4月1日

殺風景な景色の中に、ぽつんと白い門が立っていた。
それはぼろぼろな様相を呈しており、
今にもぽきんと折れてしまいそうだった。


しかし、その門をくぐろうと、たくさんの人が並んでいる。
何故かといえば、20歳の誕生日にその門をくぐると、
「キタナイオトナ」にならないで済むという言い伝えがあるからだ。


ただし、ただ門をくぐるだけではいけない。
くぐる時には、すべての嘘を捨てることを決意する必要がある。


正直なところ、私はまだ、決意できないでいた。
だいたい、すべて嘘を捨てれば「キレイナオトナ」になれるなんて、安易過ぎる気もするし。


私には恋人がいて、どうしても守りたい嘘が一つだけあった。
それを捨てることができないまま、列はどんどん進んでいく。
ぼろぼろでありながら、強い存在感を放つ門が、太陽光を反射して白く光り、
まるで私達を見透かして、断罪している神様のようにも思えた。



遂に私の番がやってきた。


だめだ、まだ一つ嘘を抱えたままだ。
このままじゃ「キタナイオトナ」になってしまうかもしれない。でも…


「早く行けよ!」


後ろにいたがたいの良い男が、私を突き飛ばした。
それに抵抗するすべを私は持たず、瞬間、私は門の向こう側にいた。


ああ、遂に捨て切れなかった。あの嘘を捨て切れなかった。
しかし、不思議なことに、私の視界は白く眩しく光り輝いていたのだ。



その視界のきらめきは一瞬にして消え、私はくぐり終えた人達の中にいた。
不思議なきらめきを目にした人もいれば、そうでない人もいる。
それは、人々の反応から明らかに分かってしまった。


どうしてだろう、嘘は一つも持っていってはいけないはずなのに。
なんで私はキラキラを目にすることができたのだろう?



やがて彼氏が迎えに来て、私は車の助手席で揺られていた。



「しっかしお前、ああいう言い伝え好きだよな。どうせ何もなかっただろ」
「ううん、そんなことない。私は『キレイナオトナ』になれたみたい」
「『キレイナオトナ』ってなんだよ。まったく。俺は信じないぞ」
「このひねくれものー」


「なあ、俺はずっとお前のこと好きだからな」
「今日はエイプリルフールだけど。いやがらせですか?」
「違うって!エイプリルフールってのは、嘘をついていい日なんかじゃねえよ。
嘘が許される日なんだ…って、ばあちゃんが言ってた気がする」


ああ、そうか。やっと分かった気がする。
だから、許されたんだね。


「どうした、急にぼーっとしちゃって」
「ううん、なんでもない」
ならいいけど」
「ねえ、私もずっとあなたのことが好きだよ」
「そんなことあるわけないね。この世に永遠なんてないんだから」
「最初に自分が言ったくせに!」