The Boy With No Name/Travis

(これは、5/11に書かれた記事です。諸事情により日付を移してあります。)
ザ・ボーイ・ウィズ・ノー・ネーム
かなりの期間、活動を休止していたTravis。久しぶりの5作目。


前作目の「12 Memories」でシリアスすぎるメロディや、大げさな演奏など、少し自分達のよさを見失った感があったTravis(まあそれはそれで、いつもと違うカタルシスがあったから個人的には好きだけれど)。しかし、今回は長期の休暇が良かったのか、自分達の良さをもう一度見つめなおしたような作品になった。


シングル「Closer」を聞いてみれば分かると思う。切ないながらもどこかあったかいメロディと、それにそっと寄り添うような優しいアレンジ。世界的に売れているバンドなのに、こうやって目の前でそっと弾き語りで歌ってくれているような、プライベートな感覚を保っている。


Coldplayは、世界的に売れた後の周りの環境の変化に、曲のスケールを大きくすることで対応した(そうすることでTravisと違いアメリカでも受けた)。しかしTravisはそれとは正反対に、愚直なほどただの「いい曲」にこだわった。人によっては地味だの、優等生的だの、変化がないだのと批判するかもしれないが、それがこのバンドの良さなのだ。


その上、今作は僕が愛してやまない、「The Man Who」の雰囲気すら髣髴とさせる。あの暖かみと冷たさが共存したような、ただのいい曲をそれ以上の何かに変えてしまう魔法。さすがに完全に取り戻してはいないものの、ところどころで感じるのが、うれしい。


おすすめ曲は、元気の良いビートに切ないアルペジオが絡む「Selfish Jean」、耳元で囁くかのようなコーラスに溶けそうになる「Closer」、ベースラインとピアノが印象的な「Big Chair」、暖かいアコギに冷たい電子音が絡む「My Eyes」などだが、すべての曲が美メロなので、こんな紹介は無意味なのかもしれない。


欠点といえば、一聴しただけで心を奪われるような一曲がないことだろうか。しかし、一回目より二回目、二回目より三回目とどんどん良くなっていく、そんな美しすぎるメロディ。これが枯れない限り、僕は彼らを聞き続けていく。