若手・イン・ザ・スケールドメテオフォール開発

 スケールドメテオフォール開発においては、時に自分が信じる神を疑わねばならない。今日はそんな事例を紹介しよう。

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 今後ろに座っている若い社員さん。彼女は自分より経験豊かな社員さん(≒預言者)が作ったものを元にして、自分の割り当てられたところを頑張って作っている。そんな彼女が壁にぶち当たって僕に聞いてきた。

 

 「ここの記述ってどういう意味ですか」

 

 そこには「お掃除ボタン」が押された動作が書いてあった。僕は疑問に思いこう返す。

 

 「そのボタン、今は無くなって三つのボタンにわかれたはずだけれど」

 「えっ」

 

 緊急ミーティングがその場で開催され、経験豊かな(はずの)社員さんはうろたえて、お客さん(≒神)に確認します、となった。

 次の日、彼女はまた聞いてきた。

 

 「今確認中のやつ、まだ先に進めないんで、残件チケットを作るんですけど、なんで進めないか理由を書かなければいけないんです」

 そこには、やたら長くて書きづらいテンプレートが定義されていた。僕は疑問に思いこう返す。

 「正しいはずの前工程の文書に不備があって確認中だから、で一行でいいじゃん」

 「それだとルール違反に……」

 そのルールが間違ってるんだ、と思いつつ、ちょっと面白そうだったので、経験豊かな(年のはずの)社員さんがどこでうろたえたのか一緒に見ることになった。

 すると予想通りとても面白かった。

 

 「ここはAを見ろ、AにはBをみろ、BにはCをみろって、これ迷路ですか!?」

 「迷路式記述といってね、参照先に飛ばしまくることで敵が解読できなくするんだ(嘘)」

 「(混乱)」

 

 「ちなみに酷い時は途中からBCBCBCと相互に参照して永遠にゴールがない。これをスマホゲーム記法といって(嘘)」

 「仕事でまで周回したくないです!」

 

 「ところでここにエクセルで非表示となって隠された列があるんだけど、ここに『お掃除ボタン』残ってるし、参照式がこの隠れた列を見ているから、きっとこの掃除機ボタンがその代わりなんだろうね」

 「(唖然)」

 

 「あれ、ここに『このボタンを押されると掃除中になり、すべての機能を止めること』って書いてあります! 私そんなの作ってないです!」

 「漏れてるってこと? それはおかしい、一行一行丹念に分析してたよ。なんてったって経験豊か(な外見)だからね」

 「あっ、ここで元の文章が切れてます

 「コピペ漏れ(笑)」

 

 「あれ、ここ、箇条書きにまとめ直してるけれど、元の文章のどこにもないですよ」

 「多分お客さんの文章が新しくなって、元の記載が消えてしまったんだろうね。なんてったって経験豊か()だから、いつか反映されるよ。いつか(遠い目)」

 

 「えっこれヤバくないですか」

 

 そして彼女は最も重要な知見を得た。それすなわち、自分の与えられた文章は信用できない。そしてその文章の元になったお客さんの文章も信用できない、経験豊か(爆笑)な社員も信じられない、そう。

 

 信じられるのは、自分だけ。

 

 彼女を待ち受ける運命はこうだ。お客さんへの相談結果が返ってくると致命的な事実が見つかる。実はお掃除ボタンはBさんとも関係する! Bさんと繋がる方法を新しく考えねばならない! もう作っちゃったところを直さなければならない! あれだけ面倒だったテストもやり直し!

 

 「しゃらくせえ、なら私が調べる!!」

 

 そして彼女は、仕事をするときに最も必要な主体性を手に入れ、自ら情報を集めることを知る。もし本当にそうなるのなら、この失敗で失ったお金など安いものだ。信じるものを全て失った事実を受け止める事こそ、人が若手、や、新人、から羽化する瞬間、なのかもしれない。