限りなく透明に近いブルー / 村上龍

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読んだのはずいぶん前なのだけれど、気になったことがあるので書いてみます。


この本を東京帰りの電車で一気に読み終えたとき、不思議な感覚を得ました。これは前に「音楽の海岸」を読んだ時にもあった感覚ですが、あれよりもさらに鮮烈さで言えば上。暴力とセックスと、嘔吐のすっぱい匂いの中で確かに喚起される、鮮やかな映像(僕は文章から映像を喚起するのがそんなに得意ではないけど、この本の文章は一瞬にして目の前に映像が浮かんでくる)。それは麻薬中毒者の幻想なのかもしれないけれど、最高にリアリティの在る一瞬として描かれている。


……そしてその部分が、所詮暴力や乱交やらの中でひときわ印象に残る部分になっている。


村上龍という人は、デビュー時からこんな小説を書いていたんだなあと、これは天才といわざるおえないなあと、思います。どうして、良くも悪くも人をひきつけやすい下世話とも言える要素の中で、詩的要素が埋もれずに輝くのだろう。……ついでに、タイトルも格好よすぎです(まあ最初予定していたというタイトルはひどかったらしいけれど)。


ただ、僕がこの本の中で不満に思ったのはあとがき。これがくせもの。いや、別に的外れで頭のカチカチな批判が書いてあるわけではなく、むしろ凄く的確なんですが……的確すぎて、僕が「なんとなくすごいなあ」と思ったところを、しっかり言語化してしまうのです。これじゃあなんというか、ネタバレを読んでいる感じ。せっかくゆっくり本の余韻に浸り、好きな場面を読み返しながら何が凄いか考えていた時に、答えを与えられちゃうとね……。まさかこういう、筋と言うよりも文章そのもので魅せるタイプの小説のあとがきにネタバレがあるなんて、予想外の出来事でした。


……で、なんとかそのネタバレ解説を振り切って、自分の言葉で感想を書こうとした結果がこの感想、というオチです。ただ、やっぱりこれは自分の言葉というよりも、いろんな人の感想の再構築みたいになってしまったなあ(ちなみにAmazonレビューも全部読んだ)。


下手に納得させられる解説より、自分の世界にどっぷり浸かったぶっとんだ解説のほうがいいのかなあ、なんてことを思ってしまったのでした。



最後に。でもこの本は文句なくオススメです。突然目の前にぱあっと、かぎりなく透明に近いブルーのビジョンが広がっていく感覚を、ぜひ体験して欲しいです。