ディズニーランドへ② ジャングルクルーズノスタルジー

バスが東京に着くと、前方に座っていた高校生と思われる集団が歓声をあげ、カーテンを開けた。
僕の隣のトトロじゃない誰かさんは、そんな彼らを一歩引いた目で見ながらも、
わくわくしていることが、体中からひしひしと伝わってきた。
僕はといえば、夜じゅうずっと、昨日クリアしたMOTHER 3のことを考えていたのでとても眠く、
(脳内BGMとして、ぶたマスクのテーマが流れ続けていた)
ディズニーランドのバス停にとまるまで、ずっと夢と現実の間を行き来していた。



ディズニーランドに着いたのはまだ開演前で、空気は刺すように冷たい。
ぎりぎりまでバスの中に居させてくれなかったことに、行き場のない怒りを抱きつつ、
開演までの間、レジャーシートの上に体育座りして震えながら待ち続けた。
さすがに周りの人たちも、あまりの寒さにローテンションを隠し切れないようだった。


しかし、門の前にミッキーやミニー達が現れると態度は一変し、女の子達は歓声をあげる。
これがミッキーマジックというやつなのだろうか。
トトロじゃないお隣さんの方を見ると、少し元気が出たようだが、周りほど豹変してはいなかった。
大丈夫、だからって女の子らしくないなんてことはないから。


しかし、ミッキーのしぐさがすごくミッキーっぽくて、その可愛さにむず痒い気持ちを覚えた。
それが最高潮になったのは、ミッキーとミニーがキス(といっても鼻キスだが)をし、
手を口の辺りに持って言って「恥ずかしい…」というそぶりを見せたときで、
可愛い、可愛いんだけど、くそ、わき腹に蹴りを入れたくて仕方がないのは何故だあ、と思った。
そういえば、ミッキーとミニーって正式に結婚してたっけな。



そして寒さを考慮し、早めに空けてくれるなんてことはなく、時間通りに開門。走り出す人々。
僕等はとりあえずシンデレラ城をバックに写真を撮り、
それからビッグサンダーマウンテン、ホーンテッドマンション、イッツアスモールワールドを、
約一時間という超短時間で回り終えて、
(乗るときは10分待ちだったのが、乗り終えると60分待ちになっていたりして、
列の横を通り過ぎる僕等は、さぞかしいやらしい笑みを浮かべていただろう)
一息つくと、朝食をパンフに乗っていたものからチョイスして食べる。
未だトトロ的お隣さんの機嫌も悪くならないし、順調、順調。



ところで僕は、ストンと直線的に落ちる系のアトラクションが苦手だ。
あの、身体が一時的にふわっと浮く感覚がどうにも耐えられない。
(逆に、少しでも斜めになっていれば全然怖くないのだが)
よって、ディズニーランドの中では、スプラッシュマウンテンが怖くて仕方がない。
怖くて仕方がないのに、意気揚々とファストパスをとるトトロ(でいいやもう)を見ていたら、
やはり乗るしかないのかという絶望感に苛まれた。


そしてその恐怖をトトロ(でいいのか)に伝えると、持ち前のいじめっ子根性を発揮して、
僕は必要のないアナウンスを聞きながらスプラッシュマウンテンに乗る羽目になってしまった。
一部抜粋するとこんな感じだ。


「え、いきなり落ちるの?」「落ちるよーいきなりだよー」
「またですか、もう無理なんだけど」「まだまだ先は長いけどね☆」
「止まると怖い、止まると怖い」「ほらー遂に落ちるよ怖いよー」


もう二度と乗らない。何が夢の国だ。



そして僕がやたらこだわったスタージェットのせいで、微妙な不機嫌も挟みつつ、
(というか前でハンドルを握って上下できないと全然面白くない)
昼のパレードを見たり、夜のショー「シンデレラの戴冠式」を見たりしながら、
くたくたになって一日目のランドは終わった。



一番乗りたかったスペースマウンテンは改装中だし、
一番見たかったカリブの海賊は休止中で、
一番好きだったシンデレラ城ミステリーツアーはなくなっていて、
一番感動したエレクトリカルパレードもなくなっていたが、
それでもディズニーランドはなかなかに楽しかった。


そして小学生の頃に行った記憶は、予想以上に僕の脳に染み付いていたらしく、
ランドの空気をいっぱいに吸い込むと、吐く息には懐かしさが混ざっていた。
家族連れの僕等の前で終始べたべたしていた、白いコートのカップルと同じ側に立って
ランドを回ることになるとは、幼い頃にはまったく想像できなかったことだ。


一番ノスタルジーに浸れたのは、ジャングルクルーズに乗ったときだ。
昔は満員御礼だったが、今は時代遅れの設備のためかあまり待たずに乗ることができ、
それがとても、決定的な変化に感じられた。
ガイドの人は、何故かローテンションな人だったが、
「あのシマウマはとても珍しい種族です。なんと、目と耳しか動かない種族なんです」
と設備の古さを自虐して笑いを取っていて、僕はそれにウケながらも、少しだけ切なくなった。
いつかここに再び来た時にも、僕は煙草をふかしながら、こんな気分を味わうのかな。



さてと、宿に帰るまでが遠足だったっけか。
これから、僕等の二人のうちの主に僕が、とてもしんどい目にあうのだが…


それはまた、別の話。