aurora arc / BUMP OF CHICKEN

aurora arc (初回限定盤B)(CD+BD)

僕が中学生の頃天体観測に衝撃を受けてから何年が経ったかはよく分からないけれど、BUMP OF CHICKENは、変わらずにイマというほうき星を追いかけていて、僕の音楽的嗜好は変わってど真ん中はレディオヘッドやらもう少し小難しい感じになったけれどそれでも目をそらすことができないでいる、ずっと好きでいつづけられる、そんな稀有なアーティストである。

そんな彼らは今もイマというほうき星を追いかけている。このアルバムの中核をなす曲、アリアの歌詞はまるで、天体観測の瞬間を別の視点から切り取ってさらに抽象化して純度を高めたように僕には聞こえた。

 

「笑うから鏡のように涙がこぼれたよ

一度でも心の奥が繋がった気がしたよ

冷えた手が離れた後もまだずっと熱いこと

見つけたら鏡のように見つけてくれたこと」

 

BUMP OF CHICKENのコミュニケーションは鏡から始まる。Smileという曲の歌詞をいまだに僕は覚えている。東日本大震災でいろんなアーティストがいろんな曲を歌って、僕はBUMP OF CHICKENがどんな歌を歌うのか気になっていた。彼らは決して軽はずみな希望を歌わない。好きな人や待っている人を失った人もいる。そんな時彼らは鏡の向こうに立った自分についての歌を歌ったのだ。自分を鏡に映して、笑ってみる姿を歌ったのだ。いつまでも忘れらない。

 

「心の場所を忘れた時は

鏡の中に探しに行くよ

映った人に尋ねるよ

零した言葉が冷えていた時は

拾って抱いて温め直すよ」

 

言葉の純度が高すぎて震えてしまった。何度でも僕はこの歌詞のすごさについて書きたいし、歌詞を語る時の出発点をいつもここにしたい。まるでデカルトのように思考の迷路の深淵に向かって、誕生日会を続ける時が止まったかのようなバンドを続けて、藤原基央が他の全てを留めてでも考え続けて出てきたこの歌詞の透明度といったら透けて向こうが見えそうだ。どんなひねくれ者も、ありえないぐらいひどい不幸の中にあっても、鏡の向こうの人間だけは、誰も失うことはできない。鏡の向こうにいる人間に笑いかけるという希望を完全に否定することだけはできない。

 

彼らはいつも同じことを視点を少しづつ、言葉を少しずつ変えて歌っている。シングルでも壮大だったアリアをこのアルバムで聞いた時の音の煌めきはすごかった。まるで別の曲のように聞こえてしまってシングルを聞き直すと、そこまで大きくアレンジは変わってないのに、このアルバムの中で聞くことで、まるでアルバムが旅のような役割を果たして、印象が変わったことに気づいた。鏡から始まった小さな小さな希望。それが鏡の向こうの「僕」から「君」という他者になった、応えてくれた、その眩しすぎる一瞬をこの曲は切り取った。

 

「僕らの間にはさよならが

出会った頃から育っていた」

 

そんな切なさを交えながら。

 

彼らは成長している。butterflies でのエレクトロへの接近からまたほとんど生演奏にもどったが音の粒の綺麗さと演奏のうまさは段違いだ。一曲目 aurora arcがインストなのはユグドラシル以来かもしれない。ここで、一曲目がインストのバンプのアルバムは名盤の法則を僕は提唱したい。このアルバムはほぼこれまでのシングルを並べただけでありながら、まるで一つの叙事詩のように壮大だった。最初の月虹から素晴らしい。オンリーロンリーグローリーと三ツ星カルテットと乗車権の美味しいところだけ取ったようなサウンドの切れ味がすぎる。

 

「何もいらない だってもう何も持てない

あまりにこの空っぽが 大きすぎるから」

 

二小節目の歌詞から切実さがすぎる。見えない空っぽを抱きしめたり、空っぽって言葉を何回使ってきた、そしてその度にこんなに新鮮なのはなんなんだ。

 

「あなたの言葉がいつだって あなたを探してきた」

 

Aurora より。もうほんと何なんだろう。またこうやって、気づかせてくる。僕はいつもこうして感動したものや怒りを覚えたものに文章を書きながら僕自身を探している気がしてきた。

 

「ねぇ きっと

迷子のままでも大丈夫

僕らはどこへでもいけると思う」

 

記念撮影より。この曲の歌詞だけで1時間語れる。まず記念撮影というタイトルで100点だ。切り取る景色の選び方がすごい。ねえきっと、と藤原基央は言う。少し自信なさげに、でも確かな自信を持って。迷子のままでも大丈夫。僕らはどこへでもいけると「思う」思うのだ。いける、でもなくいけ、でもなく、いけると「思う」のだ。なんて、優しい。でも、すごく信じられる。

 

butterflies も素晴らしいアルバムだったが、バンプのアルバムで素晴らしくないアルバムはこれまで聞いたことはないが、それはそれとして、最高傑作とはいえないかな、とは思っていたが、今回、バンドサウンドがあくまでメインに据えられたことの収まりの良さも含めて音楽も歌詞も過去最高の切れ味を示している気がしている。これはBUMP OF CHICKENの新たな金字塔になる気がしている。流れ星の正体を僕らは知っている。僕もバンプもお互い年を取っても受け取る気持ちは熱は何も変わらない。BUMP OF CHICKENと迷い続けられる贅沢な世代であることが何より嬉しくて泣きそうだ。ホントに。