"LIVE FOREVER" -The last waltz of Syrup16g- at the 日本武道館(前編)

縦に深い武道館。その南東の席から見下ろす。
スクリーンも何もなく、ただベースとギターとドラムだけが置かれたステージに、syrup16gは姿を現した。


最初の曲は「きこえるかい」だった。僕の席からはシロップは見えない。五十嵐さんは豆粒のようで表情を読み取ることも出来ない。そんな大きなステージ。


だから、シロップは最初の曲に「きこえるかい」を選んだ。僕らひとりひとりとの距離を確認するために。なんて誠実なバンドだろうと思った。マイクの音は大きく、五十嵐さんの声と、その言葉はちゃんと届いた。きこえてるよ。まさか最初の曲から、目に涙を浮かべることになるとは思わなかった。まだ涙を流すのには早かったから、上を向いてこらえた。


曲と曲の間には、とても重たい沈黙があった。みんなが息を呑んで、全神経を集中して聞いていることが伝わってきて、息苦しいくらいだった。座っている人と立っている人が半分ずつぐらいいた。僕は足がつることに気を紛らわせるのが嫌だから、途中から座って見ていた。


「無効の日」、「生活」、「神のカルマ」と、はじめは古いアルバムから盛り上がる曲をやった。やっぱり僕は「神のカルマ」が大好きで、大きく身体を揺らした。直立不動で音を浴びるように聞いている人もいた。そしてその後の「I・N・M」は前半のハイライトだったと思う。ギターとベースとドラムが、そっと一歩ずつ近づいてくるようなイントロと、美しいメロディ。


はじめてみんなの緊張の糸が切れた瞬間は(といっても一瞬だけだが)、「負け犬」だった。イントロに失敗した五十嵐さんが「負け犬だけに」と言って、みんな笑う。ちょっとだけ気持ちがほっとした。


その後、ベースのキタダさんとドラムの中畑さんがステージ奥に下がって、五十嵐さんのアコースティックセットが始まった。これが僕の中でものすごく印象に残っている。「センチメンタル」と「明日を落としても」の二曲。


「つらい事ばかりで 心も枯れて あきらめるのにも慣れて/したいこともなくて する気も無いなら 無理して生きてる事もない」ナイフみたいに鋭い言葉が、五十嵐さんのどこか線の細い声に乗って届くと、どうしてか優しく聞こえてくるんだよなあ。「明日を落としても誰も 拾ってくれないよ それでいいよ」なんでこの言葉がこんなに温かくて優しく聞こえるのか、僕には分からなかった。僕はまた、上を向いた。


「もったいない」から「正常」までの流れは、場の雰囲気も手伝って本当に落ちた。途中で「ex.人間」を挟んでくれなかったら(この曲も決して明るい曲ではないのだが)、辛くなってしまったかもしれない。


ライブではその鋭角的なグルーヴがより心地よい「パープルムカデ」から、やっと盛り上がる曲の流れになり、その後「天才」、「ソドシラソ」、「空をなくす」、「リアル」とライブの定番曲が続いた。僕は席を立ち、身体を思いっきり揺らした。シロップは最高に格好良いロックバンドだって思えた時間だった。それにしてもリアルのライブバージョンはなんてロックしてるんだろうか。


そして三人は一旦下がった。まだ場内は暗いままで、帰りを誘うBGMも聞こえてこない。僕らは拍手しながらsyrup16gの再登場を待った。まだ最新アルバムからの曲を聴いてないよ。


(後編に続く)