wowakaさんが繋いだもの、繋がっていくもの。

僕の超ざっくり理解で言うならば、音楽の進化というのは常に「今まで手が出せなかった人が手を出せるようになる」という価値観の転換によるものだと思うのです。

 

クラシック

こんな沢山の楽器で編曲できねーよ。ギター、ベース、ドラムで十分だろ。

ロック

コードなんて三つ覚えれば十分だろ。

パンク

歌歌えないけど他の歌のカッコいいとこ切り出してループして早口乗せればよくね?

ラップ

 

そしてこの変化が起きる時には、古い人達から「こんなの音楽じゃない」と言われることが常であり、逆にいえば「こんなの音楽じゃない」と言われ始めた時が音楽の進化する時だったりします。日本でラップが流行り始めた時を思い出してください。あの頃ドヤ顔で「ラップは音楽じゃない」と言ってた方々、元気ですか? なんちゃって。

 

そこで、ボーカロイドです。黎明期、ただの楽器であるボーカロイドも「こんなのは音楽じゃない」「歌ってみたの前の仮歌」などと言われて、その都度炎上したりしていました。そういう意味で、ボーカロイドは確かに音楽の進化の一つだったのだと思うのです。つまり、矢印の続きはこうなります。

 

ラップ

→歌も歌えない! 早口も下手! PC一台で初音ミク使えばよくね?

ボカロ

 

こうしてボカロ曲は一つのジャンルとして成り立つことになりました。VOCALOIDは所詮楽器なんですけれど、楽器が一つのジャンルを作ることはわりとあることなので大して驚くことではないのです。シンセサイザーがなかったらテクノはないわけで。

 

しかし、思い返せばこのジャンルにおいて、ロックの焦燥感を初音ミクの無機質なボーカルで表現することに成功した人は少なかったと思います。単純にロックとして完成度の高い曲を投稿する人はいました。ryo(supercellさんの「恋は戦争*1」、梨元ういさんの「ペテン師が笑う頃に*2」、などなど。でもそれは、ボカロが最適解、という曲かと言われるとちょっと疑問符がつくものだったように思います。

 

そこで出てきたのが現実逃避Pことwowakaさん、曲を重ねるごとにちらほら話題に上がっていた彼は「とおせんぼ」からの「裏表ラバーズ」で完全に有名ボカロPに成り上がりました。彼の曲の構造は非常に分かりやすく、BPM早めのチープな電子音やピアノで構成される一小節のループをひたすら繰り返して、そこに低音を思いっきりカットしたミクの声を乗せるスタイル。

 

ポイントは二点。
・繰り返しが多く、構造が理解しやすいこと
・リズムが性急すぎてライブハウスやクラブ向きでないこと 

 

前者は、なんか僕でも作れそう、となって爆発的なフォロワーを生みます(ちなみに、作れないので安心してください)。そして後者は、すなわちPCの前でイヤフォンをして全身を貧乏ゆすりするのに最適なリズムなのです。引きこもりの僕らにぴったり! 音楽の進化においてよくある、聞き手の環境に最適化した進化ですね。千本桜なども、平坦な連打が「針金のようなドラム」と揶揄されたりしましたが、ライブハウスで体を揺らして聞く想定がそもそも間違っている。当時のしょぼいサウンドカードのPCもしくはスマホで貧乏ゆすりするためのリズムからすると最適解だったのです。

 

これ以降、このスタイルはボーカロイドによるロックのテンプレという枠を越え「ボカロっぽさ」として周知されることになります。Last Note.さんの「セツナトリップ*3」、日向電工さんの「ブリキノダンス*4」、Neruさんの「ロストワンの号哭*5」、トーマさんの「バビロン*6」、といったそれ以降のヒット曲において、wowakaさんが影響を与えていることは間違いないと言っていいと思います。

 

そして、僕個人としてエポックメイキング的な作品であるのが「ローリンガール」。この曲はボカロっぽい作風の完成形だけでなく、ナンバーガールから続く文系ロックの文脈も持っている曲であり、僕が初めてこの曲を聴いた時の衝撃といったら、言葉にできないレベルです。今でも鮮明に思い出せます。

