ぱんぱん
（一万円でなにを……）
「何ィ！？」
「一万円でそんな願いでいいのか―――」
「これ以上何を望むというのです？」
「………」
この冒頭を読んで、何の漫画か分かった人は、きっと僕と話が合うことだろう。
そう、僕らの世代の青春漫画「あずまんが大王」。
今ディスプレイの前で軽やかに引いた人達に向かって、この漫画の四コマとしての完成度を、
熱く語ることももちろんできるのだけれど、今日の話はそこがメインではないのだ。
話は昨日の夜に遡る。
去年僕から女の子に送ったメールすべてを、ポアソン分布で近似すると、
送信宛の95%を占めるという結果がはじき出されるであろう女の子、
（今日は確率のテストだったのです）
と一緒にミスタードーナッツにてフリーペーパーを読んでいました。
すると、「各学校で見つけた可愛い女の子」という特集がありました。
そのページを読んでいると、ふと僕の正規分布を標準化した女の子、
（ねえ、今日は確率のテストだったのですよ）
平たく言うと彼女と同じ学校の女の子が載っていたのです。
人というのは大したことない共通点でも、妙に親近感がわくという特性を持っているもの。
当然僕と彼女は、その女の子の方に視線をやります。
その下についている、定番の質問なんかにも目を通します。
これで好きな有名人の欄にELLEGARDENとか書いてあったら、
僕と彼女とその女の子は、F分布において危険度95%でほぼ「友人」と近似できるだろうな―――
（まあ、確率のテストがつまりは解けなかったんですよ―――）
そんなことを思いながら、僕は質問欄に目を通した。
Q8.ひとつだけ願いが叶うなら？
世界中のみんなが幸せになれますように
僕の心は、それはもう螺旋状にくるくるくるくると落下していった。
F分布もポアソン分布も正規分布もくそくらえ、これじゃあ、あまりにも…
「これは、一番ダメな答えだよね」
と言った隣の彼女に、真剣な顔をして頷く僕。
頭の中に浮かぶのは、勝利の笑みを浮かべているその女の子。
他の女の子の「セレブになって一生楽に暮らす」とかいう
これはこれで薄っぺらい答えを横目に、勝利の笑みを浮かべている。
そして僕のほうを向いてその子は言うのだ。
「あなたみたいに、確率のテストもろくにできない馬鹿にも、幸あれ☆」
※
というわけで、世界平和とかそういうのは、 マザーテレサとかジョンレノンとか以外の、
一般の方は軽々しく口に出しちゃ行けないと思いました。
と、上の二行で締めた日記を、僕はいつものように某所（mixi）にて書いた。
もちろんみんなの共感を得るためだ。いつもは面白いけどよく分からないと言われる俺の思考。
でも、今回ばかりは共感してもらえるに違いない！
「世界平和祈っている私って、めっちゃいい子じゃん」
そんな打算を踏み潰してくれるに違いないのだ。
（以下コメント欄より抜粋）
Aさん:
「みんなが平和になれって思ってんだー☆私ってめちゃいいコじゃーん♪」
って計算してるわりに、ミエミエなところが、人間味を感じれてむしろ好感を覚えるよー。
Bさん(女癖の悪さで有名）:
なんてひねくれた奴だｗｗ
俺はガチで世界中の人が幸せになればいいと思うことがあるんだが…
あれ？なんか意外とみんな冷静なご意見。
Aさんなんか、俺よりちょっとひとまわり器の大きい意見を展開していらっしゃる。
Bさんとか、それなりに女の子を泣かせてきた経歴の持ち主のはずなのに、
ガチで思うことがあるとか、おっしゃられています。
極めつけは、今日の朝、そのフリぺの編集者の子に言われた台詞。
「その子、天然だから。
割と本気でそういうこと言っちゃてもおかしくないキャラらしいよ」
天然か…その考えはなかった。
天然少女は僕の中にキャラ設定の概念としてなかった。ツンデレしかなかった。
そんなもろもろを頭に抱きながら、もう一度そのフリーペーパーを覗いてみると、
なんだか確かに目がちょっと天然っぽいように見えてこなくもない。
そうか、この人は冒頭で引用した「あずまんが大王」で言う、木村だったのか。
いや違う、むしろ木村の奥さんだったのか！
なんだかそういわれてみると、そんな風にしか見えなくなってきた。
僕の頭にはさっき思い浮かべた場面とは対照的な、
その子が「転がっていく空き缶を拾おうとして、柱に頭をぶつけるシーン」があった。
そ、そんな天然天真爛漫純粋少女みたいな目で僕を見ないでくれ。
違うんだ、疑ったわけじゃない、違うんだ。僕はやってない―――
Cさん:
その彼女の願いは確実に１番に叶えてほしいことではないね。
しいて言うなら100番目くらい。
というわけで、今日から僕も、
「世界中のみんなが幸せになれますように」と、願うことにします。
234番目の「朝ごはんの味噌汁の中にわかめが入っていませんように」と、
236番目の「朝ごはんのトーストは茶色くなるまで良く焼いてありますように」の間ぐらいに。
―――みなさんにとっての世界の幸せ、何番目ぐらいの願いですか？
