In Rainbows/Radiohead


画期的なリリース方法で音楽業界をかき回した、Radioheadの7作目。


混沌としたイメージの前作とは打って変わり、「In Rainbows」は相変わらず凝ったアレンジながらも洗練されていて、向こう側が見渡せそうな、透き通った音になってます。トムのヴォーカルもいつになく前面に押し出されていて、非常に情感豊か。危ういファルセットは、ヴォーカルとしてもコーラスとしてもたっぷり使われていて、まるで「KID A」の頃から自らに課していた枷を解き放ったかのような、開放的な音が鳴っています。


だからなのか、僕の中でこのアルバムのイメージは「明け方」。これも、「真夜中」を思わせる前作とは対照的。そのおぼろげで青白い太陽の光が照らす朝は途方もなく美しい。けれど、どこか「今まで必死にもがいて拒んでいたものが、遂に来てしまった」かのような恐ろしさがあります。一見穏やかにすら聞こえるトムのヴォーカルから、時折驚くほど冷たい「諦め」を感じるのは、僕の気のせいでしょうか。


さて、観念的な話から戻ります。このアルバムの素晴らしいところの一つとして、全体の流れの良さが挙げられます。「15 Step」の、無機質な電子リズムとハンドクラップの融合したいびつなリズムから幕を開け、「Bodysnachers」でいつになくアグレッシブな音を聞かせたと思うと、アルバム中もっとも美しい「Nude」が静かに始まる。この冒頭の三曲だけで完全に持っていかれます。


そして最後の「Videotape」は、ライブで披露していた格好よく盛り上がるアレンジではなく、ピアノと電子リズム(まるでビデオの巻き戻しのよう)のシンプルなものに。それは幕が開きっぱなしで誰もいなくなった劇場を思わせる物悲しい終わり方で、僕はまたすぐ一曲目から聞きたくなります。


7作目になるのに、「OK COMPUTER」とも「HTTT」ともまた違った質感のこのアルバムを作り上げてくる彼らは本当に凄いと思います。最初あまりにすっと音が入ってくるので、飽きるのが早いかなと思いましたが、いらぬ心配でした。ヴォーカルの処理一つ取っても、リヴァーブたっぷりだったり生々しさを強調したりと凝っていて、未だに聞くと新しい発見があります。少しでも気になるのなら、0ポンドでもいいからダウンロードして、聞いて欲しい。そんなアルバムです。