ナンバーガール@Zepp Tokyo の無観客ライブをみてゲラゲラ笑って泣いたよ

 なんかもう良すぎた。何もかも良すぎた。これは時代への答え合わせなのかもしれない。大きな権力の中で他人の顔色を伺って生きるのは、そもそもロックが常に否定してきた価値観だった。僕はそれに心酔していきてきたはずだったのに、その概念を堀江貴文だのなんだのぽっと出のビジネスマンに奪われて、「既得権益に迎合しない生き方」も当たり前になって、ロックの役割も失われたと思っていた。

 でもそんなわけはなかった。向井秀徳は無観客の静寂の中でも、まったくいつものテンションでMCで小芝居を披露し、わけのわからないパフォーマンスで観客を煙に巻いていた。あれを配信でテンションがわからなくなってトチ狂ったミュージシャンの行動かと思った? それは違うね、彼はいつもあんなんだ。去年の、ZAZEN BOYS のライブでジョンコルトレーンの真似をしてラッパの声真似をずっと繰り返していた向井秀徳とだいたい一緒だ。彼はずっと狂っている。

 そう言うことかと思った。これまでずっと、時代が変わる前から、当たり前のように自分自身の価値観のみで生きてきた異端児は、年季が違う。彼らに比べたら、最近阿呆らしくなって会社にスーツを着ずに出社するようになった我々など初心者なのだ。YouTube なんて下北沢の路上と何も変わらないのだ。いつものようにやる、それだけで個性を売りにする YouTuber をゴボウ抜きにしていくのだ。だって「そうやってる」年月が違う。

 異常空間Zとは人のいないZeppのことか。わからない。わからないけれどたまらなく可笑しい。僕は贅沢にも常に酒を片手において、眺めていた。思わずコタツから立ち上がって。彼らはなぜか、インターネットの向こうの人を振り向かせる方法を知っていた。というより、彼らのやっていることは路上を行き交う雑踏を振り向かせられるのだから、インターネットの向こうの人を振り向かせられるなんてのは当たり前のことなのかもしれない。

 静寂の中からなんとも艶っぽいテレキャスターの音が聞こえてくると「鉄風、鋭くなって」のバッキバキのベースの鉄風がインターネットに吹き荒れた。歓声がない曲間の静寂の緊張感は最高だ。一言もツイッターで拡散してとか、トレンドにするための統一タグの説明とか、何も言わないのに、視聴した誰もがツイッターに 「YouTube のスクショ」をあげていて、誰もがそれをリツイートしていた。言葉が統一されていないので、numbergirlナンバガ向井秀徳/透明少女が、それぞれ雑多にトレンドに上がっていた。演奏のキレは全くもって普段通りだった、体に響く爆音で聞けないことだけがインターネットの欠点だ。

 同時視聴者数は2万からどんどん増え最後には4万に達した。まさにこれは電子フェスだ。お、なんかいいのやってるじゃん。そうやって人が増えていくのは、ワンマンではない出来事だ。なんとなく開いてみて頭にでっかいクエスチョンマークを浮かべた人たちを見て笑いが止まらない。「73分けだっさ」「ボーカル歌下手」……最高である、もっと欲しい、リツイートしたい。100人のうち99人に笑われても1人に刺さればロックだというのに、100人が褒めていては味気ない。最近勢いが止まらない江頭2:50もそんなこと言ってたな。

 今の時代を予言していたかのような歌詞のタッチ、走りまくって研ぎ研ぎ澄まされた NUM-AMI-DABUTZ はベストテイク( CDJ で聞けなかったし)、U-REI の後でアメスピを4本吸っておもちゃの拳銃をぶっぱなす向井は最高にキャッチーで、OMOIDE IN MY HEAD の中で、無観客の客席にコロナウイルス対策万全の格好で現れて、僕らの気持ちそのもののように踊ると言うより暴れ、そしてステージに座り、最後は向井のタバコを勝手にふかして帰っていく森山未來おいおい森山君、尖りすぎだろ。

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 最高の音楽であり、同時に最高のショウであり、YouTube急上昇とツイッタートレンド不可避の異常事態だった。これが見れた上で、現場でもう一度観れる(かもしれない)なんて僕は何か? いつの間にか徳を積んでいたのか?

 ここにはインターネット時代の今を生きるための答えがある、そんな風に思った。僕らは不確かなデマに踊らされ、狂った140字の論理で殴り合う面白人間地獄絵図を見たくてここにいるわけじゃなかった。そうだった、ツイッター向井秀徳が4本タバコをくわえる絵面をリツイートするためにあったんだった。

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 ナンバーガールを見終わって、仕込んでおいたインターネットでバズる料理研究家のレシピで作ったおでんを食べて、そのまま VTuber のライブに流れ込んだ。今日の僕はGoogle が作った電子のフェスに参戦していた。なんと、電子のフェスでは口に出さなくとも、今、心に思った感想をシェアできるのだ。いとをかし。

 正しいことなどわからない。権力に擦り寄って平和に生きようと思ったら目の前にその権力者の生首が晒されている、そんな世界で、やらなければいけないことなんてない。楽しいことを気まぐれにやろう。前だけを見なくていい、徳を積まなくてもいい、特には青春を思い出したっていい。17歳の頃に出会ったTATTOのある透明少女を思い出して、酒を飲みながら泣いたっていい。ああ、本当に、最高。


【3/2(月)23:59までアーカイブ公開中】NUMBER GIRL TOUR 2019-2020 『逆噴射バンド』@Zepp Tokyo

↑早く見て。あとセトリはその動画のコメントにあるよ。

僕らは電子の野原を駆け回って育った

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僕は小学校四年生まで人間強度を高めるために友達を作らなかった。というのはもちろん嘘で、幼い頃から物事を斜めから見るのが好きで、そうすることが自分の価値を高めることだと思っていた。昼放課に毎日行われる男女混合鬼ごっことドッチボール、足が遅く痛いのが嫌いな僕はどちらも嫌いで、図書館でずっと漫画ことわざ辞典を読んでいた。


もちろん、本当は少し寂しかったけれど、その頃の自分はそんなことはわからなかったし、自覚もなかった。


変化したのはその夏だった。近所のツテで友達の家に行くとそこには伝説のアクションゲーム、ヨッシーアイランドが置いてあった。それをプレイさせてもらって、僕はこれまでにないぐらいの興奮を覚えた。ヨッシーの生き生きとした動作、絵本テイストの美麗な世界。


しかし、友達がいなかった僕は、その会である男女の仲を茶化す発言をするという失態を演じ、それ以降は呼ばれなくなった。


困った。ヨッシーアイランドが遊べない。


お母さんに交渉した。どうしたら、僕にヨッシーアイランドを買ってくれる? ずっと運動をしないでいる僕を心配に思っていたのか、お母さんはこう言った。


「逆上がりができるようになったら、特別にヨッシーアイランドを買ってあげる」


僕はその日から、昼休みに図書館に行く代わりに逆上がりの練習をするようになった。インターネットで「逆上がり コツ」と検索しても出てこない時代、僕はひたすら地面を蹴って、回転し切れずにその場に戻ることを繰り返していた。


すると不思議なことが起こった。一人でずっと逆上がりの練習をしてる絵面の面白さで、クラスの女子が面白がって話しかけてくるようになった。噂を聞きつけて、逆上がりができる男子が聞いてもいないアドバイスをしてくれるようになった。


僕の昼休みは、少しだけ華やかになった。


そこから一週間もしないうちに、僕は逆上がりをクリアした。地面を蹴ると世界が一回転して、そして、戻ってきた。周りの友達は、あれ、できたじゃんと、驚くような喜ぶような馬鹿にできず悲しむような不思議な顔をしていた。