少女というモチーフ。
歌詞全体から漂う生き急ぐ感じ。
ピアノ主体のリフと感情のないミクの声が生む焦燥感。

 

ここで僕が死ぬほど聴いていたNUMBER GIRLの文脈に続く曲がボーカロイドに現れ、点が線として繋がったのです。絵にするとこんな感じ。

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高速ボカロックの曲たち単体で見ると、NUMBER GIRLからの線がつながらず、この絵が描けないことがポイントです。前述したwowakaさん以降のヒット曲たちからは、NUMBER GIRLの匂いは感じられない。けれど、wowakaさんがいることでロックの文脈として繋がるのです。

 

ちなみに、ロッキンユーという漫画でも、この音楽の影響の流れは明確に提示されています。「透明少女」を部活動紹介で轟音で鳴らす先輩。そして次の校内ゲリラライブは「ワールズエンド・ダンスホール」。この展開が偶然とは思えない。

 

shonenjumpplus.com

ワールズエンド・ダンスホールは3話です。無料で読めない。すまない)

 

どうでもいい僕の話ですが、僕はBUMP OF CHICKENからロックに入り、そこからくるりスーパーカーナンバーガールにどっぷり浸かるという灰色の青春時代を送った人間の辿る文系ロックの王道ルートをなぞってきました。米津玄師がバンプ好きを公言しているように、バンプの影響はそこかしこに溢れています。ボカロの物語性のある歌詞もその一つ。バンドリの愛美もバンプが原体験だったはず。しかし、邦楽ロックで凛として時雨アジカン椎名林檎が影響を公言し心酔しているナンバーガールの系列がボカロに出力されないのが物足りなかったのです。そして、ずっと待っていたそれは最高の形でwowaka氏からアウトプットされたのです。

 

ローリンガールという曲は、PC一台で、自らの声という「感情を最も表現する楽器」を封印して、それでもNUMBER GIRLの奏でた焦燥感を鮮やかに鳴らせるということを証明した曲でした。wowakaさんはこうして、PC一台でロックの歴史の一つの線を繋げ、ワールズエンド・ダンスホールにてそれを締めくくったのです。PCの前で貧乏ゆすりしながら踊ったっていいじゃない、と。

 

そして早々にロックの焦燥感を無機物に乗せることに成功した彼は、ヒトリエでそれに肉体性を再度復活させる試みをして、そこでも成功を収めました。今や邦楽バンドの一つの登竜門となったアニメのテーマソングにも取り上げられ、これからさらに羽ばたく、そんな時に。

 

しかし、これまで語った通り、彼はここ数年で一人が成し遂げたとは到底思えないレベルの影響を与えたんだと思います。これで肉体性に回帰してさらに無敵になり、米津玄師と同じようにお茶の間で話題になる姿が見られなかったのが残念ですが、別にお茶の間に知られなくたって、すでに多くの人の心に刺さり、過去の邦楽ロック(文系側)とボカロを一本の線でつなぎ、数多のフォロワーを産んだという点においては、すでに米津玄師に勝るとも劣らない影響力と言って差し支えないでしょう。その影響力が偉大だからこそ彼の訃報が受け止められない人がたくさんいて、僕もその一人なのですが、ファンとしてただ語りたかったので気持ちが整理できないまま語ったのがこの文章です。

 

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もし、もしも、初音ミクという概念が、形となってこの世界のどこかに存在すると仮定したなら、彼女がロックのステージをする時には、wowakaさんの曲が選ばれて、初音ミクの隣でwowakaさんがギターを弾くことになるんだと思います。きっとね。

 

 

 

 

*1:リズムはヒップホップっぽくもあり。

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*2:ミクが歌うと少しダークで怖いのだが、格好つけて歌うとビジュアル系っぽくもなる曲。

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*3:ドラムがリフとユニゾンしていてリズム隊というより感情の発露みたく聞こえる。

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*4:wowakaさんの別名義みたく言われていたりしたけれど、歌詞の書き方が全然違う。言葉遊びが面白い。

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*5:わかりやすくも衝撃的な歌詞とあまりにキャッチーなメロディで大ヒットしました。

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*6:ハチさんの影響も受けた感じがする世界観重視の高速ボカロック。

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