ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序

僕が何気なく学校の構内に置いてあったフリーペーパーを取ると、よくあるアンケート――「デートの時、どんな映画を見る?」の集計結果が載っていた。まあそれはアクションだのホラーだの恋愛系だの、よくある結果だったのだけど、欄外にさりげなく書いてあった言葉を見つけたとき、目を丸くした。


「オタク系アニメ映画……これは、ありえないよねー!!」


というわけで、まったくと言っていいほどオタク要素のない彼女を無理やり連れて、「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」を見たときのことについてそろそろ書こうかと思います(ちょっぴりネタばれアリ)。


……僕はありえなくなんかない。


結論からいうと、最高に面白かったです。特に「EVANGELION:1.0 YOU ARE (NOT) ALONE」のスライドに挟まれた後の後半がすごかった。一応アニメも一通り(友達から借りたビデオで)見たし、漫画は全巻持っているからストーリーは全部分かっているのだけど、それでも文字通りに「手に汗握り」ながら結末を見守ってしまった。


そして誰一人エンドロールの途中に席を立つ人はおらず、皆余韻に浸っていたように思えた(これはただ、ミサトさんによるTV風の次回作予告を見るためかもしれないけれど)。次回作はどうやらさらに原作と離れていくようだ。


しかし、逆に言えば、今回の「序」は細部にいろいろ細かい変更点はあるけれど(詳しい分析は新劇場版Wikiへ)、物語の大筋は変わっていない。しかし、抱く印象は大きく違う。なかでも、一番大きいのは「シンジ君が格好いい」というところだろう。そう、今回のシンジ君は紛れもなく格好いいのである。


別にアニメ版のシンジ君と同じように、等身大で逃げ腰なところは変わらないのだが、劇場版のシンジ君は「腹を括る」。ただ流されるようでいて、その状況をどこかで受け入れ前を向くそぶりが見られるのだ。だから、一度狙いを外した後に、もう一度ポジトロンライフルを構えるときの彼はとてもりりしかった。純粋なルックスを見ても、ちょっとだけ格好よく設定されてるような気がする。今の時点で人気投票が行なわれたら、綾波ではなくシンジ君が一位を取るかもしれない。


そもそも、エヴァという作品は、革新的で奇抜なイメージがあるけれど、その実結構ベタな要素もあると思う。よく分からないけど、とりあえず襲ってくるし、倒さないと世界が終わるという生命体――使徒。そしてそれを迎え撃つ巨大ロボット――エヴァ。さらに、乗るのは10代の子供。この三つの要素は、ある意味ベタで、いやらしい言い方をすれば「ジャンプに載って人気が出そう」と言ってもいい設定である。いや、ジャンプよりはガンガンあたりのが適切かもしれないけれど。


でも実際のエヴァは、その三つの要素だけ取り出すイメージとはかけ離れて暗い。どろどろしていて、どこか殺風景。だから僕は、とてもこの作品はひねくれた作品だと思う。王道に出来うる設定を、演出などを駆使して、どこか暗く内面的に仕上げているのだから。


それがエヴァの良さ、と言われるとそのとおりだと思うんだけど、僕はときどきこの作品に「やりすぎじゃないか」という感情を抱いていた。つまり、もう少しベタに見せる部分もあっていいんじゃないかなと思っていた。


そこで、今回の劇場版だけれど、僕がどこか感じていたその不満がまったく感じられなかった。つまり、今までどおり人物の内面描写を丁寧にしながら、見せ場は見せ場らしく描かれていて、その中心にいる主人公は、やはり主人公らしく「格好よく」描かれていたのだ。だから僕は、この劇場版でエヴァを本当の意味で好きになった。


確か、るろ剣和月先生だったと思うのだけれど、エヴァの映画の感想を求められて、「展開はともかく、製作陣がエヴァを愛していないということが伝わってきて悲しかった」と言っていたことがあった(ソースが思い出せないから、記憶違いかもしれないけれど)。僕はなんとなくなるほどなあと思ったんだけど、今回の映画はそれに関してはまったく逆だと思う。「製作陣からのエヴァへの愛が伝わってきて気持ちがよかった」映画だと思う。


長々と語ってしまったが、「シンジ君が格好いい」だけじゃなく、テンポよくサクサク進む展開や、書き込まれたメカの金属的なきらめきは、もう文句なくロボットに憧れた少年の心を思い出させるし(こんなにメカを格好よく思ったのは「ゴジラVSメカゴジラ」以来だ)、今回のラスボス、ラミエルはもうやたらキラキラしてて青くて、幾何学的造型なのに生物みたいに見えるし……隅から隅まで楽しめる。本当にオススメの映画だ(もうすぐ上映期間終わってしまうのかな?)。



ちなみに、「ある程度ストーリーを知らないと、展開には付いていけない」とそこかしこで言われてますけど、そして僕も確かにそう思いますけど、一緒に見た彼女曰く、展開が分からないことはなかったみたいなんで、「知っている」僕らからの心配は、意外と杞憂なのかもしれません。


ただ、彼女はヤシマ作戦に登場する様々なメカ達には、さっぱり心を揺さぶられなかったとか。やっぱりこれは男の子特有のトキメキなのだろうか……。でも、登場人物の心理描写には共感できたって言ってましたよ。


とにかく、オタクとかオタクじゃないとか、そういうこと関係なく見に行って欲しい、HERO見る前にまず見に行って欲しい、そういう映画です。……けれど、エヴァに興味ない人はきっとこんな長い文章は読んでいないと思うので、この言葉もきっと虚空に吸い込まれ消えていくのしょうね。笑えばいいと思うよ。