その週の土日、父親がヨッシーアイランドを買ってくれた。僕は夢中になってプレイした。一日一時間の制限の中で、どれだけ効率的にヨッシーアイランドをできるか考え抜いた。いつの間にか参加するようになったドッチボールの間も、今日のヨッシーアイランドのことを考えていた。


僕は決して引きこもってはいなかったが、僕のこころの中心には学校の広い校庭ではなく、絵本のタッチで描かれた電子の野原が広がっていた。


小学六年生の頃、モンスターファームという新たな伝説のゲームが生まれたときも、毎日自転車で片道二十分かけて、遠い遠い友達の家に行って、モンスターファームをやることが生きがいになった。友達はすぐに飽きて外で鬼ごっこをしようぜと言ったが、僕は電子の世界で生きるディノ×モノリスの黒い恐竜が寿命までに強くなれるかばかり気になっていて、鬼になった時に友達が見つからないフリをしてゲームの続きをやった。もちろん、怒られた。


中学の時にはスマブラでクラスのモテる男子に負けて絶望した。大学で所属サークルから排斥されたときに心の隙間はテトリスで埋めていた。iPod mini からは初音ミクの電子の歌声がずっとずっと響いていた。


ドッヂボールをする広い校庭の向こうに、絵本調の電子の野原が広がっている。友達の家の近くの河川敷の向こうに、電子の飼育小屋があって、綺麗な助手とモンスターを育てている。心の隙間にはテトリミノがある。初音ミクの歌声が聞こえてくる。


僕の世界は常に、電子の世界とともにあった。それをニセモノと呼ぶのだけは、やめてくれないか。

2019年は狂気の年だった

なんだか最近本当によくわからなくなるんですよね。

ほんとそれだなと(たなかさん=旧・ぼくのりりっくぼうよみ)。

 

僕は僕として僕なりに人生をよくしようと色々頑張っているような気もしなくもないのですけれど、別に人生を「よくする」必要ってなんだろう、そもそも「よくする」ってなんだろうとかよく思うのですよね。

去年はわりかし仕事がうまく行って、自分が過去関わった機能を完膚なきまでに無くすことに成功したり、頼まれてもいないことをせっせとやり続けていたら社内個人事業主みたくなったりいろいろ報われましたし多分そこそこ頑張ったのですけれど、この記事に書いた通り、最終的には運が良かっただけと思うのです。

僕は今この「資本主義ゲーム」にてダーマ神殿で「企業人」という役割を選びました。そこで僕より下手な人には、僕なりの攻略法を教えるし、不真面目なプレイヤーはゲームから抜けて欲しいと思っています(マナーですね)。しかし、最終的にはたなかさんのいうように、他人は他人で好きに生きればいいし「昭和の価値観のままアップデートをせずに生きる」も心から別にいいと思うので、好きに生きればいいという発信をする必要もないのです。

極論、みんな既に「好きに生きている」わけなのですから。

僕の好きな人には僕の見えるところで、僕の嫌いな人には僕の見えないところで適当に幸せに生きていって欲しいなと少し手を打つことはありますけれどね。

 

まあしかしそういう考えに至るともはや何をすればいいかわからなくなるので、わからなくなった僕はとりあえず、

・冬には自己啓発書を読みふけり
・春には結婚し
・夏にはテトリスに熱中したり
・秋には VTuber をやってみたり

(我ながらだいたいこの4行でまとまったな2019年)

ありおりはべりいまそかりしたわけなのですが、停滞の年2018年よりは動いてはみたものの何かが劇的に成功したかというとそうでもなく、むしろ2018年の「Nier:Automata」が2019年には「VTuberテトリス」に変わっただけではないかという思いに囚われもして。

Google に転職活動しようかなと半分冗談で言ってみたら「周りの人が転職した経験が人生においてないから不安すぎる」と母親にガチで心配されたり「テトリスに集中したいから転職は今はいいや」と半分本気で言ったら母親にテトリスが再評価されたりして、私もまたなんというか、適当を絵に描いたように生きているなあと思うのです。

後結婚もね、個人的にはそんなに違和感のない自然な選択だったんですけれど、周りの人にそれはもう「お前はロックと言いつつJ-POPな人間だと思っていたのだけれど、それはマジでロック」とか言われまして。

なんというか僕は常に「自分は天才だ」という気持ちと「自分マジでゴミ」って気持ちを両方持っているのですけれど、それはインターネットに住んでいるからだと本気で思います。結婚を決めたLINEもそれはもうリアル友人会社の同僚からは「すごい」と褒められまくり挙句「心があったかくなった、泣ける」とまで言われたのに、いざ満を辞してツイートしてみたら、60万フォロワーの美人婚活女子、しぬこさんいいねブーストをつかっても「20いいね」でした。今の時代、結構普通、なのかな。

友達とタイ旅行にいって、みんなスマホをいじりながら電車に乗っている光景を見て思いましたけれど、インターネットとGAFAは世界を本当につなげていて、その広い世界に至れば私など超!超!超!普通のプレイヤーであることを実感せざるおえないのです。ちなみに私が今年ハマったテトリスにかけた時間は

テトリス99     80:31:32
ぷよぷよテトリス 60:00:00 以上
Tetris Effect    55:23:09

驚愕の 195:54:41 なのですが、これで Youtube みたらいまだに40LINE 1分切れない自分なんてもう恥ずかしいぐらい初心者のレベルですからね。自分マジでゴミ。というか、周りが狂人(天才)すぎる。まああめみやさんとかテトリス毎日3時間配信してますからね。2ヶ月で配信中のプレイ時間すら負ける(配信外までカウントしたら……)。これが世界と繋がるってことですよ、本当に Google 余計なことをしてくれたな、と思った結果書いた小説がこれです。

 

話を戻すと、つまり自分が調子に乗ってると思ったら YouTuber をしてみれば冷静になれるよということを言っていきたいのです。しかしこれにはデメリットもあって、この「周りの狂気」と対比して「自分の普通さ」を自覚することで歯止めが効かなくなって、今年はちょっと狂気に触れすぎたように思います。

VTuber 活動も完全にインターネットでオンリーワンの領域を目指してよくわからない方向に進み自分で自分のやりたいことを見失いました。まさに「好きなことで生きていくつもりが周りの目を伺いまくってしまう」という状態ですね。周りって三人ぐらいしかいないのだけれど、インターネットで友人でなく自分を見てくれる三人ってマジで貴重なので大事にしすぎるのですよ、つい。

結果やはり2019年は「いろいろやってみたけれど特に成果がなく、そこそこいろいろ失った」年であったなあと思います。でもなんとなく2020年は地面を踏みしめていこうかと思うと別にそうでもなく、このまま流れに身をまかせるようにいろいろなことをしていくのだろうなと思うので失敗したわけでもないのだろうなとも。

相対的に「地元」で「ローカル」な「狭い世界」の意義や意味を見出す一年でもありました。インターネットに触れていると、キズナアイさんやあめみやたいようさんなど世界一ばかりが目についてしまいますが、やはり「株式会社●●品川オフィスではテトリス一位」みたいな称号や、僕の結婚を喜んでくれる友人を大事にした方が絶対に幸せだと思うし、今後はそういう「ローカルコミュニティ」への揺り戻しが起きていくような気がしています。それはわかったのです。だから世界一の技術者にはなれないけれど仕事も大事にします。

 

でもインターネットが好きなんです。幸せになれないとしても。

それがぼくのささやかなきょうき。

2019年は狂気の年だった。

2019年ベストソング10選

VTuber のお陰で2015年あたりからアンテナが下がっていたインターネット投稿の音楽への感度がまた上がり今年は音楽をたくさん聞きました。離れていた頃に流行ったボカロ曲も大方把握できた気がします。

