シガーロスな女の子

僕がタワレコで、彼女を待っていたときの話。
(もうひとつのブログとどっちに載せるか迷う内容だったので、両方載せてみました。)


タワレコという空間は、僕にとって心のオアシスである。
僕は名古屋の人ごみや服屋の店員との絡みに疲れると、いつもタワレコにやってくる。


人ごみには知らない人が多い。知らないモノに囲まれると不安になる。
服屋には知らない服が多い。知らないモノに囲まれると不安になる。
タワレコには知っているCDが多い。知っているモノに囲まれると安心する。


僕はその日も落ち着いた気分で新作CDを漁っていた。今月は新譜ラッシュだな。幸せだ。


すると、一人の女の子が目に留まった。


確かにその女の子は、僕の取っての知らない他人ではあったが、
ある決定的な事象が、僕に高揚感と安心感を与えた。


その女の子は、Sigur Rosの新作を手に取っていた。


残響


(これがネタか芸術かの議論は今回はしないでおく)


……状況を整理しよう。

僕が名古屋パッセ9階のタワレコで新譜あさりをしていたら、
いかにもパッセにいそうなゆるふわパーマの女の子が、Sigur Rosの新譜を手に取っていた!!


残響


これがどれくらいレアなケースかを、詳しく説明せねばなるまい。


まず、Sigur Rosというバンドは、かなり独特な音楽性を持つアイスランドのバンドで、
歌詞も英語どころかアイスランド語である。
もちろん有名ではあるのだが、大学生の女の子が聞いているケースは非常にレア。
(僕がライブに行った感じを見ると、ファンの女性は20代後半の落ち着いた方が多かった。
チャラチャラした女の子はほぼ皆無だった。)


しかもその女の子が名古屋パッセな、ゆるふわモテ系の可愛らしい女の子なのだ。
これは、例えばコンビニにたむろしている金髪のDQNに、


「あの、ドストエフスキー著の『カラマーゾフの兄弟』って、
小説があるんですけど、その兄弟の名前全部いえます?


と聞いて、完璧に答えられるくらいのレアケースだ。




……話しかけるしか、ないでしょう?




「あの……シガーロス好きなんですか?」

「え……。うん、好きですよ」

「いいですねえ、僕もです。しかし、ちょっと失礼かもですけど、
君にはあんまりシガーロス似合いませんね(笑)」

「ええー、ひどいなあ(笑)」

「だって、ジャケットもこんなだし(笑)」

「確かに(笑)」

「それにしても新作楽しみですね」

「私シングル聞いたんですけど、感じ違いますよね」

「そうですね、今までと違ってポップな感じ」

「そうそう! 早く聞きたいなあ」

「あ、他にはどんなCD買うんですかー?」






「じゃあ今度のシガーロスのライブ一緒に行きましょう!」

「ええ! 楽しみにしてますね。
あ、またメールで新作の感想教えてください!」



「計画通り」



まあこれは全力で脳内会話なのだけれど、とりあえずこんな感じでプランは定まった感じだ。


譲れない趣味がある人なら割と分かると思うのだけれど、
その趣味が思いっきり被った瞬間というのは、自分でも驚くほど大胆になれる。


シガーロスが好きな同世代の女の子だ。この機会を逃したら話しかけることなど出来ない。
……と、いざ話しかけようとしたその時。
僕は今抱えているあるCDの存在に気がついた。


リア・ディゾンの「Vanilla」。


Vanilla(通常盤)


「あ、他にはどんなCD買うんですかー?」

「り、リア・ディゾンとか」

「…………あ、あはは。可愛いですもんね、あ、あは」

「そうですよね。可愛いです、よね」

「え、ええ私はこれで」

「あ、じゃあ」

「(ボソッ)……キモい」




くそっ……! 普段はアイドルのCDなんて、絶対買わないのに! 絶対!
握手会! 近場で握手会ががあるからっ……! 握手券が封入されてるから……っ!!
生涯初めて! 初めて! 初めてっ……!


「残念ですが、夢じゃありません! これが現実!」


僕は全力で後悔した。そしてCD売り場に走り、リア・ディゾンのシングルを全力でその場に戻し、
洋楽の新譜コーナーに帰ってきたら彼女はいなくなっていた。






というとわりとネタっぽい文章になるが、正直言ってこれは嘘である。
いや、リア・ディゾンのCDを持っていたことは本当だが、
別にその時にそこまで思考は回らなかった。


ただなんとなく躊躇して、話しかけられなかっただけである。
(実にリアルなお話)


>譲れない趣味がある人なら割と分かると思うのだけれど、
>その趣味が思いっきり被った瞬間というのは、
>自分でも驚くほど大胆になれる。


>自分でも驚くほど大胆になれる。


>自分でも驚くほど大胆になれる。


これ書いた奴誰? 超うけるんですけど。
ほんと、ライブで友達が出来る奴とか、みんな局所的に雷に打たれてしまえばいい!


僕がライブで他人とコミュニケーションした経験っつったら、
感動した外人のおっさんに握手を求められたぐらいだ。
そんなもんである。音楽好きがもてるとか、幻想だよ。


まあそんなわけで僕は話しかけることも出来ず、
ただリア・ディゾンのアルバムを片手に、UnderworldのRemixアルバムを試聴していたのだが、


すると女の子はレジでCDを買い、エレベーターのほうに向かっていった。


「さよなら(シガーロスが)大好きな人」


僕は心の中で花*花的なひとことをつぶやいた。
しかし事件が起こっていたのは会議室ではなくて現場だった。
ここから驚くべきことが起こったのだ。




突然女の子が店内を思いっきりスキップし始めた。


「ルン♪ ルン♪ ルン♪」と口ずさみながら。




僕はその時相当驚いた顔をしていたと思う。
多分このブログのアクセスが突然100万PV/日になっても、
あんなに驚いた顔をすることはなかったと思う。エネルにも負けてなかったと思う。


……頭の中でもう一度状況を整理した。


僕が名古屋パッセ9階のタワレコで新譜あさりをしていたら、
いかにもパッセにいそうなゆるふわパーマの女の子が、Sigur Rosの新譜を手に取って、
レジで買った後スキップしてエレベーターに向かった。
「ルン♪ ルン♪ ルン♪」と口ずさみながら。




僕は手に取っているSigur Rosのジャケットを見た。


残響


やっぱシガーロス好きな女の子って変な子なのかな。
逆に変な子だったら、話しかけたら気があったかもな。
僕はそんなとりとめのないことを思いながら、降りていくエレベーターの数字を見ていたのだった。