今年からフジロックのライブ配信が YouTube で始まった。海外フェスの流れからすると当たり前ではあるものの、その取り込みの早さはさすがフジロックである。僕もやはり朝11:00から中村佳穂を見る気力はなかったので(11:00とか会社に出社する時間じゃん!)、道中にライブ配信で見た。彼女の言葉は歌になる、そんなパワーを感じる素晴らしいライブだったし、それをフジロックの道中でワクワクしながら見られるなんて本当に良い時代だ。
ライブ配信でフジロックに行く客は減るだろうか。減るはずがない。ライブ配信があるからフジロックにこない人は、そもそもフジロックに来ていない。けれど、これまで興味がなかった人がフジロックの配信をチェックして「今度は現地で見たいかも」っていうのは大いに期待できる効果だ。じゃんじゃんやって欲しい。
ついでにこのまま撮影も解禁して欲しい。今年は去年と違って撮影禁止ツイートがバズることはなかったが、このままツイッター風紀委員長たちが怒る理由をさっさと奪って欲しい。メモリアルな体験を残しておきたいと願うのは人間の自然な感情だと思う。自然な感情をルールで規制するから争いが生まれるのだ。僕は知っている。口ではルールを守れと言いながら、ツイッターにアップロードされたエルレガーデンの「風の日」の動画を見てしまった人がいることを。早く、みんなが罪悪感を感じず楽しめるようになるといい。
やはりフジロックは特別だな、というのを一日目に入場ゲートをくぐった時になんとなく思った。山の綺麗な空気を吸い込んでかすかに聞こえる Green Stage の音楽に胸の高鳴りを感じる。ここは特別、とは様々なアーティストが口にしていた。「出演者だけが渡ることができる小さい橋」について語った ELLEGARDEN の細美さん、「まるで家みたい」と語ったクラムボンのミトさん、「音楽が好きな人がこんな山の奥でフェスをしてるってことが愛おしい」と語ったクラムボンの原田さん、「グラストンベリーより規模が小さいのがいいね」とインタビューで答えた The Chemical Brothers 。Superfly もこのフェスの特別さには感じ入るところがあるみたいで「良い緊張感がある」と評していた。
僕もやはり大学一年生の夏に無理をして行ったフジロックの一日が忘れられない。最後に見た White Stage の Sigur Ros のステージは僕の人生でも一二を争う経験だった。大自然の中で Sæglópur(サイクロウブル:この曲の日本語読みがすらっと出てくる人はだいぶ重症な Sigur Ros 信者だと思う)を初めて聞いた時の感動は語りつくせない。
今回はあまりに雨が辛く、僕も心が折れて二日目は早期退場してしまったが、それでも屋根があるステージがたくさんあればいいのにとは思わない。この時の感動は、屋根があるステージで聞いていたらなかっただろうなと思うから。今年も、クラムボンのステージはピアノの響きが雨のホワイトステージととてもあっていて泣きそうだった。泣きそうだったのは雨で体が冷え切っていたからかもしれない。
アジカンのゴッチが言っていた。
「誰の真似もしないで、それぞれのやり方でノってくれればいいから」
「昔は歳をとることが怖かったけれど、豊かになったものも増えて。アジカンは変わったと思うかもしれないけれど、変わった僕らを楽しんで欲しい」
「誰の真似もすんな 君は君でいい」とはミスチルの歌詞だが、数多のアーティストが歌い続けているからきっと死ぬほど難しい事なんだろうなと思う。そんななか、誰の真似もせずフジロックは変わらないまま、出演者が歳をとって変わっていく。それが本当に素晴らしい。その「変わらない場」の引力はまた誰かを苗場に連れてくるだろう。雨でびしょ濡れになるのは本当にしんどくて、寒い、帰りたいと何度も思うし、バスで越後湯沢駅に行くのも向かうのも本当に遠いし、たまにバスは立ちっぱなしだし、もうしんどいことばかりなのに、そのしんどさがフィルターとして機能して、そのしんどさを知っているのについ来てしまう音楽好きだけが集まる幸せなフェス、それが、フジロックだと改めて感じた三日間だった。
☆ 超よかった
★ 掘り出し物
<一日目>
中村佳穂(配信)
七尾旅人(配信)
★ JANELLE MONAE
THOM YORKE TOMORROW'S MODERN BOXES
<二日目>
銀杏BOYZ(配信)
JAY SOM
★ DYGL
☆ clammbon
American Football(断腸の思いで配信)