帰り道

朝、乗りたかった電車を逃した僕は、駅の椅子に座って本を出す。
「The Catcher in the Rye」の村上春樹訳。
BGMはチャットモンチー、すると、ホールデン少年の皮肉すら爽やかに聞こえた。


今は夜。僕はおもむろに本を取り出して、また読み始める。
BGMはトムヨーク、すると、ホールデン少年の皮肉の裏に隠れる寂しさが見えた。


いつのまにか眠ってしまったようだ。


ふと顔を上げて、電車の窓から外を覗けば、
それはどこか知らない場所のような、よそよそしさを持っていた。
つないだ手に、温かくて甘い匂いが残っていた。


自転車に乗る時には、いつもとっておきの一曲をかける。
ヘッドフォンから、ピアノのリフレインが厳かに零れ落ちていった。
薄い雲が星を隠して、半分を欠いた月だけが、寂しそうに夜道を照らしていた。