Selected Ambient Works vol.Ⅱ/Aphex Twin

セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム 2
奇才という言葉が似合うAphex Twinがハードコアな曲を量産している合間に、ふっと出したほぼノンビートのアンビエントワールド。夢の中で聞いた音をそのまま音にしたんだそうですが、何処まで本当なんでしょう。


シンセサイザーが、ただたゆたっていく150分。ほぼ展開もせずに、静かに不気味に流れていく音の集合。ただ、このアルバムの恐ろしいところは、それなのに「聞き流せない」ということ。だから僕は、このアルバムを最後まで通して聞けたことがありません。物凄く精神をすり減らします。


なら、なんでこの作品のレビューなんて書いているかというと、やっぱりそれは好きだからであって。どうしようもなく、勉強もそれ以外のことも嫌になって、最悪な気分に陥ったときに、このアルバムを聞いて少し救われたからであって。


ここで、「何で聞き流せないか」っていう問題に戻ると、それはこの音たちが無個性ではなく、驚くほどAphex Twin色に染まっているからなんです。ただ音を選んで、それを何回もループさせればいいんだから、誰にでもできるはずなのに。それなのに、本人がこんなにも出てくる・・・不思議な人ですね。そして、Aphex Twinは、リチャードは、僕達を知ろうとしています。このアルバムを時間いっぱいに使って、「あなたは誰ですか。どうして、そんな感情を抱えているんですか」って聞いてくるんです。優しい気持ちにさせたり、不安な気持ちにさせたりを繰り返しながら(不安を煽る曲のが、時間が長いのが、この人らしい)。そうやって少しずつ、僕と感情を切り離していく。それはあふれ出て、僕の手にのる。


だから、僕はどうしようもなく、嫌な気分になったとき、自分が良く分からなくなったとき、このアルバムを聞きます。そして、自分の感情を溢れ出させて、リチャードと一緒にながめるんです。すると、少しだけほっとするんです。


本当に不思議なアルバム。よく分からない。でも、何となく優しい・・・最後の曲がふっと途切れるように終わるんですが、その瞬間、自分がどれだけこの曲たちに包まれていたか良く分かる。ふっと背筋が寒くなるから。


曲単位でみてもしょうがないことは分かってるんですけど、(DISC 1の)1曲目と3曲目が特に大好きです。この2曲だけは、いい気分のときも聞きます。3曲目は、特にふわっとしたシンセが流れていくときに一緒に感情が流れていくのを感じて、ときに涙まででそうになります。補足として、もしあなたがこれを睡眠用のCDにするなら、だいたいこの3曲目までに寝れるということを付け加えておきます。


もし、このレビューをみて興味を持った人がいたら、とりあえず、このCDを借りて、iPodにいれっぱなしにしといてください。1曲目と3曲目だけ聞いて、いいアルバムだと思ったら、もういいです。あとは、なんだかこんな音がどうしても欲しくなったときだけに、思い出すような気持ちで、通して聞いてみてください。新たな発見があるかもしれません。僕のように。


なんだかよく分からないのに、一つ確信を持っていえるのは、Aphex Twinの作品で一番後世に残る可能性を持ったアルバムは、これだということです。