coup d’Etat/syrup16g

coup d’Etat
もっともsyrup16gの作品の中でロックしていると思われる作品が、この「coup d’Etat」。
言葉の鋭い刃も冴え渡っている。はじめの曲の出だしから、

愛されたいなんて言う名の 幻想を消去して

なんて歌うバンドは、きっとsyrup16gだけだ。


このアルバムにあるのは、単純な悲しみでも、ネガティブでもない。憂い、衝動、普通すぎる日常、電車の窓から見える夕陽の美しさ…それらが、ごちゃごちゃになって、ただの感情として詰め込まれている。だからこそ凄まじくリアルで、僕らの胸に刺さってくる。

最新ビデオの棚の前で 2時間以上も立ち尽くして 何も借りれない
何を借りればいい 何本借りればいいんだ 何を借りればいい

こんな歌詞を読んで、あなたは笑うだろうか。僕は笑わない。どうしようもない気分の時とは、こういうものだと思う。何も考えられないまま、それをどうにかしようとして、あげく自分は借りるビデオすら満足に決められない。なんてリアルだろう。


僕は、syrup16gの中でこのアルバムが一番好きだ。歌詞の鋭さはもちろんその音楽自体も、ROCKの色が強く、素晴らしく格好いいものになっている。ドラムは、キレのあるリズムを奏で、ベースはメロディアスで饒舌だ。そして五十嵐さんの紡ぐメロディの美しさと強さ。一曲のいろんなところではっとさせられる。曲ごとに言えば「ハピネス」のメロディの美しさや「神のカルマ」のベース、「空をなくす」の疾走感などが特に好きだ。


ただ、一曲一曲の完成度が高く詰め込まれている内容が濃すぎるが故に、アルバム単位で聴くと疲れてしまうので、全体のバランスは「HELL-SEE」の方が素晴らしいかもしれない。しかし、それを差し引いても、このアルバムは本当に素晴らしい。


前を向くことは必要だ。立ち止まっているだけはいけないのも分かってる。でも僕らには、焦燥感につつまれて、どうでもよくなる時がある。そんなときは、「coup d’Etat」のようなROCKのCDを一枚もって、ドライブをしよう。行き先はどこでもいい。感情の説明も分析もいらない。そのままで、ただ走れ。五十嵐さんとともに、大声でこの歌詞を口ずさみながら。