博士の愛した数式/小川洋子

博士の愛した数式 (新潮文庫)
たまにはネタばれなしで、読んでない人が見てもいいような感想を書いてみます。
この感想を読んで、この本を読もうって思ってくれる人がいたら、うれしいから。


「あ、文庫本出たのか。前から読みたいと思ってたんだ・・・」と軽い気持ちで、本屋で立ち読みを始めた僕。しかし最初の3ページぐらいを読んだだけで、僕の心の柔らかい部分がそっと撫でられるような感覚をおぼえ、(本屋にいるのに)涙がでそうになりました。そんな本は久しぶりだった。


とっても雰囲気のいい小説です。文章も、読みやすい上に綺麗ですし。そして、読んでない人は、「記憶が80分しかもたない数学者」、というある意味突拍子もない設定に目が行きがちだと思うんですが、それをこの小説は過剰な悲劇性で描いたりはしていません。むしろ淡々と、その博士の出会う幸せ、家政婦さんやその息子(√)との交流について、丁寧に、優しく、ときにユーモアを交えて描いています。


そして数学。これが何か別のものに代用されていたら、こんなにこの小説がドラマチックにはならなかっただろうな。博士がとても面白く、かつロマンチックに数学を語る。その意味が十分に理解できなくたって、博士の数字への「愛」が確実に伝わってくる。それがすごくほほえましいんですよ。なんか僕まで、数学が「作業」ではなくて「興味をそそるモノ」だった頃が思い出されました。


博士の人柄が、三人の交流がありありと目の前に浮かんできて、それに心温まり、ときには泣きそうになるくらい心揺さぶられる、そんな小説です。いまさらな気がしますが、すごくオススメ。ぜひ読んでみてください。