冒険する。それがペルソナ5だ。

このアイディアは小説家ならシリーズとしてずっと使い回せるほどのアイディアだし、ゲームとてこのアイディアをテーマにシリーズが作れるのではないかというぐらい素晴らしいものだと思う。そして、それを軸に、

 

認知の歪みを冒険し、
その歪みの根本となった欲望を盗む
→主人公は欲望を盗む怪盗
→警察や検察が暴けない悪と戦う

 

という形で構造は鮮やかに整理され、怪盗というテーマによって赤を基調にお洒落なUIがデザインされ、怪盗が似合う生き生きとしたキャラが生まれた。またそれが、ペルソナシリーズのちょっとリアル志向で大人びたキャラクターデザインと合っていた。

こんなの、面白くないわけないじゃない!

というわけで、ストーリーの軸が見事なので一周100時間という超大ボリュームでありながらぜんぜん飽きさせないゲームが生まれました。

大衆がネットで多数決の正義を振りかざし、私刑を実行できる今だからこそ、本当の正義は自分の心に聞けというメッセージもまた(こうして言葉にするとチープだけれど)今の時代だからこそ考えなければならないなとリアリティを伴って素直に受け止められます。

今更プレイしておきながら、これは売れるべくして売れたソフトだなと思います。ブラボー。真と春がとても可愛い。

だから、泣くな。 『NieR Orchestra Concert 12018』9月17日夜公演 感想。

とにかく前半のレプリカント部の締めのカイネが良かった。スタンダードに泣ける流れを目指したとのヨコオ氏の言葉通り、あえて動画を使わず抑えたエフェクトのかかったビジュアルで少しずつ積み重ねながら、カイネで一気に動画を解禁して花開く構成。エミール役の門脇舞以さんが「旅は間違いだったかもしれないけれど、もう一度同じ旅がしたい、みなさんに会いたい」と演技というより本当に泣いているんじゃないか、という熱量で紹介しながら、その台詞にかぶせて始まる美しい旋律。静かな前半から弦の響きが力強い後半へ。その演技と、ボーカルと、映像と、オーケストラ。全てが泣かせに来ている反則の構成に、無条件降伏して泣きました。

後半のオートマタ曲達は、動画演出を解禁して、特に文章の演出が冴え渡っていた。ただ、やはりオートマタは虚無感が強いので、レプリカントの方が素直に感動できた。もしかしたら、順番は逆でも良かったのではないかと思ったり。

オーケストラに映像や声優さんの演技は邪道、という気持ちもなんとなく持ちながら行ったのだけれど、ゲーム音楽だからこそそういう演出が素直にできるという贅沢もあるよなあと素直に感動。とにかく抑えた映像がとても良かったのです。

ゲームの表現力が上がり続け、開発費は上がり続け、でもだからこそ、ここまで心を揺さぶるゲームができて、こんなイベントもできてしまう。
ニーアシリーズの一つの完成形であり、これからのゲームはこういう展開を目指していくのだろうな、と思った。

 

ニコ生でタイムシフト視聴できます。

https://t.co/xrRDpRxZu5

 

追記。門脇さんは本当に興奮していて、アンコール前のコメントでも熱い言葉を述べた挙句、本当は最後の最後に残すべき「本当に、本当に、ありがとうございました」を先に言ってしまって共演者を困らせていた。その辺り含めてエミールが乗り移ったみたいでかわいい。

フジロック感想 day2 7/29 Sun

浅井健一 & THE INTERCHANGE KILL 白

寝坊、というかホテルの送迎バスの時間見誤った。炎天下の中歩いたり待ったり。計画性とは。

 

HINDS 赤

良い空気のガールズバンド。テンションが高すぎず低すぎず。そういうの大事。

 

ここで唐突に目次。

 

Awesome City Club

セカオワや禁断の多数決みたいなシェアハウスで男女がいかがわしい感じのリア充お洒落バンドかと思ってたら以外とすごい真摯で、真面目感溢れるステージでした。サブボーカルの女の子がちっこくて可愛い。その真面目さが音楽性にも現れてる感じがして、とても綺麗で考え抜かれてて踊れるが、優等生すぎる感じもしたりも。

とはいえ、期待以上でした。

 

serpentwithfeet 赤

色々迷ったが。今回はレッドで雨宿りする妥協プランで行く。僕はSIKEI MUSICという昨今珍しい音楽レビューブログのファンだが、そこの管理人のファラさんが絶賛していたので聞いて、その勢いでライブにも来たのである。

