ほんとうのおはなし

金曜日の朝、多少くらくらしながら、母親の声を聞いた。
彼女は「もう今日はいいの?」と言っている。
その言葉に含まれる微妙なニュアンスを嗅ぎ取って、僕は即座にベッドから起き上がり、
時計を見ると、無常にも八時十分を指していた。


どうして目覚まし時計をセットしなかったのか。
僕はそこから昨日の夜という記憶の糸を辿りよせていく。


すると、一つの大きな記憶の欠落に気がついた。
パソコンの前に座って、記事を更新した後からの記憶がない。まったくもって抜け落ちている。


僕はその更新ボタンをクリックした後、すぐ眠るつもりではなかったはずだ。
録画しておいたくるりのライブから、「ハイウェイ」と「惑星づくり」だけ見て、
(そのライブは母親の個人的な都合で消されそうだったので、見納めにしたかった)
歯を磨いてから眠るつもりだったはずなのだ。


朝ごはんを無機的な動作で口に詰めながら、
僕の記憶の抜け落ちについて、合理的な理由を付けようとした。浮かんだ仮説は以下の三つ。


思い出せないだけ。忘れるのは人間の素敵な能力。
ブログ更新後、そのままパソコンの前で寝てしまった。
その後夢遊病的に二階に上がってベッドに入った。
父さん、僕がキラかもしれないんだ。


この仮説たちから、僕は検討に検討を重ねた。
起きた時間から考えてニ限には間に合ったのに、それすら遅刻するぐらいの吟味をした。
はなまるマーケットでは、薬丸君がトイレ掃除について熱く語っていた。


単純に一番可能性のあるのは、の仮説だ。僕は身体を休めたいと言う本能を発達させすぎて、
(きっと受験生の頃から、夜三時まで曲を作っていたりとか、夜更かし癖を持っていた弊害だ)
明らかに起き上がらないと届かない目覚まし時計を、無意識の中で止めることができ、
「そろそろ起きなくていいの?」という母親の忠告に無意識下で「いいよ」と、言える人間だ。
(その返事は起きている時の声よりもはきはきしているらしい)


しかしながら、僕の中ではある一つの可能性が、理屈ではなく心を占めていくのを感じた。
僕は、ある白くて骨ばった薄気味悪い造型の物体に、しきりに問いかけていたのだ。



「あなたが神か?」