現代のネクロマンサーたちへ

いずれこの世界は滅びる。滅ぼされるのを待つか、自ら滅ぼすかだ。

こんな思わせぶりな書き出しをするとまたニーアオートマタの話かと思われるかもしれないがそうではない。僕の、仕事の話である。 

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時は2007年。これまでのどの漫画にも小説にも登場しなかった物体が世の中に現れた。スマートフォンだ。映画「SEX AND THE CITY」にて「ちょっと、これどうやって電話に出ればいいの?」と評されていたのも過去の話で、現代では40億台出回るようになり、現代が舞台の小説も映画も全ての登場人物は原作に登場するか否かに関わらずスマートフォンを持つようになった*1

 

スマートフォンは確かに、僕らの生活そのものを塗り替え、たくさんの仕事を生み出し、そして同時に、たくさんの仕事を滅ぼした。そして「もしかして滅ぼされるかも」という予感は2019年の今には「あいつが滅ぼされた。次は俺か」という実感に変わってきたように思える。2018年にアメリカに出張するときには、Uber を使えば現地滞在者との約束もタクシーの予約も不要になった。「タクシーの運転手という仕事も、いずれ機械に取って代わるのですかね」「いや、機械は風邪引いても病院に行けないから専属の医師がいるので、人間の方が安いですよ。まだ大丈夫です」「あはは」と心温まる会話をした2018年のタクシーの運転手さんには、残酷な変化が起こっているように思える。まあ、僕はこれを美談にするつもりはない。運転手さんには伏せたが、そもそも機械とコストを競う時点で圧倒的に敗北しているのだから。日本人は我慢が得意だが、機械に我慢で勝てるはずがないのだ。あいつらには我慢という感情はないし、寝ないし、1日が僕らの5億倍ぐらいある。

 

話は変わって、この世界ではスマートフォンと違い、役に立たないもしくは簡単に自動化できるものをあえて残す人たちがいる。僕の周りにはそんなものが溢れている。例えば、僕がある事務作業をするときにはコメント欄に必須事項を書かなければ否認される。そんなものは必須事項を別枠にして、空欄だったら弾くようにすればいい。でもそれをしない。それを目視でチェックするプロフェッショナルがいて、彼ら彼女らの仕事がなくなってしまうからだ。僕はこのような事例を「事業のゾンビ化」と呼ぶことにした。もうすぐ死ぬ、では実感がわかない。もう死んでいる死体を無理やり動かしているに近い。腐りながらへばりつくイメージもまさにゾンビだ。大手キャリアで iPhone を買うと、期限内に解約しないと絶対に使い所のないどうでもいいサービスに無駄なお金を振込んでしまうアプリが大量にインストールされる、あれである。FFで言えば、死の宣告だし、企業は一定数の「解約を忘れるけれどサービスは一切受けない」人が死の宣告のカウントが0になるのを待ってお金を稼いでいる。

 

そして僕は、そのようなゾンビシステムに貢献している人をネクロマンサーと呼ぶことにした。例えば、秋元康は凄腕のネクロマンサーだ。彼はもはや896枚のCD売り上げで全米一位になる昨今、CDという屍に「握手券」という死霊魔術を施して、CD生産工場の縮小を止めて雇用を生んでいる。

 

探せばこの世界にはネクロマンサーとゾンビコンテンツが溢れまくっている。そして詳細は伏せるが僕も割とネクロマンサーである。反面、ゾンビになると言われていたが意外とならなかったものもある。紙はいまだに最強のインターフェースだし、テレビは滅びることはないだろう。しかし、新聞は滅びるだろう。

 

一ついいことを考えた。世界中の大統領や首相が共謀して、人間の技術レベルを20年ごとに元に戻してみてはどうだろうか。例えば、この世界のスマートフォンと全世界のサーバが2030年に全てのデータを消去してただの箱になるようにプログラムしておく。そうすれば、ネクロマンサー達は一転、現代に魔法をかけるクリエイターにもどることができる。ストリーミングサービスがなくなれば、CD生産工場で汗水垂らして働く人たちがまた生き生きと仕事をすることができる。スマートフォンは人類の最高権力者数名しか知ってはならない「世界の秘密」なのだ。

 

そんなことを表現したゲームがあった。ニーアオートマタ*2だ。僕が去年あのゲームにハマった理由がわかった。2Bも9Sも、そもそも僕の姿だったからだ。あの悲しい運命のロボットの姿に僕は、自分自身をみていたのか。

 

「10年後の仕事図鑑」*3という本の中で、街ゆく人の一部がエージェントスミス*4に見えると堀江貴文は言った。「バカと付き合うな」では「洗濯を自分の手でやりたい人がいるとしたら、僕はその人が洗濯機に見える」なんて言葉も残していた。僕には今の僕がヨルハ部隊*5に見えている。……凄腕のネクロマンサーとして、生きていこうと思っています。よし、採用だ。ありがとうございます、御社で1年100体のゾンビを生み出す所存です。

 

ニーアオートマタに限らず、ヨコオタロウ氏の作品には神様的な「どうにもならないもの」が必ず現れるし、氏の作品は悲劇に「それが必然だった」という理由をつけない。きっと、実際の世の中がそうだからだろう。スティーブ・ジョブズが世の中を塗り替えていろんな製品を殺したのはまさに、ヨコオタロウ氏の世界の神の所業のように、どうにもならないものだし、それで仕事をうばれた人々にはそれが必然だったという理由は与えられない。だからこれはどう考えても凄惨な悲劇ということになる。

 

それでも、僕はネクロマンサーにはなりたくない。

 

だって。僕がネクロマンサーして生み出したゾンビ製品のおかげで仕事ができる人たちは、別に僕に感謝しないしファンレターも送ってこないんでしょう? CD生産工場で働いている人が秋元康に感謝するとは思えないんだから。そもそも、死霊魔術にMPを消費してしまったら、新しいこと何もできないじゃない。それじゃあ、僕が面白くない。僕とあなた、二人が死ぬよりは一人が死んだ方がマシだ。

 

「そう思うのは、仕事がなくなった経験がないからですよ」と職場の先輩が言った。「あの時、毎日15時に帰るのしんどかったですよ」と。いやまあ言いたいことはわかるのだけれど、それでも正直、僕はそうなってくれた方が嬉しい。そうしたら、本気で、ゾンビ製品じゃないものを考えられるし、考えないとしてもゲームや漫画を読んで過ごしていられる。そもそも、僕が初音ミクに歌わせた自作曲をニコニコ動画に投稿する時だってもう少し自分の作品に愛があるよ。その程度の愛すらないものを作っていてもそれはやはり延命措置でしかないじゃない。いっそ死んだ方が潔い。

 

あなたの関わる仕事はどうだろうか。
効率化を拒絶したりゾンビ製品を作ったりしていないだろうか。
わかった。今すぐ、殺しに行くね。

*1:2019年アニメではブギーポップは笑わない、等

*2:またかよと思ったでしょ。悪い、謝るよ、ごめんなさい

ニーア オートマタ ゲーム オブ ザ ヨルハ エディション - PS4

*3:

10年後の仕事図鑑

*4:映画マトリックスに出てくる全て同じ顔の平均化された敵

*5:ニーアオートマタの主人公達が所属する部隊の名前