大学生3

大学四年生になって、今まで経験したことのない体験をすることが多かった。


はじめて創作を別の人と一緒にやるという体験をして、
自分の歌に沿った絵が送られてくることのこの上ない嬉しさを知った。
他人と一つのものを作り上げる難しさを知った。


はじめて煙草を吸って、煙草の苦さや気持ち悪さを知った。
吸わずにいる時の禁断症状で、手に力が入らなくなることを知った。


はじめて卒業研究をして、二週間前に研究の重大なミスを発見して、
本当に切羽詰まると自分の血の気がひく音が聞こえることを知った。
恋に落ちる音がした、ではないけれど本当に耳元で音がした。


はじめて振られて、振られ仲間で飲む酒のおいしさを知った。
元カノが今どうしているかを考えたら、
心の今まで触れられることの無かった部分が揺れることを知った。


たくさんのはじめての中で、僕の心が鳴らすメロディが、増えていく。
聞いたことも無いようなメロディが、
今まで何も鳴らさなかった心の片隅から鳴り始める。
自分の心がまだこんなにたくさんの音色で、
聞いたことのないメロディを鳴らすことができるなんて、知らなかった。


聞いたことのない音が作り出す聞いたことのないメロディは、新しい。
刺激的で、耳に残って、記憶して、ループする。
まだ鳴っていない部分は、一体どんな音を鳴らすんだろうか。


でも、


今はそれを聞きたくないから、僕は耳を塞ぐ。
僕が今欲しいのは、もっと、コーンポタージュのように暖かくて、
雲の向こうの月明かりのように優しい、
そんなメロディ。そんな懐かしいメロディを聞かせてほしい。


新しくなくても、刺激的でなくても。