Fate HF 2章 感想。これでFateは昔エロゲだったんだよとドヤ顔で語らずに済むね。

Fate/stay night 本編は未プレイ。遠い昔に見た気がするネタバレも忘れてしまい、とてもちょうど良い状態で映画を見ました。

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出典:https://hobby.dengeki.com/news/678968/

劇場版「Fate/stay night [Heaven's Feel]」 Ⅱ.lost butterfly ★★★★★

(ネタバレを含みます)

いや、おかしいと思ったのですよ。セイバールート、凛ルートのアニメを見ても桜の仄暗さが今ひとつ見えてこないのが。幼い頃に家庭の事情で実の姉と引き離され、虫を使う家系の魔術師として育てられ幼い頃から身体中を虫に弄られ、犯され、汚されきった女の子が普通に生きているなんて。

本作では第1章で匂わされるに留められた桜の闇がついに浮き彫りになります。一章からチラ見せされていた影の存在(影が出てくる時に映画が一瞬無音になる演出は素晴らしく、ものすごい緊張感で息が詰まりそうになります)、それが桜そのものだったと明かされていく。それでも士郎は彼女を選ぶのだが、一章で「私がもし悪い人になったら、叱ってくれますか?」と言ってたのがまさか「街の人を無差別に取り込み食らう影そのものだった」なんて流石に士郎も予想できないですよ。「いや、もうちょっと常識の範囲の悪事にしてくれよ」と士郎も涙目ですよ。相変わらず奈須きのこさんは登場人物の落とし方がえげつない。

加えて本作のポイントはその女の匂いというかエロさ。えてしてヤンデレというのは本作の桜よろしく幼い頃に自己肯定感がほぼゼロのまま育った人が多く「相手が自分を道具として使って快楽を得てくれないと信用できない」という思考に陥りがちですが、彼女も例に漏れず(かつ体に内封している聖杯の「飢え」と混同している面もあるのでしょうが)、士郎の体を求めます。初めは吸血ぐらいで抑えようとするのですが、その吸血シーンもスタッフの本気が感じられる素晴らしいエロさで桜のツバの匂いが伝わってきそう。そして、自慰を示唆するシーンから最後は士郎のベッドの前に立ち、体を重ねるに至ります。このシーンを(規制に負けず)描いてくれたことをパンフレットで奈須きのこは絶賛していましたが、確かにこのシーンなくして桜ルートなど語れないでしょう。その後、体を重ねたことで(空虚な)自信を得て凛を「姉さん」と呼べるようになるシーンなどは仄暗さにドキドキしました。そう言えば「私、処女じゃないんですよ」なんて台詞もありましたが、これ超人気シリーズのヒロインが吐いていい台詞じゃないですよ。実に素晴らしい。

そんなエロさがこの物語のねっとりとした絶望に拍車をかけていき、最後には通り魔的に道ゆく人を飲み込んで食らうシーンなんかは、お城を夢見るシンデレラのようなおとぎ話の世界から飴を舐めたと思ったらそれが人間の目だったという衝撃的な映像で描かれていて最高にぞくぞくしました。夏コミの半分以上を席巻した、少年少女のためのFateになりがちな昨今これを映像化してくれたことには大きな意義があると思います。

一章の丁寧な「予感」から、ここまで桜を生々しく恐ろしく描き「自分が士郎だったら桜を選ぶことができるのか?」「選んだとしてそれが正しいのか?」と悩む僕らをねっとりとした視線で見つめる桜の絵が思い浮かぶ素晴らしい劇場版でした。セイバーオルタ vs バーサーカーのバトルが素晴らしい迫力だったり、Aimer × 梶浦由記の主題歌「I beg you」が前作「花の歌」のロマンチックさと対照的な呪術的なイメージで本作を彩っていたり、細部までこだわったクオリティなのですが、やはりそれらを全て飲み込む桜の艶かしさが圧巻です。ここまで素晴らしいと三作目が大丈夫か気になってしまうのですが、わざわざ2020年の春に合わせて「Spring Song」を銘打って公開とのことなので、この仄暗い勢いを損なわずに突っ走ってくれることを期待します。

 

 

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