以下のルールでランキングしています。ではどうぞ。 

・アーティスト毎に一曲のみ
・アルバムとシングルは別カウント
・私情は挟まず iTunes の再生数カウントに準ずる

(なお、好きな曲だけ読みたい場合は、記事の最後に目次があるので思いっきりスクロールして逆に辿ってくださいな。)

10. 海の幽霊 / 米津玄師 (20) 


米津玄師 MV「海の幽霊」Spirits of the Sea

2019年も彼の年でした。ついに全面降伏宣言し、真面目に選考すると決めたレコード大賞がパプリカを大賞に選出(今更遅い)。菅田将暉は彼の提供曲「まちがいさがし」で紅白出場。NHKオリンピックテーマ曲「カイト」では嵐とコラボ。Lemonは前人未到のカラオケ85週連続一位(52週で既に新記録)、ちなみに5億再生。

本作も「馬と鹿」も YouTube では6000万再生。

彼の曲はタイトルがいいですよね。「まちがいさがし」も「カイト」も、タイトルというかテーマが既に素晴らしい。タイトルが決まると書けると川谷絵音西尾維新も言っていましたが、米津玄師もその類いの人かもしれません。

海の幽霊はそのサウンドプロダクションが素晴らしかったです。多重録音されたボーカルの浮遊感とサビで一気に目の前が開くようなミックスが素晴らしい。彼の曲って11とか13とかの普通簡単に使えないテンションコード多用したり(灰色と青)、サビのリズムがつんのめったり(カイト)するんですが、この曲はわりとシンプルなコード進行とメロディで、凝った編曲で攻めてきている気がします。本当にになんでもできるな。

9. R U GAME? / KMNZ (20)

open.spotify.com

もう VTuber が出てきてしまいましたが、ケモ耳ボーカルユニット KMNZ です。Twitter でやたら根暗な発言を繰り返す、が、声が完全に萌え声の LIZ と、ちょっとボーイッシュで真面目な感じの LITA のユニット。クラウドファウンディングの力でアルバムが出たのですが、それがまた素晴らしくて12月のヘビロテでした。

わかりやすくいうと HALCALI の2019年解釈版ってところでしょうか。非常にゆるい空気で、ラップの歌詞もフロウもゆるくて、でもトラックはガチ。

この曲はその中でもキラキラしたギターと電子音が絡む王道チューンなのですが(キラキラしたギター大好きなんです……)衝撃を受けたのはむしろ「Opening」の全くやる気がないボイパと「melty girl」の歌詞ですね。

ぶっちゃけライブの前日は、ちょーだるいよ

君にとっちゃ休日の楽しみでも あたしにはただのお仕事

melty girl / KMNZ

ここまで言い切る曲はじめて聞いた。笑っちゃいました(この後フォローが入りますので安心してください)。

ちょっと LIZ の萌え声が好み別れるかもしれませんが、それがイケるならとてもいいです。まあ、一度聞いてみてくださいな。

8. Dance With Cinderella ! / 輝夜月 (31)


輝夜 月『Dance With Cinderella !』-LIVE CLIP

輝夜月も VTuber なのですが、彼女はその「首絞めハム太郎」と呼ばれる声が唯一無二なんですよね。勢いだけの動画で2年押し切るのは難しいとおそらく考えた彼女の運営が、2019年に音楽活動側にシフトさせたこともうなづけます。VTuber というのはある意味では「声」の職業なので、音楽との親和性が高いのです。

彼女の曲はミクスチャーというか、ロック・パンク・ラップ(台詞?)のごった煮系で勢いで攻めてくる感じなんですが、この曲のガーリィな感じが彼女の声に一番あっていて気持ちいいです。何度でも言いますが、ロックが似合う女性ボーカルって言うのは貴重なのです。彼女はデザインもロックそのものですし。

歌詞は真面目に読むとちょっと恥ずかしいです。若い。

彼女のアルバムが 1月15日 にでます。今はまだイマイチな VR Live の進化にも期待したい。Zepp VR と名乗るぐらいなのですから会場と同じ熱量を再現して!

NEW ERA / 輝夜月 (23)

これクイーンの「ボヘミアン・ラプソディ」ですよね?笑

7. ユリイカ / サカナクション (31)


サカナクション - ユリイカ (MUSIC VIDEO)

サカナクションがやっと出してくれたアルバムより。2019年ではないが、アルバムの中にあるので、ルール通り2019年の曲としてカウントです。

今年も彼らのライブを見ましたが、本当にこんなに売れているのが信じられないぐらいに変なバンドですよね。アルバムの冒頭「忘れられないの」とか謎の 80 年代風味出してきたし。なぜ今? 山口一郎の考えることはわかりません。

この曲は柔らかくエコーの効いたエレピのループが気持ちよく僕の好みど真ん中の曲なのですが、着目すべきは歌詞ですね。

いつえーいえーん(永遠?)おわかなー(わからない?)

かぜがふくたびいそーぐーいそーぐ(it's so good?)

と聞こえる英語なのか日本語なのかわからない感じのBメロ、実はこうです。

いつ終わるかな 風が吹くたび 生き急ぐ 生き急ぐ

「いつ」と「終わるかな」の間に「yeah yeah」って入れる? 普通? やはり山口一郎の考えることは本当にわかりません。でも、サビの「時が 時が 時が 時が震える」のリフレイン本当に気持ちいいんです。悔しい。アルバムは本当に良かったです。

6. ヒトガタ / HIMEHINA (33)


HIMEHINA『 ヒトガタ 』MV

この曲そんなに好きじゃないです。笑 いえいえ違うんです、VTuber アーティスト系最高峰の HIMEHINA は VTuber 唯一の1000万再生の曲を持っておりそれがボーカロイドの「劣等上等」のカバー。この曲はアレンジがその流れを汲み過ぎていて少々意外性に欠ける部分がありました。なのでここからは「劣等上等」について語ります。


HIMEHINA『劣等上等(Cover)』MV

「劣等上等」はキレッキレのラップがまず耳に残ります。特に田中ヒメのリズム感がすばらしく、少々しゃがれた声もラップ向き。さらに、鈴木ヒナとのハモリは声質も合っていてなんとも美しい。Perfume のあーちゃんが「Perfume みんなの声を合わせた瞬間がすごく好き」なんて言っていましたが、その極地という感じです。ペアで活動することの多い VTuber の良さがこんなところに。

加えて、その間奏で披露される田中ヒメの人力シンセサイザーによるドロップ。原曲はEDMライクなワブルベースの音ですがそこを笑い声に置き換えるという発想とその完成度に震えました。ボーカルを加工してエレキギターソロのように使うのは muse などが使う手法ですが、ここでそれが聞けるとは。本当に素晴らしい。最後の「フロアが 湧き上がりました」という自信満々なセリフの締めも完璧で、この格好いい曲を作ったギガさんとそれに魂を吹き込んだヒメヒナに感謝しかありません。

もちろん踊りとPVの素晴らしさは言うまでもなく、ライブの完成度も VTuber では彼女らがぶっちぎりのナンバーワンでした。今年は必ずライブに行きたい。

ヒバリ / HIMEHINA (30)

ボカロの高速歌唱の流れを汲んだ爽やかなロック。オリジナルではこれが一番好き。

琥珀の身体 / HIMEHINA (24)

まさかのしっとりR&Bまで。シリアスな歌詞が映える。

5. Aurora / BUMP OF CHICKEN (38)(+32)


BUMP OF CHICKEN「Aurora」

今年の BUMP OF CHICKEN のアルバム、aurora arc は本当に素晴らしかったです。バンドサウンドに回帰し、しかし電子音を取り込んだ際に培ったキラキラ感はうまく取り込まれており、どの曲もメロディが抜群に良い。歌詞は当たり前のように良い。

