かぐや様は告らせたいを全人類に布教したい〜エモくて理性的で抱腹絶倒の最高傑作の14巻〜

かぐや様は告らせたい?天才たちの恋愛頭脳戦? 14 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

作者の赤坂アカ氏は僕より年下なのですけれど、この情報過多の現在において、幼い頃から情報を取捨選択できる選ばれし人たちはそれほど年を取っていなくても本当に賢いなあと思います。僕は伊井野ミコを実は推していまして、不器用な彼女が活躍するエピソードはどれも泣くぐらい好きなのですが、12巻第115話の彼女のセリフ、

「いいですか!! 確かに条例は厳しい! 自治体も渋ってます!
 それは私たちが大人から信用されていないからです!!
 じゃあ大人の信用を勝ち取るために必要な事とは!?
 風紀です
 風紀委員とは大人から信用をもぎ取る仕事の事なんです」

という台詞の持つ多角的な視点に感動しました。どんな創作でも忌み嫌われ敵として扱われやすい風紀委員を、これほどまで冷静に評価した創作が今まであっただろうかと感動し、そして僕より年下の人たちの溢れる知性に恐れおののいたものです。きっと赤坂アカ氏はこの視点があればサラリーマンだとしても大活躍でしょうね……。

さて、前置きが長くなりましたが。そんな風紀委員の彼女が勝ち得たキャンプファイヤーも重要な伏線となっている本巻。長い文化祭編がついにクライマックス。

すでに我慢できずに、(普段はコミックス派なのに)ウルトラロマンティックを先読みしてしまった方々も多いでしょうが、それの素晴らしさはもう言わずもがな、それ以外にも珠玉の話が多く揃っています。まず最初の第132話から刺さります。かぐや様が会長を好きな理由。

「大勢で歩く時……列から離れて歩く人がいると ちらりと振り向く時の横顔が好き
 心配になる位眠そうな目元とか
 難題にぶつかった時の引きつり笑いとか
 嫌味なほど実直で 地味に負けず嫌いで 人は頑張れば何にでもなれるって思わせてくれる姿が 好き」

もうここで涙がでます。これは絵がついてなくても十分に通用する表現です。その意味の深さは歌詞かと思うぐらい。最初の1行をみてください。これだけで、たったこれだけで会長の人間性とかぐやとの関係性が鮮やかに表現されています。いろんな人を気にかけてしまう、でも大勢の人を率いているから構うこともできずちらりと振り向く。手を差し伸べるべきか分からず何もできない自分の無力さから、少し悔しそうな、それでいて心配そうな横顔。溢れ出る優しさ、器の大きさ。そして、これを好きな理由の一番最初に挙げるかぐや様は本当に会長をよく見ていることも分かる。

理性的なのに、溢れるほどエモい。一見相反する要素が奇跡的なバランスで成り立っていることこそ、この漫画の稀有な部分です。ついに二人がキッスをするウルトラロマンティック回の135話136話においてそれは最高潮に達し、両者のモノローグは、まるで心の和歌を送りあっているようです。

そしてそんなシリアス回を経て「ついに二人はキッスしたから終わりに向かうのか」と思う読者を裏切るような抱腹絶倒のギャグ回の連続。早坂とかぐやの掛け合いの良い意味での低レベルさとテンポの良さににやけが止まらない。かぐや様のコメディ要素は実は決して軽くないこの作品の根幹のストーリーをうまく中和してポップにするという意味ですごく綺麗に機能していると思います。

14巻で綺麗に終わればよかったのに。かぐや様は多重人格なの? そんな声も分からなくはないです。確かにこの巻はこれまで緻密に積み上げて来たかぐや様の面白さの到達点といって差し支えないものですし、ここまで面白いと今後失速しないか心配にもなります。でも、でもですよ。こんなに面白い漫画が14巻で終わるなんて耐えられますか? いかに綺麗に完結しようとそこで満足できなくないですか? もっと読みたくないですか?

だから、ここで綺麗に終わらず続いてくれて、本当によかったなあと思うのです。石上はやはり最後には伊井野ミコと付き合うことになるのかなあと予想したりしながら。(石上が撮ったキャンプファイヤーを楽しむ人たちの写真を見るミコちゃんの目が本当に尊かった……。この巻には一体何個山があるのだろうか)

 

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