朝目覚めたとき、少年の身体には、不思議な力がみなぎっていた。
そんな突拍子もない冒頭から、始まる物語があるとしたら、君達は聞いてくれるだろうか。
長い長い夢を見た。
そこで僕は、6番目の街の20番地にある映画館にいた。
劇場には僕一人だけが居て、スライドは僕の過去を淡々と映し出していった。
始めは、ノスタルジーだった。
けれどそれはだんだんと、違和感に変わっていく。
悩んで、考えて、苦しんで、楽しんで、僕はここにいる。
普通な人間のように時々狂い、狂ってしまいそうなくらいの普通を生きていた。
いつしかその少年のこぶしは難く握られていた。
いままで無音だった映画館に、突然流れ出す音楽。
そのギターの残響音で、スライドは軋み、画面が乱れていく。
そうだ、ロックンロールをしよう。
朝目覚めたとき、少年の身体には、不思議な力がみなぎっていた。
長い長い夢から覚めて、少年の目はいつになく醒めていた。
僕には、今すぐしなければならないことがある。
少年は楽器を何一つ弾けなかった。
少年は歌がうまく歌えなかった。
それでも、ロックンロールは手を広げて、少年を待っていた。
少なくとも僕にはそう見えた。
黙々と何かを書き殴り始めた少年の目に、迷いはない。
ロックンロールの予感が、確かにそこにはあった。