中でもとくにサウンドが気に入ったのがこの曲。イントロのギターの音がオーロラのように柔らかくキラキラしています。サビの裏声も祈るような切実さと静謐さを秘めており「もう一度 さあどうぞ 好きな色で 透明に」ってコーラスがまた透明感があって……編曲と歌詞が一番シンクロしていた曲なのかも。

彼らの歌詞がいいのは当たり前なのですが、この曲の最後の言葉はこれです。少し寒さを感じる編曲の最後に「あなた」と優しく暖かく語りかけてくれる藤原さん。この「温度感」アルバムの中でも随一。涙がでる。

あなたの言葉がいつだって あなたを探してきた

アルバムとシングルで再生カウントが分かれてしまったのでこの順位ですが実質年間一位。アルバムごとずっと聴いていたので、以下の4曲も実質10位以内です。

aurora arc / BUMP OF CHICKEN (40) 

アルバム冒頭6拍子インスト。最近のバンプは結構攻めた拍子にすることも多いです。

月虹 / BUMP OF CHICKEN (39)

この曲のCメロへの進行はすごい。宇宙を感じる。疾走感の中に感じる円熟味。

アリア / BUMP OF CHICKEN (28)

たった一瞬をここまでドラマチックな曲することができるのですね。シングルよりもストリングスが効いていて壮大になっており、間違いなくレベルアップしてます。

記念撮影 / BUMP OF CHICKEN (27)

タイトル百点。このテーマで藤原くんが曲を書いて悪いわけがないです。この曲のワンピースのコラボCMを見るたびに涙が出てしまうのでやめてほしい。

4. RENDERING THE SOUL / world's end girlfriend (41)


world's end girlfriend / RENDERING THE SOUL / MUSIC VIDEO / feat. HATSUNE MIKU 初音ミク

まさかこのタイミングで WEG が初音ミクを使うと思いませんでした。

『AIが人間の不完全さや非合理性を面白がり、人間が持つ孤独や苦悩や悲哀などを「感情のコスプレ」として真似して遊んでる音楽』

(動画の概要欄より)

……という特殊なコンセプトで製作された本作を聴いていると、自分も AI のように曲の要素の断片のもつ「仕掛け」に感動しているだけではないか、という気分になってくるのですが、それはそれとしてドラマチック極まりないぶっ飛んだ展開と美しいシンセサイザーの音が爽快でもあり、これぞ WEG といった曲に仕上がっています。

初音ミクの声を生かした曲、というのは久しく聴いていませんでしたが、まさかこのビッグネームから出てくると思いませんでした(twitterの告知を見てガッツポーズしました)。そしてここまでぶっ飛んだものは今までなかったです。

4. 魔女 / 花譜 (41)


花譜 #11 「魔女」 【オリジナルMV】

さて。2019年の VTuber の音楽を語るときに「花譜」を避けて通ることはできないでしょう。しかし本当はあまり彼女を VTuber の文脈で語りたくはないのです。彼女はあくまで、ご両親の心配を考慮し顔を出して芸能活動をしないで済むように VTuber という手段を取っているだけ。もちろん、何かあったときにアバターごと忘れられる権利を行使できることも VTuber の利点なのですが、そんなことより彼女の声を聞いてほしい。

最初に「魔女」の「これは魔法だ」という歌詞を聞いた瞬間にすぐにわかりました。彼女の掠れた、絞り出すような、少女性の強い唯一無二の声。僕は確信しました。これは、絶対に、注目される、と。

この声を生かす曲を書くのは「命に嫌われている」という、命を絞り出して書いたとしか思えない切実なボカロ曲で有名になったカンザキイオリさん。この二人がタッグを組んだことは2019年の奇跡と言っても過言ではないです。椎名林檎亀田誠治と会った時のように。運命を感じてしまう。

普通の人の10倍ぐらい儚くて100倍ぐらい感情が乗っているかのような彼女の歌は、まるで青春そのものが鳴っているようで聞いていると胸が苦しくなります。VTuber に興味が湧かなくてもいい、ただ、彼女の歌を聞いて魔法にかかってほしい。それだけです。

quiz / 花譜 (24)


花譜 #29 「quiz」 【オリジナルMV】

ボーイミーツガール。僕は強がりで「大丈夫だよ」と歌う曲が大好きですが、この曲は僕の人生で聞いた中で一番切実で大丈夫じゃない「大丈夫だよ」だと思います。

3. STAND-ALONE / Aimer (42)


Aimer 『STAND-ALONE』MUSIC VIDEO(日本テレビ系日曜ドラマ『あなたの番です』主題歌)

図らずもハスキーな女性ボーカリストが2組み並んでしまって僕の趣味が完全にバレるのですが今年も Aimer は素晴らしかったです。

この曲のように「一見、ボーカルが埋もれてしまいそうなテンポの速い」曲と彼女の相性、実は良いと思います。おそらく、バラードでなくても、彼女は「歌い上げる」ことができるのではないかと。一番のサビの最後のフレーズの「そうでしょう」の音の伸ばし方を聴いてみてください。ものすごい息の抜き方で、表現力の凄まじさを感じます。

Aimer のライブに行ったときに彼女は歌声だけでなく、歌い方も含めて素晴らしいんだなと改めて実感したのですが、まさに技術と天性の声を併せ持った類まれなシンガーだと思います。

I beg you / Aimer (33)


Aimer 『I beg you』(主演:浜辺美波 / 劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」Ⅱ.lost butterfly主題歌)

呪術的でまさに梶浦さんといった作曲ですが、こんな曲も歌いこなせる Aimer はさすがだと思います。Aメロの後ろで聞こえている「あっあー」という怪しいコーラスは正しい Aimer の声の使い方だと思います(雰囲気が出すぎていて最初楽器かと思った)。浜辺美波の MV も本当に素晴らしいです。

2. Got to Keep On / The Chemical Brothers (50)


The Chemical Brothers - Got To Keep On (Official Video)

配信日に速攻でDLして、冒頭のシンセリフが聞こえてきた瞬間にあまりの「音の良さ」に小躍りしましたがこのレベルでの音の作り込みは邦楽ではなかなか聴けず、洋楽ならではかなあと思います。そして名曲「Swoon」流れを汲む美しい女性コーラス、直接脳に作用して踊らせてくるようなベース。そしてあからさまなブレークと圧巻のドラムロール。これまでの彼らの総まとめのような楽曲。観客の歓声をサンプリングするのはなかなか勇気がいると思いますが、よほど曲に自信があったのでしょう。

しかしまあ、一つのジャンルを作り上げ引っ張ってきて、音楽の歴史に残ること確定の伝説のテクノチームでありながら、一体何度良作アルバムを作れば気が済むのでしょうか。今年は Underworld も去年に引き続き精力的にリリースし、内容も素晴らしく、EDMがすでに少しの陰りを見せる流行り廃りの激しい世界で、テクノレジェンドたちの存在感はむしろ強化されているように思います。

加えてアルバム一曲目「Eve Of Destruction」では、ゆるふわギャングをフューチャーして「ぶっ壊したい何もかも」なんてサンプリングを入れてきてびっくりしました。彼らにとっては日本語も英語もみんなフロアを揺さぶるための素材でしかないのですね。


The Chemical Brothers - Eve Of Destruction

1. shadowgraph / MYTH & ROID (56)


