Music Has the Right to Children/Boards of Canada

Music Has the Right to Children
このアルバムについて言いたいことは、一つなんですが、それはつまりこういうこと。

なーんにもしない、
選んでなーんにもしない、
というメルヘン

これは、OOPS!というレビューサイトで見つけた一文なんですが、僕がこれから言おうとしていることは、まあつまりはこの言葉に集約されます。


とある本で読んだんですが、人の心を一番動かしやすいのは音楽だそうです。そのメロディにしても、リズムにしても、それから想像力を掻き立てれば、人は簡単に悲しくなれるし、簡単に楽しくなれる。悲しさを伝えるメロディも、楽しさを伝えるメロディも、意外と溢れているものです。


でも、このアルバムに流れている、メロディは悲しみを喚起させるのでもなく、喜びを喚起させるものでもなく、ただ、純粋に美しいんです。それはまるで「Roygbiv」・・・虹のように。ただ純粋に美しいだけの音を鳴らしていくこと、「何にもしない」をあえて選ぶこと。この作品が、テクノとして使い古された手法ばかり使っているのに、こんなにも素晴らしい理由はまさにそれだと思います。


もちろん、リズムだって素晴らしいです。本当に耳に心地良い音で構成されたリズムだし、いたずらにころころ変わっていかないところが、このアルバムの麻薬的中毒性を引き立てています。そして冥界の住人達の「声」。ただのサンプリングヴォイスなのに、こんなに魅惑的な響きを持たせられるんですね。「Aquarius」の、ただ数字を数えていく(そして途中から良く分からなって順番が適当になる)声に、どれだけの人が夢見心地になったか。


なんだか、新しさが取り沙汰されるばかりの、テクノミュージック界に革命をもたらしたアルバムが、「何一つ新しくないのに、一つ一つの要素があまりにも完璧なアルバムだった」という事実には、不思議な驚きを感じます。芸術って皮肉ですね。


ネットで試聴して、「そんなに凄いかな」って思ったけど、過剰ともいえる評判に押されて買って正解でした。テクノファンでまだ聞いてない人がいたらぜひ。もし試聴するなら、オススメは「The Color of The Fire」と「Roygbiv」と「Aquarius」です。「The Color of The Fire」は電子音をバックに子供の声で「I love you」と連呼するだけですが、分かる人には分かるはず。「Roygbiv」は一番好きな曲。短いですけどこの曲に関しては、じわじわでなく一気に心奪われるのでは?「Aquarius」は前述した数字を数える声が魅惑的な曲です。


さあ、みんなで「なんにもしないメルヘン」の世界へ。