悲しみを探す駅

駅の構内で、傘も差さずに濡れながら立っている少年がいました。
僕はその子の後ろにそっと近づいて、
濡れた髪に隠れた耳元に、ささやきました。


「どうしてそんなに、悲しそうにしているの?」
「悲しむ理由が見付からないからだよ。」


そうやって、彼は空を見上げました。
やがて電車がやってきて、彼はびしょ濡れのまま、それに乗りました。



駅の構内で、声も出さずに泣いている少年がいました。
僕はその子にそっとハンカチを差し出して、
落ち着いた頃に聞きました。


「どうして泣いていたの?」
「自分が幸せすぎるからだよ。」
「幸せだと悲しいの?」
「ううん、悲しいと幸せなんだ。
僕は、憂いをこの手いっぱいに集めるのが好きなんだよ。」


そうやって、彼は空に手を差し出しました。
やがて電車がやってきて、彼は真っ赤な顔のまま、それに乗りました。



駅の構内で、悲しい人を探している少年がいました。
その子は良く、人にこうやってたずねられました。


「どうしてそんなに、悲しみを探しているの?」
「この胸にある悲しみについて、知りたいからだよ。」
「ふうん。君は、汚いんだね。」
「でも、きっとこの胸にある悲しみは、きれいだから。」


目の前にまた電車が止まり、たずねた人はそれに乗りました。
少年はまた、駅の構内に一人、取り残されました。