HELL-SEE/Syrup16g

HELL SEE
僕がSyrup16gと出会ったCD。真っ赤でグロテスクなジャケットと、「シングルを作ろうとしたら、曲がどんどんできてアルバムになっちゃった」という経緯からか、1500円という価格破壊な値段が特徴(しかも初回版には、二曲入りライブCD付き)。


多分制作期間はそんなにかかっていないことが予想され、録音状態も悪く、曲にしてもアイディア勝負でそこまで練られている感じはしない。しかし、曲調が気怠いアルペジオを基調とにしながらも、バラエティに富んでいるため、飽きずに聞ける。アルバム構成がpoliceの「chronicity」のオマージュになっている(らしいが・・・僕はまだ「chronicity」は未聴。スイマセン)のも、一本調子を避けるのに一役買っているのかも。


とりあえず、生々しい金属的なギターや、暗すぎないポップなメロディに、それを歌う五十嵐のだるくてどこか色っぽい声など、歌詞抜きで曲だけでみて結構楽しめるアルバムだと思う。ギターロック好きなら聞いて損はないはずだ。でも、やっぱりこのバンドの魅力は、このアルバムの魅力は、なんといっても歌詞だろう。世の中に攻撃することにさえ疲れて、憂鬱と倦怠感と無気力と無関心と、君と僕と、根拠のない少しだけの希望。それだけが垂れ流しにされる歌詞。他のシロップのアルバムと比べてもとりたてて暗いし、だるい。大体一曲目の最初のフレーズから、

さっそく矢のように やる気がうせてくねぇ
「あっそう」っていわれて 今日が終わる

なんて歌うバンドが他にいるだろうか。ときおり挿入される、韻を踏む以外の意味はないような、訳の分からないフレーズすら、真面目くさって曲を作るコトへの皮肉のように思える。


「アーティストはそういうどろどろした感情を、もっとキレイに昇華してから歌うべき」という人がいるかもしれない。でも、誰だって前を見続けていられない。ぐだぐだになったりどうでも良くなったりすることがある。そういうときに一番大事なのは、それでも前を見るとか、希望を捨てないとか、その前に、そのどうしようもない状況を「肯定」することだと思う。そんな状況でも、それをそのまま歌にしても、いいんだ。そんな屈折した優しさが、このアルバムには溢れていると僕は思うのだけど、どうだろうか。


そして、このアルバムで歌われる、戦争との距離感は凄くリアルだと感じた。

戦争は良くないなと 隣のやつが言う
適当なソングライターも タバコに火を点ける

健康になりたいなと 隣のやつが言う
適当なソングライターも 頭に気をつける

「Hell-see*1」より

道だって答えます 親切な人間です
でも遠くで人が死んでも 気にしないです

「ex.人間」より


こんなふうに感じてるのはひどい奴だろうか?ひどい奴だろう。でも、気にしてるふりした偽善的な言葉より、よっぽど素直な言葉ではないだろうか。よっぽど共感できないだろうか。きっと五十嵐さんは、どうしようもなく嘘がつけない人なんだろう。


・・・本当はもっと歌詞を引用したい。でもこれ以上引用してもしょうがないかな。あとは自分で歌詞カードを手にとってみて欲しい。一曲一曲、必ずぐさっとささるフレーズがあるから。


録音状態の悪さから、最初はちょっと敬遠しがちだったこのアルバムだが、今ではシロップの作品の中でも、屈指の出来だと思うようになった。今も時々聞く。特に好きな曲は「不眠症」、「末期症状」、「ex.人間」、「吐く血」。ほら、こうやってタイトルを羅列しただけでも、ドキッとする人がいるはず。


でも、ここで、ちょっと引いてしまうような人にも、あえて聞いてもらいたいアルバムだ。きっとこの鋭くてリアルな言葉達に、なにか感じるものがあると思うから。

*1:「地獄を見る」と「ヘルシー」がかかっている