殺風景な景色の中に、ぽつんと白い門が立っていた。
それはぼろぼろな様相を呈しており、
今にもぽきんと折れてしまいそうだった。
しかし、その門をくぐろうと、たくさんの人が並んでいる。
何故かといえば、20歳の誕生日にその門をくぐると、
「キタナイオトナ」にならないで済むという言い伝えがあるからだ。
ただし、ただ門をくぐるだけではいけない。
くぐる時には、すべての嘘を捨てることを決意する必要がある。
正直なところ、私はまだ、決意できないでいた。
だいたい、すべて嘘を捨てれば「キレイナオトナ」になれるなんて、安易過ぎる気もするし。
私には恋人がいて、どうしても守りたい嘘が一つだけあった。
それを捨てることができないまま、列はどんどん進んでいく。
ぼろぼろでありながら、強い存在感を放つ門が、太陽光を反射して白く光り、
まるで私達を見透かして、断罪している神様のようにも思えた。
遂に私の番がやってきた。
だめだ、まだ一つ嘘を抱えたままだ。
このままじゃ「キタナイオトナ」になってしまうかもしれない。でも…
「早く行けよ!」
後ろにいたがたいの良い男が、私を突き飛ばした。
それに抵抗するすべを私は持たず、瞬間、私は門の向こう側にいた。
ああ、遂に捨て切れなかった。あの嘘を捨て切れなかった。
しかし、不思議なことに、私の視界は白く眩しく光り輝いていたのだ。
その視界のきらめきは一瞬にして消え、私はくぐり終えた人達の中にいた。
不思議なきらめきを目にした人もいれば、そうでない人もいる。
それは、人々の反応から明らかに分かってしまった。
どうしてだろう、嘘は一つも持っていってはいけないはずなのに。
なんで私はキラキラを目にすることができたのだろう?
やがて彼氏が迎えに来て、私は車の助手席で揺られていた。
「しっかしお前、ああいう言い伝え好きだよな。どうせ何もなかっただろ」
「ううん、そんなことない。私は『キレイナオトナ』になれたみたい」
「『キレイナオトナ』ってなんだよ。まったく。俺は信じないぞ」
「このひねくれものー」
「なあ、俺はずっとお前のこと好きだからな」
「今日はエイプリルフールだけど。いやがらせですか?」
「違うって!エイプリルフールってのは、嘘をついていい日なんかじゃねえよ。
嘘が許される日なんだ…って、ばあちゃんが言ってた気がする」
ああ、そうか。やっと分かった気がする。
だから、許されたんだね。
「どうした、急にぼーっとしちゃって」
「ううん、なんでもない」
「ならいいけど」
「ねえ、私もずっとあなたのことが好きだよ」
「そんなことあるわけないね。この世に永遠なんてないんだから」
「最初に自分が言ったくせに!」