「崖の上のポニョ」感想

さて、各所で話題沸騰の「崖の上のポニョ」を見に行ったので、今日は、その感想を思いつくまま綴ってみようと思います。


※注 致命的なネタバレ部分は白色にしておくつもりです。でも、携帯から見るとわりと見えるので、ネタバレが嫌だけど、大まかな感想は読みたいという人は、パソコンから見ていただけるとよろしいかと。









……なんというか、凄くよかったような、でも消化不良さが少し残るような、そんな映画でした。映画館を出る時の僕は、腕を組んで難しい顔をしていたことでしょう。多分、多くの人と同じように。


なぜそんな風になるかというと、物語が後半になるにつれて、どんどん「不思議な国のアリス」のような不条理感が増し、普通の感覚で見ると首をかげるようなシーンが多いから。例えば、


子供二人で今にも止まりそうな船に乗っているのに、誰も注意せず、逆に応援して送り出す場面
ポニョが赤ちゃんに持っているものをすべてあげてしまう場面


など。他にも細かい疑問をあげていけば山ほど。そもそも、ポニョが「魔力をなくすこと」が、そのまま「世界を救う事」に通じているところも、唐突と言えばやっぱり唐突な気がするし。


まあでも、分からないことがあるだけならいいんです。僕自身、分からないことを分からないままにして、そのまま楽しむのはわりと得意なほうだと思いますし。


けれど、この映画が僕らを難しい顔にさせるのは、なんだかその理由が掴めそうなのに掴めないところなんですよ。いろいろなメタファーに溢れてるんだけど、それが分かりやすいメタファーで、意味するところが分かって然るべきなのに、でも今ひとつ分からない、みたいな。


多分、ポニョという映画の持つ親しみやすい雰囲気とか、そういうのが関わっているんだと思うんですけど。こんなに親しみやすい絵で親しみやすいキャラの物語なのに、……今ひとつ分からない。だからこそ、分からないままでいるのが「もどかしい」と感じてしまう。これが難しい顔ででてくる人の多い理由だと思います。


そういえば、この映画にはギャグマンガにおけるツッコミ役と言うか、そういう読者視点のキャラが少なく(アリスもいない)、みんな突拍子も無い出来事を、わりとすんなり受け止めてしまうので*1、そこの部分もちょっとこの映画を難しくしてる気がします(強いて言えば、トキさんは「僕ら視点」ですね)。


一応、いろいろな解釈をしているサイトを回ってみたんですけどね。それでも、これだ、といえるような答えには会えず。


ラストを「死の世界」と定義して理屈づけている解釈には、嫌悪感すら覚えました。確かに一応の根拠はあるけど、単純にそんな解釈は気持ち悪いよ。というより、宮崎駿さん自身がパンフレットで、


何日もたたないうちに水はひいて、何もなかったことになる。そんな物語です。


ってはっきり書いてますからね。



とまあ、こうやって語っていくと、僕がポニョを嫌いみたいに聞こえるかもしれませんが、それがそうでもないのがこの映画の不思議なところです。むしろ今僕は、二回目を見てもいいかと思ってるくらいです。


なぜかといえば、やっぱり映像が素晴らしいんですよ。これはもうまったく文句の付けようが無いです。まったくCGを使わず、手書きだけで描いたらしいですが、そのせいかものすごく暖かみがあって。それがどこか童話的な、ポニョの世界観とうまくマッチしていました。冒頭の「ポニョがくらげを使って水面に上がっていく場面」だけで、もう胸がときめきます。


ただ綺麗なだけなら、CG使ったほうが綺麗なんですが、でも綺麗なのと魅力的なのって違って。どれだけ綺麗でもラッセンの絵はただ綺麗なだけですが、この映画の映像はそれだけで魅力的なんです。心の奥底をくすぐられて、じんわりと高揚感が湧き上がってくるような、そんな絵。そして、その絵が連なって構成される滑らかな動き。


人物もみんな魅力的。ポニョは最初見たときはどうかと思ったけど、もう文句なしにむちゃくちゃ可愛いし、リサはきっぱりしていて素敵過ぎるお母さんだし、宗介は主人公らしく、行動力があって、でも子供らしさもあって。


さらに描かれている場面もすごい。この映画の感想でかなりの割合で出てくる、「少女ポニョが波の上を走って、リサの車を追っかける場面」は、とにかくもう物凄い迫力がありつつ、どっちを応援していいわからず、困ってしまうカオスな場面。……ドキドキしました。


それにしてもこの場面、宮崎駿というおじいちゃんが考えたんですよ!どれだけ純粋な気持ちを抱えたまま大人になってんですか!


とまあこんなわけで、よかったところをあげてもきりがない。でも、もやもやした場面をあげてもきりがない。良かったところでも、消化不良なところでもたくさん語れる。さて困ったぞ。一体僕はどうすればいいのだろう。


なんかちょっと逃げてるみたいな気もしなくも無いけど、結局僕はこの映画――


ポニョかわいい! 例の場面迫力すげえ! 絵があったかい!


って単純に見ればいいんじゃないかと、今は思ってます。


確かに宮崎さんは後半の難しい部分にも意味を込めまくってるはずで、それはつまみ程度ではないはずで、重要な部分なんでしょう。でもその難しいとこを解釈する魅力よりも、絵と場面とキャラが魅力では上、だと僕は思うんです。


僕がさっき「二回目が見たい」といったのは、中途半端に大人になったせいなのか、途中から意味とか難しいことを考えながら見てしまったので、もう一度、もっと単純に、目いっぱい楽しんで見たいなあと思ったからです。



というわけで、若干後半の重いテーマと、絵と場面の単純な魅力が、ちぐはぐでかみ合ってない感じがあるにしろ、ありあまる魅力がある映画なので、この映画はオススメです。


そして、「あーポニョ可愛かった」と言って笑顔で出てくるのも、「あの場面は僕はこういう意図だと思うんだよ」と、腕を組みながら出てくるのも、両方ありだと思います。


ちなみに「子供向けなのに意外と子供受けが悪い」という評判をいろんな所で見ます。けれど、僕の母が見に行った時は、回りは子供だらけだったそうですが、「ほとんど喋らずにみんな夢中になって見てた」と言っていたし、もしかしたら「子供受けが悪い」という結論を出すのは、早いのかもしれませんね。

*1:ちょっと、「テニスの王子様」の観客を思い出した。あれ? 観客は普通にオーラ見えてるの? 俺ら読者は置いてきぼりですか! ……みたいな。