音楽のある世界に生まれて幸いだった - 永久凍土帝国 アナスタシア 感想

FGO 2部 Cosmos in the Lostbelt

No.1 永久凍土帝国 アナスタシア ★★★★★

 

星の数が示す通り、超絶素晴らしかったのでうんざりするぐらい長い感想を書こうと思います。

ネタバレは全開ですが、敢えてFGOを知らない人にも熱が伝わるように書いてみたいと思います。

 

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去年の年末、予告なく公開されたプロローグシナリオから、素晴らしいものになるという予感はありました。このプロローグシナリオは、世界を救うに飽き足らず脈々と続く人類史すべてを守りきったというファンタジーを好んでいる僕でもなかなか巡り合わない超絶スケールの偉業を成し遂げた主人公、それはもう、国家を挙げて賞賛されノーベル賞を100個ぐらいもらうべきなはずの主人公が受ける苦難として、意外にもすっと腑に落ちる展開だというところで優れていました。人類史が救われたと言っても救われた側に実感はなくただただ国連協議が必要なレイシフト(ようは歴史を変えるためのタイムトラベル)を私物化した悪人として裁かれる。なんとも自然。そして主人公を支え続けたヒロインのマシュは、その力の源であるギャラハッドの加護をなぜか受けられなくなり弱体化、面白くなる下地は揃いました。

そして、生活に寄り添うという特性上小まめな更新が必須のスマホゲームにて、4ヶ月という長いスパンを準備に費やすというリスクを冒してまで(それを過去のイベント復刻でなんとかごまかしつつ)、満を辞して送り出された2部。期待も大きく、だからこそ肩透かしをくらう覚悟をしていた人も多かったでしょうが、それを軽々と飛ぶ超える美しいシナリオがそこにはありました。

まず、2部はFateシリーズの少年漫画的な部分、すなわち、主人公は何も切り捨てずどれだけ確率が低くともみんなが助かる道を選ぶというシナリオをあえて破るという禁忌を犯しました。2部で倒すべきは、本来なら歴史が続くことはない「パラレルワールドにもなれない悪い分岐」、ゲームで言えば「バッドエンドルート」のまま現代まで続いてしまった世界そのものだからです。

僕は最後まで、このバッドエンドルート、永久凍土帝国に住む人達まで救うのではないかと思っていました。それが、巨大コンテンツと化したFateの宿命だと。しかしそれは最後まで果たされず、クリア時には永久凍土帝国は切り捨てられ、本来続くことのなかった歴史は改めて終わりを告げました。しかし、その滅びは、この上なく美しいシナリオとして機能しました。

永久凍土帝国の登場人物でまずピックアップされる獣人、パツシイというキャラがいます。彼は、強い意思もなく、主人公を困らせ、実際に主人公サイドに大量の死者を招くきっかけを作り、母親を結果見殺しにしてしまう悲劇のベジータのような(ベジータよりさらに弱いけれど)のキャラです。しかしパツシイは、当然世界を切り捨てることをよしとせず、迷い、戦意を喪失してしまう主人公を銃弾から庇い、言うのです。

「お前が笑って生き残るべき世界が上等だと、生き残るべきだと、傲岸に主張しろ。」

こんなに健気なキャラはこれまで見たことがないです。パツシイはバッドエンドルートの歪んだ歴史ゆえ、娯楽もなく弱者を切り捨てるのが当たり前な世界において、その当たり前に疑問を持っているキャラでした。でも、それでも自分の生まれた世界が間違いだ、滅ぶべきだと、そこまでも言い切れず、迷いがありました。その迷いの中で、それでも主人公を焚きつける、主人公の弱っちさ、平凡さを、良き世界だからこその特徴だと捉えて、せめて前を向け、俺らを傲慢に滅ぼせと血まみれの姿で言う。その姿にもう僕は感動に打ち震えてしまいました。彼は今回の物語で最も印象的で、重要な役割をになうキャラといえます。

さらにもう一人、大人気で日々幸せなIFの二次創作が投稿され続けているカドックとアナスタシアを差し押して、ピックアップするならばそれはサリエリでしょう。アマデウスの映画で有名になった、天井の音楽を地上に伝えに来たとまで言われるモーツアルトには一生届かない秀才。そのモーツアルトを殺したとされる男。

彼は奇しくもこの永久凍土帝国のように、選ばれなかった人間で、だからこそ、選ばれなかった人間として夢中でピアノを奏でます。世界を歪めてしまったラスボスをその怒りで困惑させるために、そして終わる世界に彩りを添えるために。

このゲームをやったことがない人も見たことがあるのではないかと思うぐらい頻繁に流れていた、2部のCMの最後、永久凍土帝国 アナスタシアのタイトルコールの後にこっそりと挿入されている満天の星空の下でピアノを奏でる男。彼こそがサリエリであり、それは、神様に選ばれなかった世界と同様に選ばれなかった男であり、そして、終わる世界に祈りを捧げるにこれ以上なく相応しい男として描かれます。

主人公が、自分の世界史を守る独善のために切り捨てた世界。そこは零下100度で魔獣と獣人しか生きられなかった弱肉強食の悲しい世界で、歌のない世界。けれど、切り捨てるにはあまりにたくさんの人たちの暮らしがある世界。

それが間違っていることがあるとすれば、青空が、満天の星空がないここと、そして音楽がないこと。まるでそのことを思い知らせるかのように、獣人たちが初めて見る星空。神様に選ばれなかったサリエリは、星空の下、せめてもの手向けにキラキラ星を演奏しながら、永久凍土帝国の終わりを優しく奏でます。

このシーン、僕が出会って来たこれまでのファンタジーの中でも類を見ないぐらい美しいシーンでした。仄暗いくせに今のどのコンテンツより真面目に少年漫画をしていたその制約を破り、新しい到達点を見せてくれたと思います。そして、音楽が大好きで音楽に救われたからこそここまで生きてこれたと思っている弱っちい僕は、やはり残酷に獣人たちの世界を滅ぼすだろうという共感までも生まれました。これまで人類史すべてを救うFGOの主人公を、どこか他人のように見ていた僕がら初めて主人公の思いに重なった感じがします。

ヒロインが迷いを抱えたまま、其の迷いを肯定することをきっかけに殻を破って立ち直ったり、ゴジラシリーズのような巨大魔獣のバトルがあったり、必殺技を叫んで剣からビームをだすFateらしい王道もきっちり盛り込みつつ、魅力的な世界とキャラクターを滅ぼす痛みを美しく描き、また新たな地平に立ったFGO。せっかく最近毎日ログインしたりガチャを回さずにすんでいたのに、こんなシナリオを出されたら追いかけるのをやめるわけにはいきません。FGOの覇権ははまだまだ続きそうです。