きらきらひかる/江國香織

きらきらひかる (新潮文庫)
とある女の子が「冗談抜きに人生、ってか生き方が変わった一冊です☆」というので、読んでみました。最近サスペンスばっか読んでたし。恋愛小説でも読みたい気分だったので。内容にも触れるので・・・ここからは読みたい人だけどうぞ。
有名な人のはずなのに、この人の本を読んだのは初めてです。文章は、瑞々しく、透明感あふれているんだけど、どこかそっけないところも感じられる、まるで魅力的な女の子のような質感でした。


ごくおおまかにいえば、同性愛者の夫と、精神病の妻の結婚生活の話です。ぱっと見、全然一般的な状況ではないのですが、不思議と、僕はこれを純粋にただ二人の恋愛小説として読んでいたような気がします。確かに、妻の笑子はよく泣くし、人より不安定です。でも彼女、とても人間らしいんですよ。あったかい。それにもともと、不安なんて、いつも明確な理由があって訪れるものじゃないですよね。夫がやさしくて、今の生活に何一つの不満は無いようでも、不安は、光に相対する影のように、あたり前のように、隅っこで体育すわりをして座ってるんです。それに怯える彼女は、何も僕と違いません。むしろ、泣きたいところで、思いっきり泣いてくれるから、僕はもっぱら彼女に感情移入して話を読んでいました。


ただ、この小説、「なんとなく分かるような気もするけどやっぱりよく分からない」ところも多かったです。とくに、夫、睦月の恋人の紺君の存在。奔放な彼は、睦月にも、そして笑子にも好かれます。そして、睦月のいない時間帯に笑子に会いに来ます。笑子はよく彼の話を睦月にせがみますが、その中の彼はむしろ僕も惚れてしまいそうなくらい魅力的です。この小説のラストにも紺はしっかり笑子と睦月のそばにいます。うまくいってるけど、今にも崩れてしまいそうな関係です。


紺は、いったい何なのでしょう。この小説にぽつんといる、そのくせ圧倒的な存在感をもつ彼は。「なんとなく分かるような気もするけどやっぱりよく分からない」ので、今の僕ではうまく言葉にできません。けど、これから恋愛経験を重ねていくうちに分かるようになるのかな・・・とそんな漠然とした気持ちは感じてます。


結局、あとがきの江國香織さんの言葉なのかな。

ごく基本的な恋愛小説を書こうと思いました。誰かを好きになるということ。その人を感じるということ。人はみんな天涯孤独だと、私は思っています。

素直に言えば、恋をしたり信じあったりするのは無謀なことだと思います。どう考えたって蛮勇です。
それでもそれをやってしまう、たくさんの向こう見ずな人々に、この本を読んでいただけたらうれしいです。

この世界は、「向こう見ずな人々」だらけですね。まるで笑子みたいな。紺みたいな。睦月みたいな。


この世界は、僕が思ってるよりも、もっとずっと美しいのかもしれませんね。