右に進むと壁があった。
左に進むと壁があった。
上に飛ぶと壁があった。
下に屈むと壁があった。
薄暗い四角い部屋、コンクリートの人工的な匂い。
次第に目が慣れてきて分かったことは、
この部屋が思った以上に密閉空間だということだ。
小さな窓すら存在しない。
壁の色は突き放したような白だった。
僕はどうしてここにいるのか、それさえもよく分からない。
孤独だけが、この部屋の密度を濃くしているようだった。
金属の輝きを静かに放ちながら、ドラムが置いてあった。
僕の孤独に寄り添うように、ドラムが佇んでいた。
バスドラの上に二本揃えておいてあるスティックを手に取り、
僕は思いっきり、バスドラムを叩いた。
バシィィッ―――
そのとき、遠くであるコードが鳴り響いた気がしたんだ。
僕はドラムの叩き方が分からなかった。
それでも、耳の奥で確かに鳴るコードに沿うように、手探りで叩き始めた。
まるで、自分の輪郭を確かめるような行為だった。
やがて自分の中にある一つのグルーヴが生まれてくる。
心が熱くなる、孤独が薄まっていく。
コンクリートの壁が、音を受け止めて、僕に返してくれる。
壁の向こうから、僕のドラムに合わせたベースの音が聞こえてきた。
僕はうれしくて、ドラムをしっちゃかめっちゃかに鳴らす。
音の多さが、僕の感情の高ぶりと繋がっているかのように、鳴らす。
ベースは鳴り止むことがなかった。
コードはより高く崇い音を僕の耳元に届けた。
やがて、この部屋の隙間から、小さな光が漏れていることを知る。
僕らは音を鳴らすのを止める。
胸の中の何かが確信に変わったから。
耳の奥のコードはまだ鳴りやまない、やっぱりそうだ。
僕はここから、出て行ける。
僕は僕から、出て行ける。
一つのコードを道標にして。