開かないドア、鳴らない電話。

先週の自分はほんとうにポンコツだった。

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僕は午前11:00、H氏の電話で目が覚めた。
これから東京に向かいます。
勤勉なH氏は次の日の仕事の大事なイベントを前に、早朝から準備をしていたのだ。僕は如何にも起きていたかのような声で、ではこれから職場に向かいますと返事をした。今日は日曜、休日だ。

名古屋から東京へ向かう新幹線でやって来たH氏と東京ローカル線の移動にもかかわらず時空の歪みかなぜか同じ時間にオフィスに着いた私は、そのまま機材を持って明日の準備に向かった。タクシーで別のオフィスへ向かう。そして早々に準備を済ませたH氏、僕はまだ明日お客さんの前に披露する前に確かめたい事があった。
終わったら電話します。
終わらない1日の始まりだった。

先週はまだ寒かった。僕は休日で暖房のつかないオフィスに凍えそうになり、コーヒーを買いに行った。そしてオフィスに帰ろうとした時に気づく。入れない。

そう、1分前、僕が何気なく部屋の中に置きっぱなしにしたカードが、休日にオフィスに入るための唯一のカードだったのだ。僕は開かないドアの前で、呼び鈴を連呼する。もちろん、警備員は休日でだれもいない。

装備を確かめる。ドラクエでもボス戦の前に装備を確かめるのと同じだ。この場合僕が倒すべきは自分の怠慢というボスなのだが。

E やすもののシャツ
E サイフ
E Suica

コートがない!
凍え死ぬ!
スマホを忘れた!

僕はタイムマシンを必死に探した。五分前の世界に戻ってカードを机になんとなく置いた僕を止めねばならない! ああくそ、なぜアインシュタイン相対性理論で光速を超えられないと証明したのだ! 今相対性理論をぐぐってアラを探してやる! スマホがない! 人間+スマホスマホ=バカ=僕。ここに相対性理論より揺るがない方程式が完成した。

そして僕は冷静になり、薄着のまま、いかにも「ランニングって最高ですよね」みたいな雰囲気を醸しながら駅まで走り、タクシーで来たオフィスへ戻った。別に演技は必要なかった。東京の人は僕など見てはいないのだから。

オフィスに戻り休日出勤で呪いのチェックリスト500行を解いている先輩に助けを求めた。もちろん助ける方法などない。仕事用のスマホを強奪して上司にメールした。返事がない、僕はしかばねのようだ。
(あとから聞いた話だが、一人はジュビロ磐田の観戦を、一人は映画を見ていたらしい。返事がなくて当然だ、僕が上司でも映画館ではスマホはOFFだろう。)

僕は決意した。張り込むしかない。

再度駅に引き返す。強奪した仕事用のスマホを手に。そして無印良品で暖かいパーカーと靴下とセーターを買う。一万円。ガチャと比べれば有意義な出費といえよう。どちらも愚かな僕な払うお金という意味では共通だが。そして、靴下を二枚ばきし、後はあんぱんがあれば殺人犯を待ち伏せられるようなスタイルで、僕は再び入口の前に立つ。

映画が終わった上司から電話があった。

「これって、今話題のセキュリティ事故ですか?」
「大丈夫、君が入れないのだからセキュリティは万全だ。事故ってるのは君自身だよ」
「御意」

そして、意を決してビルの管理会社に電話をかけようとしていると、奇しくもこの夜更けまで休日出勤を行なっていた日本社会の鏡のような疲れた目をした社員が扉を開けた。彼と目があって、言葉はいらなかった。彼は自然に僕をビルに入れてくれた。

H氏は「何か問題が発生しましたか?」とのメールと電話を4回してくれていた。もし僕も早く仕事を片付けたら、秋葉原の観光に誘ってくれるつもりだったらしい。心がズキズキする。今からでもタイムマシンを開発したい。僕は電話をかける。

「僕の失敗談、聞きます?」