クリスマスの夜

今日も、昔の恋について聞かせてよ。
待ってくれ、もう少し酒を飲まないとな。
そうすれば、言葉が溢れて、こぼれてくるから。



あるクリスマスの夜だった。
僕はいつものように、ジェイズバーにいた。
彼女もいつものように、片隅で飲んでいた。


僕らは付き合っていたのか、それすら分からない。
ただ、クリスマスの夜にそこにいるのは分かっていた。


いつものようにラムばかり頼む彼女。
深い深い泥たまりのような気だるさを持っていて、
僕はいつも、傍にいるのに遠い彼女の冷たさに酔っていた。


「喉が渇いたな……水をくれないか。」
「ここにラムがあるわ。」
「僕は酒に弱いんだよ。」
「いいから、クリスマスの夜なのよ。」


僕はすぐ酔いが回り、カウンターに頭を伏せた。
彼女は僕の背をさすることもなく、
ただ僕の髪をその細い指に巻きつけて遊んでいた。



トイレから帰ってくると、彼女はいなくなっていた。
僕は頭がくらくらしながらも、ラムを飲んだ。
なぜかあと4杯は平気だった。


それから二度と、彼女には会えなかった。
僕は少しだけ、酒に強くなった。


BGM:The Shy Retire/Arab Strap