優しさが欲しくなったとき、彼は尋ねた。
ホントウとウソのどちらが大事なのかを。
「ホントウを知ると傷つく。だけど僕はホントウを知りたいよ」
少し悲しい目をしたお兄さんは、そう答えた。
「ホントウなんてこの世にはないんだよ。だからホントウに似たものを探すのさ」
皮肉屋の少年は、にやりと笑いながらそういった。
「私の8割はウソで、2割は優しさと愛おしさなの」
耳元で、幽遠なお姉さんがささやいた。
「ウソはいつかホントウになるから。ホントウを許せるなら、ウソをまといなよ」
お話好きの青年が、そうやってさとした。
「きれいなウソが、続けばいいのにね。でもきっと大切なのはホントウだよ」
大きなヘッドフォンを付けたお姉さんが、言葉をこぼした。
彼はみんなのいろんな答えに、困ってしまった。
でも、みんなの答えがうれしくて、全部そっとしまいこんだ。
彼は今、それをそっと抱えながら、少し嬉しそうに歩いている。
ホントウでもウソでも、結局僕はキレイナモノが好きだから、
それを良く分からないまま、抱えて歩いていくんだ。
歩道橋で少女が、僕の抱えているキレイナモノを、
少しうらやましそうな目で見て、すれ違っていった。
「キレイナモノだけ見ていられればいいのにね」