正直、僕の目当てはミスチルだった。
でも今、ライブを振り返ってみると、一人の人間の存在感が僕の頭から離れない。
山中さわお。the pillowsのフロントマン。
観客の一人が、「ピロウズ頑張れ」と言った時、
「頑張れって言われるの好きじゃないんだよね」ってクールに言った彼。
観客が黄色い声を上げると、「もうすぐ38歳になる男が、キャーキャー言われてます」
って少し恥ずかしそうに言った彼。
最後のアンコール。ミスチルと競演して「everybody knows」をやった時、
ギターを弾くみたいにヨーヨーを格好悪く振り回していた彼。
ここに大きな子供がいる、と思った。
楽曲がいつまでも瑞々しい理由が少しだけ分かった気がした。
彼は弱さを平気で口にする。14年前は前座だったのに、
今や大き過ぎる存在になったミスチルに対して、少し気が引けているような
そんな素直なMCがリアルだった。
でも、自分達の歌を奏でるときだけは、決して負けてなかった。
彼らの瑞々しい曲たちは、弱さを越えて力強く響いていた。
すごく羨ましい生き方をしているなって思った。
これがロックンロールなんだって思った。
僕にとってピロウズは、諸手を振って大好きと言えるバンドじゃない。
好きな曲もあれば、正直そこまで夢中になれない曲もある。
でも、ステージの上で、ピロウズは確実にミスチルに負けず輝いていた。
それだけは確かで。
そして僕の頭の中からは、「頑張れって言われるの好きじゃないんだよね」
って言いながら、ギターをいじる山中さわおの後姿が離れない。