平成風俗/椎名林檎×斉藤ネコ

平成風俗(初回限定盤)
映画「さくらん」のサントラでもあるコンセプトアルバム。


久しぶりの本人名義のアルバムですが、サントラで、斉藤ネコがアレンジ担当の全編オーケストラ導入。その上、セルフカヴァーがほとんどということで、あまり期待を抱いていませんでした。しかし、「さくらん」の宣伝で流れた「ギャンブル」がやたら格好よく聞こえたので聞いてみると…やられました。三枚のオリジナルアルバムと比べても、ひけをとらない傑作だと思います。


もともと、僕は東京事変はあまり好きじゃなかったんですよ。確かに、全員の演奏技術はすごいし、ジャズを取り入れた格好いい音を鳴らしてます。でも、だからこそ、メンバー全員にスポットライトが当たるゆえに、椎名林檎自身の持つ毒気や色気がどうも活かしきれてないような気がしたんです。


その点、この作品は、オーケストラという豪華な音に椎名林檎が一人で立ち向かった結果か、演技過剰とも言える歌い方になっており、毒気と色気に溢れています。そうだ、僕はこれが聞きたかったんだ、と一曲目の「ギャンブル」を聞き終えたときに思いました。今まで感じていた東京事変への違和感の正体もすべて分かり、視界が開けたんです。


また、オーケストラアレンジと聴いて心配だった単調さも、この作品には皆無。昭和歌謡のような雰囲気の「錯乱(TERRA ver.)」や、加工ヴォーカルが閉塞感を出す「ハツコイ娼婦」、ディスコ的リズムが鳴り響く「浴室」など、実に多彩。あまりに似合っているせいか、「加爾基 精液 栗ノ花」の曲なんかは、むしろこっちが原曲かと思ってしまいます。やっぱりあのアルバムは音を入れすぎだったよなあ。


ただロックな音よりもよっぽどロックを感じる、そんなオーケストラのアルバムです。あまりに格好よすぎて、映画「さくらん」のほうを喰ってしまい、まるで映画自体がこのアルバムのための映像に思えてしまうほど。これほどまでに大きな存在だったのですね、彼女のヴォーカルとは。


この路線で今度はオリジナルアルバムが聴きたいと切に願ってやみません。