Biography of PAINRAINS(3)

「あ、先輩。今日新堂本兄弟しょこたんでてますよ!」
「そうなのか。ちょっと見てみるかな」
しょこたんキザ萌えっす」
「なんかその言葉、微妙に間違ってる気がするぞ」


サイトウは今、バンドサークルの合宿に来ている。
酒をちびちび啜りながら、後輩とTVを見る時間。
後ろの部屋からは、こんな深夜になってもまだ、ギターやベースの唸り声が響いていた。
このサークル―――熱意に溢れたサークルに加入したことで、
彼のドラムがかなり上達したことは間違いない。
いつしか、後輩から一目置かれるようなグルーヴを、叩きだせるドラマーになっていた。


だが、彼はいつも、何かが足りないと感じていた。
心のどこかで、部員達と自分との温度差を知覚していた。


残酷な天使のテーゼ演ってますね。俺はこれ普通に名曲だと思います」
「ところで、俺はいつもこの、つまらなさそうにピアノを弾く深田恭子を見ると、
ロックを感じるんだよな」
「またまた、意味分かんないことを。ロックはやっぱ熱くなくっちゃ」
「そんなことはない。シューゲイザーっていうジャンルのバンドは…」
「ああ、終わっちまった。しょこたん歌うまいな。CD買おうか」




シューゲイザーっていうジャンルのバンドは、ヴォーカルがライブの時にいつも下を向いて、
自分の靴(shoe)を見て(gaze)歌っていたからついたんだぜ―――


口に出せなかった話題が、宙に舞って、シャボン玉のように淡く弾けた。
サイトウはmy bloody valentineの「Isn't Anything」を選んで、再生ボタンを押す。
白いイヤフォンから聞こえてくる、アコギの不協和音。
酒に酔った頭に、そのノイズがくらくらと回り、彼は仰向けに寝転ぶ。
その時、一枚のくだびれた紙が、視界に入った。





バンドメンバー募集


好きな音楽 道を踏み外したROCK……





それには、シューゲイザーも含まれるのかい?偉そうな兄ちゃん。


眠気が少しづつ忍び寄ってくる中、胡散臭いアドレスにメールを送信した。
彼の頭には、俯いたままのヴォーカルと、仏頂面のままピアノを弾く深田恭子の後ろで、
淡々とドラムを叩く自分の姿がはっきりと浮かび上がっていた。


イヤフォンからは、ケヴィン・シールズの消え入りそうな声が零れ落ちていた。