MYTH & ROID「shadowgraph」 (TVアニメ「ブギーポップは笑わない」OPテーマ) MV full

けいおんの「GO! GO! MANIAC」は僕のアニソンへの偏見をぶち壊した曲ですが、やはりその仕掛け人である作編曲の Tom-H@ck 氏は素晴らしいです。この MYTH & ROID も彼のプロジェクトの一つですが、それを知ったときにあまりに雰囲気が違う作風に同じ作者だと信じられない気持ちと、やっぱり彼かという「してやられた」気持ちが一緒に襲ってきたことを覚えています。

大好きな硬いシンセの音と、ストリングスの厳かな音の組み合わせ。曲の最後にいちいち挟む「ダダダダ」というスネアとストリングスとシンセのユニゾンがいちいち気持ちよく、アニメの世界観に寄り添う無機質なボーカルが非常に格好良い一曲になっています。僕の好みど真ん中、ですね。

 

というわけで目次です。今年はちょっと VTuber にうつつを抜かしすぎて洋楽が足りなかったので来年は洋楽も聴いていきたいと思います。

 

 

白日 / King Gnu (12)


King Gnu - 白日

ちなみにこの中に確実に入るべきだったのに、紅白まで聞くのをサボっていて(いい曲な気はしていたので、本当に「サボっていた」という表現が正しい)漏れた曲がこちら。いやあ、もう人気すぎて語るのも恥ずかしいですが「白日」好きですねえ。

こんなに流行っているのが信じられないぐらい「凝った」曲だと思いますが、なんだかんだピアノソロと一緒に始まったり、コードがしっかり邦楽っぽくあったりと、実はすっごく分かりやすくもあるのが実に絶妙なバランス感覚だと思います。

Official髭男dism といい King Gnu といいお洒落で凝った2つのバンドが一気に紅白までジャンプアップした 2019年ですが、この流行りが「ボカロで育った年代が大人になったから」という仮説は本当なのでしょうかね。そもそも、米津玄師がシーンを席巻している今それらを切り離して語ることは難しいと思いますが、面白い仮説だと思います。

2019年 VTuber 動画10選

「どうしようもなく、今を生きてる」

そんな新しい生き方、リアクションに必要な顔をあえて出さずに、キャラクターと融合してライブをするバーチャルライバー達の2019年の動画10選です。

 

技術・企画・歌と三拍子揃った脱サラ系 VTuber の天才姉妹


【モニタリング】人はジャンケンに勝ち続けたらどうなるの?

最初はおめシス。オタク感や内輪感が薄くテーマが分かりやすいため、はじめての人に勧めやすく、その上で彼女らより「バーチャル」を生かした「YouTuber」を真摯にやってる人はなかなか見つからないという意味で、終着点でもある。

紹介する動画は手をモーションキャプチャで動かすという環境を逆手にとって「ジャンケンでかならず勝てるように」プログラムすることで相方にドッキリをするという、素晴らしい発想力と技術力が必要な企画である。週4の投稿頻度を守りながらこんな技術系企画をさらりと挟んでくるのは驚愕の一言。どう考えても技術系の会社で戦える。正直、弊社に欲しい。

これ以外にも・・・


大接戦!ボウリングを縦向きでやったら楽しすぎた!!


【世界創生】VRジャングルクルーズ選手権!!!【前編】

などなど発想力とそれを実現する技術力に驚嘆することしきりである。なお技術系以外も、リアルロケ、YouTube 仕様紹介、ゲーム実況、ぶっ飛んだ(いろんな意味で)生放送などしっかり YouTuber らしい企画もしていて見ていて飽きない。

なお、最近の動画で一番再生されているのは紅白でも圧倒的な存在感を見せた King Gnu の「白日」のカバーである。本来追記で紹介するべきではないクオリティのリオちゃんの低音が映えるガチでよいカバーである。えっ、歌系 YouTuber だったの!? こんなに色々できるのに、歌も上手いとか、もはやずるい。


白日 / King Gnu by おめがシスターズ

ソロで脚本構成演出主演をこなす一人企業 VTuber


【本物の月ノ美兎に投票しろ!】

僕を VTuber 沼に引き込んだ元凶であり、彼女を知る誰もが天才と口を揃えるインターネットの申し子。個人的には VTuber 界のレディオヘッド。マニアックなもの含めて流行りのいろいろな要素を取り込んで、自分なりに消化して吐き出し、動画ごとにいろんな側面を見せながらも、共通して感じる「尖った」感性。アーティストオブアーティスト(同業者に注目される)なところも。

紹介する動画は、多重録音を用意した上で、生放送で自分の声を重ねて、視聴者にどれが録画でどれが本物かリアルタイムで投票させ、その結果で用意した結末を変えるという恐ろしい企画。脚本力と演技力、さらには演出や構成まで一人でやってしまうなんてもはや一人TV。しかもこれライブ。この企画で Zepp 埋められるよ。

残念ながらリアルタイム投票の結果、本人は「目線」でばれてしまったが、そんなハプニング含めた不確定要素を計算して「ライブ配信」でこれを行う彼女のパワーには舌を巻く。加えて、もし本人以外に投票が集まったら、あなた達が選んだんだから、本物は(録画の)私よ、と録画でしかなし得ない逆再生音声で語るバッドエンドまで用意していたとか。詳しくは本人の note を見て欲しい。

このエンターテイメントの中で「VTuber における本物とは何か?」という2019年を賑わした本質的な問いにまで触れてしまうところに彼女の恐ろしさがある。

これ以外にも、

・彼氏(ボイチェンした自分)との掛け合い一人芝居


にじさんじ初・彼氏持ちVtuber配信

・長尺配信でありながら、VTuber の魂に言及する大筋を用意して展開の妙で魅せる(眠い目をこすりながら聞いていた僕らの目を覚ます衝撃だった)を与えた百物語


百個怖い話言うまで帰れない放送2019【前半】 


百個怖い話言うまで帰れない放送2019【後半】

・・・と、2019年の彼女は見所ばかりでとどまるところを知らなかった。歴史に名を残す事が夢と語っていたがもうすでに達成してしまった彼女が2020年にどこに向かうのかの興味は尽きない。

インターネット老人会代表 ケモミミ美少女


クリスマス?なにそれ?お焚き上げ?【#白上お焚き上げ】

天才を二人紹介したところで、少し癒し系の動画を紹介したい。本動画は、前述の委員長とNHKバーチャル紅白歌合戦の副音声を立派につとめあげた、白上フブキさんが、クリスマスの切ないエピソードをただ淡々と読んで、ぽそっと感想を読んで、燃やしていくというそれだけのシュールな動画である。

この動画はインターネットの黎明期を思い起こさせる。「リア充」もとっくに死語になった昨今ではあるが、寂しいぼっちクリスマスを過ごす人たちの数は変わらない。むしろ増えているかもしれない。

白上フブキさんは使い古された「リア充氏ね」コンテンツを可愛らしく再解釈した。人間の本質は変わらないし、ぼっちクリスマスの寂しさも変わらないが、今は可愛い猫耳少女が優しく負の気持ちを受け止めてくれるようになったのだ(あ、狐でしたね、すいません)。

普段賑やかなフブキさんも終始テンションが低く、そのおかげで YouTuber 独特の賑やかなノリが苦手な人も聞きやすい動画になっている、と思う。どうだろう。

VTuber には適合者がいる、と思う。最低限の、目と口と距離しかトレースできないスマホアプリでありながら、やたら感情表現が豊かな人たちがいる。フブキさんもその類で、カメラに近づいたり離れたりしてディスプレイの範囲で賑やかに動き回る姿はとてもかわいらしく、新しい需要が人間に新しいステータス「V適性」を生んでいるということを実感する。もしかしたら、ルックスもそこそこで勉強も運動もできない誰かは、V適性に優れている誰かなのかもしれないですよ、お母さん。