まあ、まだキャリアが長いわけではないので、すごい驚きのあるライブというわけではないが、大音量カラオケと、キーボード(音色はほぼピアノ)弾き語りを行き来しながらものすごい熱量のボーカルを聞かせるライブだった。

いい感じに神聖な気分になったところで「ボブディランに行ってこい」と言いたげに早く終わったので全部見てからゆうゆうと移動。助かった。

 

ボブディラン 緑

雨は降らずとても景色が美しい夕暮れ時。ボブディランは少しフライングで登場した。

ひたすらピアノを弾きながら喋っていた。ほとんどメロディは聞こえなかったし、予習した曲を演っても全然わからなかった。
しかし、その演奏はとても気持ちの良いロックで、決して古くなかった。というか、古い曲を「今はこんな感じのアレンジがかっこいい」という形式でやってるんだから、古いわけがない。しかしそれを、77歳まで続ける意欲というのはちょっと想像ができない。

夕焼けに染まる世界の中、少しうつらうつらしながらボブディランの演奏に酔いしれた。とにかく媚びないで今一番かっこいいと思う演奏をして、フェスに過剰に合わせるわけでも無視するわけでもない絶妙なセトリで、ステージを無言でやり切った。最後はメンバーと手を挙げたが何も言わなかったし、あんまり正面見てなかった。彼がただの偏屈なおじいちゃんだったのか、未だ世界に牙を剥くロックスターなのかは、未だによくわからない。しかしケンドリックラマー同様、何か凄いものを見たという感覚だけが残った。

 

vampire weekend 緑

今の最強、ヒップホップのケンドリックラマー。
古のロックスターでノーベル文学賞受賞のボブディラン。
……でもやっぱり、僕はこういう捻くれて知的でクールなロックバンドが好きだなー(今の流行りじゃないけど)と実感したvampire weekend。彼らがいてこそ僕の今年のフジロックは完成した。
とにかく楽しいし乗れる。オルガンとかパーカッションとかアフロ要素入れたりすごい工夫してるのに不思議と頭でっかちになってなくて気持ちよく、心の底からハッピーになれる。
そして僕の斜め右前には可愛い女の子がいて、曲がかかるたびに「きゃーこれ好きな曲!」と喜んで友人か彼氏か分からない男の子とハイタッチしたりハグしたりしてる。素晴らしい。素晴らしい光景である。頼む。変わって。
そんな彼女は Cousins のリフがなった瞬間、遂に感極まって最前に向かって突っ込んで行ってプチモッシュに揉まれていきました。マジでこの曲かっこいいもんね。しかし、ちょっと切ない。
まあこんな可愛い子を虜にする彼らの音楽は、身体と頭の両方で気持ちよくなれるように設計されていることがよく分かった。頭で「ここでこの楽器とこのビート入れてくるの凄いんだよな」とか考えながら身体はすでに乗っている。普通どっちかだけで相反する要素ですらある気がするのに、凄い。

文句なしのベストだった。メンバーとの離反で新しいアルバムなしでフジに戻ってきた引け目があったみたいで、ゲストボーカルを加えたり、面白いカバー曲のセッションでダンするフロアちっくにしたりとても工夫してくれた。その上「アルバムが出してまたツアーにくるよ」と約束してくれた。また必ず聞きにくるよ。

 

CHVRCHES

疲れたフジロッカーたちの身体と心に染み渡る、クールかつキュートなエレポップ。声も見た目も超絶可愛いボーカル。超満員で見るの諦めましたが、ちょっと聞いただけで沁みました。フジロックも終わるな、というクロージング感とあまりに合いすぎていたし、過去のライブ画像よりドラムを出して音を厚くしてたり実はかなりいいライブだった気がしていて、最後まで聞かなかったのを少々後悔している。

 

というわけで今年のベストは文句なくvampire weekend である。しかし、彼ら単独というより、ヒップホップとロックのレジェンドを連続で観れた上で自分の好きな音楽が何か再確認する流れがとても良かった。まるで僕のために設計してくれたかのような特別感あるフジロックでした。フェスの流れそのものを気に入ったのは初めてだな。

雨の中、巨人のように大きく一人佇むケンドリックラマー。
偏屈な老人なのか誰にも媚びない孤高の天才なのか、掴めるようで掴めないボブディラン。
そしてVampire Weekendで曲が鳴る度飛び跳ねハグしハッピーに踊る可愛い女の子。
それら全てが尊い。音楽は最高だ。