Fate/EXTRA CCC とはジャンプ漫画である

Fate/EXTRA CCC ★★★★☆

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もともと僕が Fate/EXTRA とその続編である Fate/EXTRA CCCをプレイしようと思った理由は、Fate/Grand Order のCCCコラボイベントのシナリオの完成度がとても良かったからで、そこでメルトリリスという特徴的なキャラクターに夢中になったからで、そのメルトリリスの原典を知りたかったからだ。

 

そんな不純な動機からはじめたこのシリーズ。Fate/EXTRA では若干の作業感を感じながらやっていたが、CCC に入ってからは一切そんなことはなく夢中で楽しむことができた。贔屓するわけではないが、奈須きのこ氏が最初から関わるとレベルがひとつ上のシナリオになるのは否めないと思う。

奈須きのこ氏といえば、とにかく中学時代にノートいっぱいに書かれていたと噂の作り込まれた世界設定というイメージがあり、実際にアニメ化されたFate/stay night空の境界を見ていてもこの人の凄さはその世界設定なのかなーと思っていたのだけれど、最近そうではないことに気づいた。 

きのこ氏はびっくりするぐらいジャンプ漫画なのである。

きのこ氏のストーリーの根幹はどれも、何も取り柄のない少年、落ちこぼれの少年が、とことんまで追い詰められ、その中で「一歩を踏み出す」という物語である。

その「落ちこぼれ」という設定がひどく極端で「あらかじめ魔法使いに作られた人形」であったり「正義の味方になりたいと意味を理解せず願う孤児」だったり、ただのAIだったりする。

追い詰め方も半端なく、世界が滅びるだけでは飽き足らず、「人類史がすべてなくなる」とか、「世界が滅びる未来が今決まりました」とか、そういう状況まで登場人物を追い詰めて、それでも「今、前を向くことはできるだろう?」と問いかけていく。

そう。奈須きのこ氏の練りこまれた世界は、このジャンプ漫画的一瞬を輝かせるための舞台装置に過ぎなかったのだ!(もし世界設定が普通のファンタジーだったら、「人類史がなくなるよ」といわれても説得力がないしね)

 

……という観点で本作を見るとそのジャンプ漫画的王道は本作でもきっちり守られている。岸波白野という主人公の弱さ、境遇の悲惨さ、それでも前を向く強さ。

加えて本作では「女の子の秘密・初恋」にテーマを絞っているところが非常に面白い。さらにその女の子は最終兵器彼女よろしく極端なパワーを持ったAIなので、例えば「彼と私だけが存在する世界にしたい」と思うと本当にそれを達成する力があったりする。その勘違いをその女の子の心の中に踏み込んで正していくのだ。いやあ、このアイディア、天才的。

個人的な恋愛が世界に干渉するのはセカイ系と言えなくもないのだが「女の子の秘密を暴かないと先に進めない」という若干変態的でアクセルが壊れた踏み込みによって、所詮セカイ系でしょと言わせない個性がある。

 

一番印象に残ったのは、新キャラのジナコさん。なんとこの女の子、引きこもりで、Fate/EXTRA ではずっと隠れてて不戦敗になった三十路目前のニート。かなりきわどい題材だと思うのだが、トーマさん的主人公が熱いパンチをして解決したりせず、もうずっと、EDギリギリまでぐだぐだしているあたり真に迫っていて、引きこもり経験がある人の感想を聞きたいぐらいだった。

彼女をなんとか前に向かせようとするガトー、カルナとの暖かいやりとりは胸に迫るものがあり、「前に進めない、停滞を選びたい、でも停滞はつまらない」というサブヒロインに一つの救いが示されるあたりが新境地だと思った。というか、このシナリオの力の入れよう、本作で一番伝えたかったメッセージはこの部分なのかもしれない。ゲームプレイする気はないが興味がある人は「ジナコ Fate」でググって欲しい。

 

というわけでシナリオだけ見たら文句なく星5。きのこ氏の実力の末恐ろしさを今更実感した。未だ現役のドラクエ堀井雄二もそうだが、こういうレベルのライターがいると、後進に譲るのは難儀だろうなあと思う。というか、無理では?

 

ゲームシステムも EXTRA で不満だったところはだいたい回収されており、ダンジョンをひたすら下りていくはずが単調さは微塵もなく、バトルシステムも「逃げる」と「自動」ボタンの実装により「本気でメモを取りたくないひとは適当にやれるよ」感がでて間口が広がったと思う。音楽だけは前作ととんとん。細江さんのJazzはちょっと恋しいが、本作も悪くない。むしろ良い。

 

ただ、星4としたのは、「Fate がこれだけ受け入れられている今って異常だな」と思わせるような変態性が「女の子の秘密・初恋」をテーマにしたことによって強調されているため、人を選ぶだろうと思ったから。特に、主人公が女の子の心の中に入って秘密を暴くシーンはセクハラ親父とジャンプ主人公の境目を攻めるみたいな感じであり、女の子によってはプレイすると不快になるのでは? とドキドキした。攻めるなー。

パッションリップとメルトリリスに代表される女性キャラのデザインも、エロというよりはもはやグロに近く、電車の中でプレイするのをはばかられるレベルである。とはいえ、このアングラ感溢れるデザイン、マイナー感溢れる感じが Fateシリーズと言えなくもないのだが、とりあえず、万人におすすめできるかと言われると、ちょっと悩む。

まあ、僕のように Fate/Grand Order の CCCコラボイベントが良かったと思う人は間違いなくプレイして欲しい。なんなら EXTRA は飛ばしてもいいと思う。それ以外の人も、安いので、買ってしまってから考えてもいいのではないだろうか。

 

(どうでもいい追記をすると、メルトリリス目当てでプレイした僕ですが、本作の中ではエリザベートバートリーが一番可愛かったです。)