新進気鋭の女子高生ロックシンガー誕生ドキュメント


【#マリカにじさんじ杯】アロハ帰りのマハデロちゃん、爆走回【予選Fリーグ】

VTuber初音ミク文化というかニコニコ動画文化と地続きなので、歌とも関わりが深い。まあこれはどちらかというと「初音ミク」ではなく「歌ってみた」文化にアバターがついたという解釈が一番近いと思う。樋口楓は前述の月ノ美兎にじさんじの同期であり、歌が上手いことをフューチャーされた VTuber である。

VTuber の新しさも手伝ってさっさと多くのアーティストの登竜門である Zepp 単独公演を達成してしまった彼女は、当時こそ「歌は上手いけれどこのレベルでZeppOsakaBayside だと?」なんて声も聞こえていたのだが、ぐんぐん歌が上手くなりさらにライブ煽りまで板についてきて、ついにアニメ系レーベル大手ランティスからメジャーデビューを決めている。2019年は LiSA が紅白に出たが、ロックが似合う女性シンガーというのはありそうでいなくて、結構貴重なのである。

それはそれとして今回紹介するのはそんな彼女が大規模マリカイベントに参加した時のものだ。マリカは下手くそな彼女はアイテム運に左右されやすい「ベビィパーク」というステージを愛し「私の前にたつなあ!」「Don't Stop!」などロックシンガーらしくこぶしを効かせた暴言を吐きまくって配信していており、見ていて非常にスカッとして面白い。ヤンキーじゃね、という気持ちはしまっておこう。

動画内で彼女はライブについて言及している。

「マリカとライブは同じだ。ライブは何度も練習できないからイメージトレーニングが必要なんだ。この曲のここでこうやって言ったらみんなが盛り上がってくれるはずだ」

ようはマリオカートの練習が少ないことの言い訳なのだが、早々に Zepp を埋めたシンデレラの気持ちが配信を通してそのまま届くのはとても興味深い。


樋口楓1stライブ「KANA-DERO」ライブ映像特別公開!『響鳴』

1年前までただの素人の女子高生が、今こんなことしてるってスゲーな……。

irori rorin

これは彼女のライブ紹介動画のトップのコメントだ。「本当に彼女は素人なのか? 実はずっと準備をしていたアーティストの卵では?」昔ならそう言われていたかもしれないが、このコメントが正しいことは彼女のチャンネルを追っている人ならばわかるだろう。以下の動画では、VTuber をやめるか悩んでいたことすら示唆している。


楓と美兎 ~休日編~ -後編-

紅白の「カイト」の紹介ドキュメンタリーで米津玄師と嵐が飲みに行ったと言っていたが、僕らのやりたいことは言うなれば、隣の席でそれを聞きたいに他ならないと思う。それに近いものがここにはある。樋口楓さんのチャンネルそのものが、新生女性ロックシンガーの日常のドキュメンタリーなのである。なんて贅沢な時代だろう。

ライブ配信でドラマを引き寄せるバーチャルイキリ陰キャラパンダ


【視聴者参加型】マリカ8DX1位とれるまで終わりまてん~!笹木咲/にじさんじ】

2019年は動画勢(編集した動画を投稿することをメインに活動)<ライブ勢(ライブ配信メインで活動)という明確な関係性が生まれた時代である。僕はこの動きを「TVがなくなって世帯のつながりが希薄になった世代の新しい寂しさの埋め方がライブ配信に参加することだったから」だと思っている。数ある VTuber 事務所の中で「にじさんじ」が最も成功したのは「ライバー」が主体ということも大きい。ライバーってなんか、かっこいいな。

そんなライブ配信での鉄板コンテンツは「○○ができるまで終わりません」だ。「テトリス99で一位になるまで」「マリカで一位になるまで」などなど。なぜこれが面白いかといえば、有名ライバーがライブ配信で行うことで「やたら強い人」を呼び寄せてしまい条件がむちゃくちゃ厳しくなるから、である。

この六時間動画は見所だらけなのだが、そもそも笹木咲(ささきさく)は前述のマリオカート杯3位の実力者である。それが六時間一位を取れなかったというだけで壮絶な企画であったことがわかるだろう。一番の見所は、途中で起こった忖度である。

なんとか三時間強で一位をとった彼女だが「忖度では?」という疑惑が起こる。そこでマリオカートの機能「リプレイ」を使って検証するのだが、検証を何度も行なった結果「二位になったキャラクターがゴール前でアクセルを踏まずに止まっている」ということが確定した際の彼女の失意の叫びは(申し訳ないが)最高に面白い。強がり悔しがりイキる笹木咲の姿はなぜか分からないが本当に映える。これも才能である。

昔僕らは友達の家でゲームをやっていた。時々その中でも、面白いことが連続で起こる「神回」があったと思うが、それを無限に閲覧するばかりか、参加までできるなんてすごい。やはり贅沢な時代である。

企画の妙。テトリス好きくノ一お姉ちゃんはテトリスの神を金で倒す


🔴【検証】テトリスの神は金の力で倒せるのか?

2019年で企画といえば彼女「朝ノ姉妹プロジェクト」さんである。彼女は声優の仕事をすでに行なっているプロであり、さらなる高みを目指して VTuber を行う選択肢を選んだ。そうしたら新しい才能が開花してしまっている。

この配信には文脈の説明が必要なのだが、まず、テトリス全世界一位と自称するあめみやたいようさんは YouTuber を長くやっている。彼のルールは「スーパーチャット(投げ銭)をテトリスをプレイしながら読み上げる」というものである。テトリス中にコメントを読めるし、なんなら読みながらでも勝てる、という言うなれば魅せプレイであり、リスナーも必ず読んでもらえる嬉しさがあって Win-Win だ。

それを逆手に取った彼女の企画趣旨は「手元に五万円用意してそれで何度もスーパーチャットをすることで彼を邪魔して一位から引きずり下ろす」というものである。

これをライブ配信で行うことで非常に面白い化学反応が起きた。

もともとあめみやさんの配信に来るリスナーたちがそれに便乗してむちゃくちゃチャットを投げ始めたのである。彼はそれを必死に読み、読みながらテトリスをするが流石に余裕がなくなってくる。余裕がなくなりミスも増える中で、それでも必死に一位を守り続けた彼がついにちょうど一時間程度経過後に、二位に甘んじる瞬間はまさに脚本通りの山場と言っていい。

あめみやさんは「対戦」に特化しているプレイヤーであり、状況判断がむちゃくちゃうまく、テトリスの通常対戦ならいざ知らず、戦略の要素があるテトリス99でうろたえることや苦戦を強いられることはほとんどないのに、それを引き出したのは大きい。演者に過酷な条件を課すのはその人の新たな側面が見たいからなのだ。動画終了前にさすが声優業といえる声が綺麗な朝ノ瑠璃姉さんにちょっと緊張した感じで受け答えをするあめみやさんもまた彼の新しい一面である。


🔴1位取るまで終われないテトリス99

ちなみにそんな二人をつなげた企画はこれである。驚愕の11時間。馬犬さんというビックゲストまで呼び寄せた伝説の企画であり、終われなかったのは端的に言えばこっそりあめみやさんが参加していたからである。世界一が相手で終われるわけがない。

朝も昼も夜も風呂でも麻雀。女子力皆無なのに声が可愛い根っからの配信者 


【麻雀】裏ドラRTA - 裏ドラって何ですか? - 【アイドル部】

2019年と言えば VTuber 業界が荒れた年でもあった。大人気のゲーム部は魂(声優)交代で低評価が走り、トップを走るキズナアイも同じアバターで別の人格をたくさんインストールしたことで物議を醸し、VTuber 四天王は動画勢が多かった故に力を失っていった。企業が VTuber をコントロールすることは本当に難しい。

