星の鳥 Reprise

正直なところ、最近のバンプのシングルはそこまで夢中になって聞いていなかった。
ちょっとバンドの佇まいに余裕が出てきたかなと思った。
いつまでも追いかけていくということは、もうずっと昔に決めたんだけど、
情熱は薄れていくのかなとなんとなく思っていた。


そしてそれは大きな間違いだった。



行きがけにCDを買って、電車の中で特性ブックレットを手に取った。
歌詞カードと絵本が一緒になった、赤茶けてつるつるの紙のブックレットだった。


「才悩人応援歌」の中のワンフレーズが、
僕の心の中の、ずっと無防備のまま放っておいた柔らかいところを突き刺した。


もうそこからはあっという間だった。ストーリーの中の言葉だったり、
そこにすっと自然に挿入される歌詞の一言一言が、僕の心のその部分を優しく撫でていって、


「ひとりごと」の歌詞のはじめ、「ねぇ 優しさってなんだと思う」という言葉で何かが溢れ、


僕は電車の中でぽろぽろ涙をこぼすのを抑えるために、
途中でその物語を閉じないわけにはいかなかった。
必死で目を閉じて隠したけれど、
目の前に座っていた茶髪のお兄さんには、ばれてしまったかもしれない。


そしてこれはCDを聞く前までのお話。僕はレポートがまだ残っているのにもかかわらず、
家に帰ったらすぐに、それを物語片手に聞いて、ぽろぽろぽろぽろぽろ……。
気がついたらレポートの続きをしないまま三時になっていた。



どう考えても藤原さんは「期待されるような命」で、僕らとは違うのに、
どうして目線の高さが僕らと同じなんだろう。
どうして僕らが見逃したり、目を逸らしたり、見なかったことにしていたモノを、
言葉にしてしまえるんだろう。
僕はそれが不思議で、また白いイヤフォンから「orbital period」を聞く。


今一番好きな曲は「arrows」、一番好きな瞬間は「星の鳥」から「メーデー」への流れ。
そして「涙のふるさと」を最後にもってきたのは反則だろう。
「たった一人だけ」を強く感じる曲達が並ぶ中、「君に会いに来たんだよ」なんていわれたら、
「え、俺?」とか思ってしまって、なんだか嬉しい気分になってしまうじゃないか。



これからこの「長編」を読んでいくうちに、好きな曲も変わるだろうし、
まったく聞き逃していた部分で、急にはっとすることだってあるかもしれない。
けれど、それでもはっきりしていることが二つある。


一つは、この「orbital period」は、僕みたいに「もうそろそろバンプは……」とか思っていた、
古参ファン気取りの知ったかぶり野郎の心を鷲掴みにする名作だということ。


そして、そのアルバムを聞いてぽろぽろと涙を流した自分が、ちょっとだけ好きだということ。
あ、これはひとりごとだから、忘れてくれていいよ。