「かぐや様は告らせたい」を読んで青春を追体験したよ。

かぐや様は告らせたい 1-10 / 赤坂アカ

連載漫画『かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~』|週刊ヤングジャンプ公式サイト

 

完璧な漫画、としか言いようがない。今年に入ってベストと言っていい。

僕はこの漫画を読んで、何回も吹き出して、三回泣いて、そして今となっては脳内にかぐや様を住まわせるに至った。それはもう仕事に支障が出るレベルである。進捗定例会議とかそういう場で今ひとつな仕事をする様を見るにつけ、

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とかぐや様が話し出すのだ。これをアウトプットしたら僕は音速でクビになる。

まあ冗談はさておき、この漫画はとても可愛らしい絵柄の表紙であり、一見ありがちな「たまに面白い回があるけれど基本的には可愛い女の子がきゃいきゃいすることで場を持たせるほんわかラブコメ」と勘違いされるかもしれない。しかし「次来るマンガ大賞2017 Web版」の一位という帯は伊達ではない。そんなほんわかラブコメとは一線を画している。

・コメディとして毎話笑わせるクオリティの高さ

好きすぎてコミックス全巻揃えた挙句、ヤングジャンプで最新話を読むに至ったわけだが、読んでいると思わず吹き出しながら顔がにやけてしまいコンビニ店員に不審な顔をされるぐらい面白い。

・感動系エピソードは胸を打ち比喩ではなく涙がこぼれる

銀魂などでは、ギャグ回のキレに感動系エピソードが追いつかず「感動系エピソードを書いて回数を稼ぎながらギャグのネタを考えているのでは?」と邪推されることもしばしばだが、かぐや様ではそんなことは一切ない。むしろ心にぐさぐさ刺さり泣けて来る。「花火の音は聞こえない」でググってみてほしい。数多の感想がヒットする。そう、感想を書かざるおえないぐらいにぐっとくるのだ。選挙編や体育祭編についても、個人的には俺ガイル(やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。の略称)にも負けず劣らずな青春群像劇と断言する。奇しくも、俺ガイルとの共通点として「リア充な面々もきちんと人間として描く」というところが挙げられる。人間がきちんとかける作者は当然リア充も単なる記号として扱ったりはしないのだ。

・ラブコメではキャラを最大限生かしたときめきを

とにかくかぐや様は可愛いが、それ以外の男性キャラ含め全員が素晴らしくキャラが立っており、それぞれに長所と短所があって矛盾がない。「良いラブコメは、男どもが面白い」とは九巻の帯の文句だが、全くその通りである。主人公の会長に関しては「努力家」キャラをうまく使って「ひどいセンスから努力で人並みになる」定例エピソードがある。これがまた面白い。この時だけ鬼教官と化す藤原書記がまた面白くて可愛いのである。ラブコメは登場人物命であり、キャラに魅力がなければ当然ときめかないが、この漫画はギャグパートでキャラを立たせておいてそれを矛盾なくラブロマンスに紐づけてくる。ときめきすぎて胸が苦しくなる。

・花火の音は聞こえないという屈指の名作短編

どうしても語らざるおえないので、2000年代のベストラブロマンス短編と言ってもいい「花火の音は聞こえない」がいかに優れているかを書くと、まず、この「花火の音が聞こえない」が収録されている五巻は全て夏休み編であり、不器用な会長とかぐやがずっとすれ違い続ける。つまり、主人公たちは、会えない。

これはすなわち「花火の音は聞こえない」回を最大限にアシストするための「じらし」なのだが、思い出してほしいのはこれが週刊連載(ヤングジャンプ)で、本誌ほどではないにせよアンケートに左右されるということである。この大胆な構成はよほど自信がないとできない。しかしすれ違う回もまた普通に面白いのでアンケートの心配は杞憂。藤原書記がラーメンを食す回は屈指のギャグパートとして名高い。

そんな単話でも成り立つギャグパートはすべて美しく「花火の音は聞こえない」回に収束していくのである。箱入り娘のかぐやが「仲良しの生徒会メンバと花火を見にいく」その切実さはものすごく、かぐやがある事情で一旦花火を諦めて浴衣のままベットに寝転ぶシーンはあまりの表現力で胸が苦しくて泣きそうになる。ちょっと泣いた。

余談だが、赤坂アカ氏はイラストレイターとしても名高く、今はボカロ人気の一角を占めている IA(イア)のデザインもしている。

www.vocaloid.com

デザイナーとしても優れているので、漫画のコマ一つ一つの表現力がすごいのである。漫画の一コマでこんなに心をかきむしられるとは。

そして最後のシーン。一巻の前半部分を丸々使った「焦らし」が最後のカタルシスに変わる珠玉のラストシーンは、ぜひその目で確かめてほしい。BGMは米津玄師の「打ち上げ花火」をオススメする。

 

と、そんな素晴らしいコメディ、ラブロマンス、感動と全方面の漫画力に溢れるこの作品はそれでいて、

・ただ可愛らしい絵を眺めるだけの漫画としても成立するぐらい可愛い

という側面も持っている。なんと間口が広い。

 

もともとドラゴンボールでなくセーラームーンで育った僕は、ラブコメが世間一般の男性より好きであるとは思う。とはいえ、この漫画は間違いなく規格外だ。まだ売れるしこれからもっと売り上げは伸びる。何はともあれ、全巻揃えてほしいと思う。そしていずれくるアニメの感想を語ろう。きっと一期の最終話は「花火の音は聞こえない」だ。それはあの化物語の最終話で「あれがデネブ・アルタイル・ベガ」と指差す回と同じか、もしかしたらそれ以上に、視聴者の心に残ると思う。