そんな中で彼女に触れないわけにはいかない。夜桜たまは電脳少女シロの後輩である「アイドル部」として生を受け、あまりにわかりやすくぶっ飛んだ人材であることでたくさんのファンを獲得していった。いきなり四画面で同時に麻雀をしたり、あまりに女子力の欠けた発言をしたり(マカロンって、砂糖だよね?)、不思議と泣き虫だったり。それなのに声が落ち着いていてとても可愛い。

特に麻雀という要素は群雄割拠の VTuber たちの中でも彼女の強烈なオリジナリティとして機能し(麻雀をやる人は多いが、朝昼夜+風呂にスマホを持ちこんでまでやる人はそうそういない)、ついには麻雀のプロ達にラブコールを受けるに至った。それはそうだ、彼女の麻雀配信、プロでも稼げないほどの視聴者数を獲得している。彼女の出した麻雀初心者向け解説本は麻雀本では異例の Amazon ランク一位を獲得した。

この動画はそんな彼女の不思議な特徴(なぜか裏ドラが乗らない)を生かしたタイムアタック企画で、裏ドラの前にさっさと役満をあがるという衝撃の展開でツイッタートレンド入りした。麻雀がツイッタートレンドになる程話題になることはそうそうない。

そんな彼女は、内部告発のような動画を出して最終的には事務所と袂を分かつことになった。もともと評判が良くなかった事務所だったので、盤面は荒れに荒れ「12人の絆」を特徴にしていたアイドル部の順風満帆な流れを断ってしまった。

彼女が正しかったのか、会社が正しかったのか、それに答えを出す情報を僕が観測することは不可能なので興味はない。

小学校三年生から何らかの形で配信していたという噂のある彼女は、たとえ事務所がなくなっても新しい場で配信するだろう(もうすでに新しい名前の彼女の動画が観測されている)。雀プロとのコネクションもある彼女がこのまま沈黙するわけもない。VTuber の事務所は、ひいてはこれからの企業は、このような「個人」が生きるように運営方針を考えなければならない。一企業人として、難しい時代になったなと思いつつ、一ファンとして芸能界の「のん」みたく潰されずに本当によかったなと思う。

四天王として唯一勢いを維持する属性過多で魅力の底が見えない電脳少女


超絶怒涛の高速実況!シロもなに言ってるのか自分でも分からないよ!【Trials Rising#3】

そんな母体となる会社の騒動がありながらも、電脳少女シロだけは勢いを止めずに活躍の場を広げていった。彼女の魅力を一言で説明することは難しい。キズナアイのような一番乗りのオリジネイターでもなければ、輝夜月ほどインパクトもなく、のじゃロリのようにバ美肉(ようは女性アバターで中の人が男)でもない。

そんな一言で説明できない彼女の魅力の一端がわかるのがこの動画である。この動画は彼女はとにかくよく喋る。その声は普段の萌え声から、うまくいかなかった時に出す野太い声、アイドルっぽい甘え声、大人のお姉さんの声と驚愕の四種類。

それでいてとにかく喋る。突然「勝手に自転車の補助輪を外して『ほら走れていたでしょ』というのは何を信じたらいいかわからなくなる」という持論を展開したり、試行錯誤を続ける自分を自分で褒めたり、銀杏拾いに触れたりと無茶苦茶である。無茶苦茶であるがゆえに勢いが無茶苦茶面白い。正直この動画の再生数は一桁足りない。

今年も電脳少女シロを見る機会が多かった。ガリベンガーのように地上波レギュラーでバイきんぐの小峠さんと絡む姿も見慣れたものだし、大抵のイベントには彼女が呼ばれている。バーチャル紅白歌合戦ではオリジナル曲ではなく、歌を「大人のお姉さん声」で歌うという意外性も見せた。

そもそもキズナアイですら三人で回しているのに、地上波レギュラーやライブイベントも山盛りの彼女が、未だに一人で毎日動画を投稿している真面目さは異常である(それでいてポケモンの動画がガチ勢風であるのもおかしい、いつプレイしてるの?)。異常さは彼女の過剰さとなり、彼女の魅力になっている。一年間追いかけていてもそれぐらいしかわからない。電脳少女シロはもしかしたら本物の AI なのかもしれない。


#バーチャル清楚杯 2019【電脳少女シロ/富士葵/月ノ美兎/燦鳥ノム】

コラボ動画ではこれがオススメ。彼女にマイクを渡すと必ずノリが「電脳少女シロ」のものに上書きされる。尖ったことばかりいっているようでコラボ動画では調和を意識していることが明らかな月ノ美兎と対照的である。彼女らが惹かれ合う理由もここにあるのかもしれない。

アーティスト系最高峰・関係性が尊いことが動画に現れる二人


【過去最難関】「はい」と言ってはいけないゲームで大パニック!?

今回の紹介ではあえて音楽系の動画は紹介していないのだが、紹介したとしたら確実に入るのは花譜とこのヒメヒナである(花譜は普通に2019年音楽10選に入るので安心してほしい)。彼女ら、とても歌が上手く、その上二人の声質が非常にバランスよくハモリは綺麗で、そしてダンスも上手い。その上手いダンスをトラッキングする技術も一流で、髪の毛のフワフワ感も彼女らが最強だと思う。ヒメヒナのバックに超巨大企業がいるという噂は聞かないのだが、ある意味一番資金力を感じるのは彼女らである。もしこれが卓越した技術力と少数精鋭のスタッフによって成されているものであれば、企業は猛省しなければならない。

そんな彼女らは二人であることを生かして動画も面白い。特に田中ヒメの真面目で優しいキャラクター、邪気のないキャラクターが、天然の鈴木ヒナと噛み合うことで非常に笑える、かつ、心優しい気持ちになれる動画が多い。

今年一番それを感じたのがこの動画で「はい」と言えないというルールでシミュレーションした企業面接、鈴木ヒナの誘導にすべて引っかかり「はい」を連発してしまう田中ヒメが本当に可愛い。きっとこの子、素晴らしくいい子であり近所のおばあちゃんとかから大人気だと思う(たとえ話です)。

流石にアーティストとしての動画が主要コンテンツなので企画は他の YouTuber などを参考にしたものが多いが、二人の人柄と信頼関係によってこの二人だけの動画に昇華している。この二人の音楽は VTuber の存在を問うような非常にシリアスなモノなのだが、この二人の信頼が動画で見えているからこそ、その説得力を増していると思う。

最後に勝つのは優しさ。優しい切り抜きは Virtual Liver と Win-Win である


切り抜かれるの読みで自らネタを提供してくれる本間ひまわり

最後に少し変わり種を紹介したい。前述した通り、今は体験の共有が容易で生のハプニングが起こるライブ配信勢が強い。しかし反面、長い。僕は決して沼というほど VTuber を追っていないと思うが、それでもすでに好きな人が多すぎて全員の配信を後から見ることもままならない状態である。このままでは生活を犠牲にするしかない。生活は大事である。

というときに必要なのがこの切り抜きである。誰かが見所を切り抜いていい感じの時間で動画を紹介してくれる。それによって「この人面白いかも」と期待したリスナーが生放送に参加する。ハマる。推しができる。

この流れになれば切り抜かれた側も嬉しい。切り抜いた人は推している人を広められるし、切り抜きが丁寧なら褒められるし、再生数で自尊心を満たすこともできるだろう。「切り貼りでも繋いだら立派・ミュージック」なのだ。Win-Win の関係であり、これもインターネットのテキストから動画への移行を加速させる要素かもしれない。もちろん、マナーは必要だが。

