"LIVE FOREVER" -The last waltz of Syrup16g- at the 日本武道館(後編)

そして、終わりを惜しむような、長いアンコールがはじまった。


最初の曲は最新アルバムから「さくら」。美しいアレンジと美しいメロディで、今までの全てに唾を吐きかけるような曲。歌詞が今のシロップの姿と重なる。「これはこれで青春映画だったよ 俺たちの」そんな風に言ってのける。でも、僕はなにか違和感を感じた。本当に、これがシロップ最後の答えなんだろうか。なら、なんでこんなに歌声が美しいんだろう。


次の「ニセモノ」でも、その思いは増していった。曲が終わると、「お前らは本物だ!」と叫んだ人がいた。その人もきっと、僕と同じ違和感を感じていた気がする。「さくら」、「ニセモノ」で歌われていた言葉が、今の五十嵐さんの気持ちなら、この曲がこんなに格好良いはずがない。


(この後だったか、いったん、シロップはステージが下がった気がするのだが、僕の気のせいだろうか。僕はアンコールは四回だったと記憶しているのだけど、これはシロップの終わりへの未練がもたらした、ただの記憶違いだろうか)


その後は、まさかの新曲。こんなタイミングで新曲とは彼ららしい。シロップのすべてを出し尽くして終わる、ということだろうか。その後も最新作の曲がどんどんプレイされる。どの曲もまるでこのタイミングで鳴らされるのを待っていたかのような、さよならがいっぱいの歌詞で、どこかいびつで、でもどこか優しい。


そして、「scene through」が鳴らされたとき、僕は「syrup16g」というアルバムの曲に感じていた違和感の正体に気が付いた。「心の中に 答えの中に 確かなものは 何一つ無い」この曲のサビの言葉だ。でもこの歌詞を歌うメロディは、少し上ずった五十嵐さんの歌声は、まるで、確かなものを見つけたかのように、キラキラしていて美しい。違う。本当に「確かなものは 何一つない」のなら、こんなメロディがでてくるはずがないんだ。


やっと僕は、この曲の本当の姿が見えた気がした。「確かなものは 何一つないのに」その、付け加えられた「……のに」の意味するもの。五十嵐さんが「ラララ」と歌いだす。僕も小さな声で、「ラララ」って歌った。僕がこのライブで、一番感動した瞬間だった。いつまでも、この曲が終わらないで、ずっと、一緒に歌っていたいと思った。


しかし曲は終り、シロップはまた下がる。あと何回アンコールしてくれるんだろう。次の曲はまさかの「She was beautiful」だった。「COPY」で一番好きな、幻想的な曲。ここからまた、懐かしい曲の流れになる。


「終わっちゃうね。明日は来ないね。でも、明日が見える曲をたくさん書いたから」


五十嵐さんが珍しく喋る。不器用に、言葉に詰まりながら。メンバー紹介をした時、ああ、このアンコールが最後だと思った。「Reborn」が始まったとき、ああ、この曲が最後なんだなと思った。いつもは尖っている人が、ふっと見せた優しさのような曲だ。


曲が終わる前、いっせいに明かりがついて、聞いている人みんなの姿が照らされた。こんなにたくさんの人が、syrup16gの曲を聞きに来てるんだって、思った。五十嵐さんは、どんな気持ちで、いっせいに照らされた僕らを眺めていたんだろう。「手を取り合って 肌寄せ合って ただなんかいいなあ って空気があって」そんな光景がここに、確かにあった。


五十嵐さんは、曲の合間も裏声で歌って、メロディもたくさん変えて、叫んで、その姿は決して格好良いだけのものじゃなかった。でも、その格好悪さから、五十嵐さんの人間臭い感情が一番伝わってきたように思える。シロップを終わらせたくない、少しでも多く歌っていたい。五十嵐さんがあの最後のライブでそう思ってくれていたなら、シロップはきっと幸福なバンドだったんじゃないかなって思う。


ありがとう、syrup16g

セットリスト


01 きこえるかい
02 無効の日
03 生活
04 神のカルマ
05 I・N・M
06 Anything for today
07 イエロウ
08 月になって
09 負け犬
10 希望


(Acoustic Set)
11 センチメンタル
12 明日を落としても


13 もったいない
14 生きたいよ
15 途中の行方
16 ex.人間
17 正常
18 パープルムカデ
19 天才
20 ソドシラソ
21 Sonic Discorder
22 Coup d’Etat
23 空をなくす
24 リアル


(encore1)
25 さくら
26 ニセモノ


(encore2)
27 新曲
28 イマジネーション
29 scene through


(encore3)
30 She was beautiful
31 落堕
32 真空


(encore4)
33 翌日
34 Reborn