それを強く自覚しており「切り抜きからきました」という言葉に切り抜かれるならと進んでネタを提供するのがこの本間ひまわりさんである。優しい。殺伐としたインターネットでは平和が尊ばれる。本間ひまわりさん人間性の平和さは、殺伐としたインターネットに優しさをもたらしている。今は優しさが貴重な時代なのかもしれない。

 

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なお、この紹介動画の最後にヒメヒナと本間ひまわりの紹介を持ってきたのも僕の優しさである。優しさに包まれながらきっと目に映る全ての動画はメッセージ。今年も VTuber を楽しく追っていけるといい。皆さんも是非。

新しい職業を考えた→プロ昭和ムーバー

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 VTuber の本間ひまわりさんや、 YouTuber でプロゲーマーのあめみやたいようさんが好きだ。本間ひまわりさんは自身の生放送で「バイトを何度も首になる」という体験や「太ってお腹がペチペチなる」なんて赤裸々なことを語っているが、その反面ゲームは何をやらせても平均点以上で、動画編集も得意で(まるでプロが作ったかのようなにんじゃりばんばんカバーのMVが本人制作と書いてあり、周りをざわつかせていた)、配信も心から楽しそうだ。


闇が深すぎる本間ひまわり、バイトでの失敗談がつらすぎる

 あめみやたいようさんは、テトリスの腕前が異次元で、その上で毎日テトリスの配信をするという他の人にはないテトリスへのモチベーションの高さを見せている。これら二人に共通するのは「もし YouTube というプラットフォームがなかったら、食べていくのは容易ではないだろうな」ということで、新しい時代がそういう職業を求めそれにマッチした例であり、今冴えない毎日を送っている人が「もしかして彼らみたいに何か輝ける場所があるかも」と思うきっかけになるはずだ。まるでパンクが3コード適当にかき鳴らすだけで音楽がやれると証明した時みたいに。ロックだ。


最大連勝更新!!!【ぷよぷよテトリス】【puyopuyotetris】

 そんな新しい物・生き方が大好きな僕なのだが(ロック好きが感性の根幹だしね)、別に昭和の感性(演歌的な)を否定する気はない。朝満員電車に揺られて決められた時間に出社し、社員旅行の計画を立て、上司の理不尽な命令をうまくいなし、忘年会では洗練された一発芸を披露し、開いたグラスは音速で察知してお酒を注ぐ。これらができる人は尊敬の念しかない。そして尊敬した上で言うが、これらは「普通の人間」全員に「当たり前」に求められるものじゃない。「極めて高度で専門性の高いスキル」と見るべきだ。

 日本の歪みは、極めて高度な技術をお金を払わずに「当たり前」だとする感性に集約されると思う。中国のコンビニ店員はその給料に見合った働き方しかしない。カップルでレジに立ち目の前でイチャイチャされた時は流石に閉口したが、まあそんなものだ。それを日本のように丁寧にやるならばそれ相応の高級コンビニとなり、サービス料を払うべきなのだ。無料で高級サービスを受けるのが当たり前、大事なのはお金より気持ちと言う「お気持ちドリブン」が、日本自身が採用した資本主義というシステムと噛み合わないのだ。

 キャバ嬢は、ひたすらお客が気持ちよくなるような振る舞いをするように専門的な訓練を受けており、客がタバコを出したら即座に火をつけるし、開いたグラスには光の速さで追加のお酒を注ぐ。それに対して客はお金を払っている。なのに、新人が忘年会で一発芸をするのにお金を払わないのは何故なのかという話なのだ。最近の若者は一発芸もしないしそもそも忘年会にこない。それはそうだ。唯一の暗黙的な対価だった終身雇用も終焉が宣言された今、お金支払わないのにそんな専門性求められても困る。

 しかし。しかしですよ。それを求めている人がいることはわかっている。それを求めている人が社内で大きな権限を持っている人のこともあるだろう。そこで、 VTuber やプロ奢ラレヤーやレンタルなんもしない人に続く新しい職業「プロ昭和ムーバー」の出番である。

 彼らはあたかも新人かのように、昭和上司の前に現れ、そして昭和ムーブをキめる。一発芸は常にアップデートされ、おそらく今年はミルクボーイのパロディを披露してくれるだろう(すゑひろがりずのほうが合ってるか?)。もちろん希望によってはコマネチやだっちゅーのなど、ガチ昭和芸もいけます。タバコ、お酒についてはもはやキャバ嬢のそれであり、お酒の飲み比べなどもどんとこいである。飲めない人にこっそりウーロンハイのかわりにウーロン茶を出すなど、モブ参加者への気配りも忘れない。

 「あれ、君みたいな新人いたっけ?」

 「最近配属されました! ●●です! よろしくお願いしマッスル

 「はっはっは、今時の若者には珍しく元気がいいな」

 料金は会社の忘年会費用の中で賄われる。「あの新人、見込みあったと思うけれどどこの席にいるんだ?」「昨日やめました」みたく、アフターケアもばっちり。僕は今すぐ会社を辞めて、プロ昭和ムーバー派遣サービスを始めるべきなのかもしれない。いやー、これで僕もイケダハヤトやホリエモンとかの側の人間になれるなー困っちゃうなーなんかもうすでにありそうだなー

 うん、やっぱり書いていて思ったけれど、こんな大変なことをサラリーマン全員の必修科目にしてたなんて、終身雇用に対して提供しなければならない対価が高すぎる。終身雇用がぶっ壊れてくれて心底よかった。

 令和では、これまで当たり前だった偉い人の「お気持ち」を考慮して「タダ」で提供してきたサービスは当たり前ではなくなり、専門性のある新しい職業として対価込みで提供されるようになるだろう。新聞を朝八時にポストに入れてもらうためには、新聞プライム会員になる必要がある。サラリーマンには残業代の他に、満員電車通勤代と早朝出社代が支払われる。本間ひまわりは「バイトもできない落ちこぼれ」ではなく、昭和ムーブには専門性がないが、動画配信に専門性がある人材として再解釈される。

 そして、部長主催の忘年会が昭和で新人が逃げていくとお困りの中間管理職のあなたに! 弊社がプロ昭和ムーバーを派遣します!!

齢22にして老成した特異点の思考記録

嫌なこと、全部やめても生きられる (SPA!BOOKS)

 

Amazonレビューと同内容の投稿です)

基本的には共感するところしかなく一気に読み終えた。僕自身はプロ奢さんに奢る条件を満たさない「普通な」人側に属する人間なのだが、彼が採用していない倫理観やプライドに惑わされている人の多さには「普通な」人側にいてもなかなかうんざりしている。

彼が言うように、現代人は生まれてすぐに将来の目標を決めさせられ、マントラのように唱えさせられ、テスト勉強の計画を立てさせられ、いずれ満員電車に負けず毎日決まった時間に靴下を履いて出社する。その能力は「普通」と呼ぶにはあまりにもハードルが高く、それを満たしている人の中から選ばれた人たちは、そこにステータスを使い果たして、本当にその仕事には向いていない人が集まってしまっている、そんな気がしている。

もし、彼が「ゆるく」提案するように、普通の人が「本当にやりたくないこと」から全力で逃げられるようになったら、もう少しその仕事にあったステータスを持った人たちを集めてチームが作れるんじゃないか、そうすれば、辞めた人も残った人も幸せ度が上がるんじゃないか、そんな気持ちになる本だった。

そうすれば、いずれ、毎日好きで会社に行っている僕のような人間は少し普通じゃなくなって、彼に奢る条件を満たせるんじゃないか、なんて思ったりしている。