ナンバーガール@Zepp Tokyo の無観客ライブをみてゲラゲラ笑って泣いたよ

 なんかもう良すぎた。何もかも良すぎた。これは時代への答え合わせなのかもしれない。大きな権力の中で他人の顔色を伺って生きるのは、そもそもロックが常に否定してきた価値観だった。僕はそれに心酔していきてきたはずだったのに、その概念を堀江貴文だのなんだのぽっと出のビジネスマンに奪われて、「既得権益に迎合しない生き方」も当たり前になって、ロックの役割も失われたと思っていた。

 でもそんなわけはなかった。向井秀徳は無観客の静寂の中でも、まったくいつものテンションでMCで小芝居を披露し、わけのわからないパフォーマンスで観客を煙に巻いていた。あれを配信でテンションがわからなくなってトチ狂ったミュージシャンの行動かと思った? それは違うね、彼はいつもあんなんだ。去年の、ZAZEN BOYS のライブでジョンコルトレーンの真似をしてラッパの声真似をずっと繰り返していた向井秀徳とだいたい一緒だ。彼はずっと狂っている。

 そう言うことかと思った。これまでずっと、時代が変わる前から、当たり前のように自分自身の価値観のみで生きてきた異端児は、年季が違う。彼らに比べたら、最近阿呆らしくなって会社にスーツを着ずに出社するようになった我々など初心者なのだ。YouTube なんて下北沢の路上と何も変わらないのだ。いつものようにやる、それだけで個性を売りにする YouTuber をゴボウ抜きにしていくのだ。だって「そうやってる」年月が違う。

 異常空間Zとは人のいないZeppのことか。わからない。わからないけれどたまらなく可笑しい。僕は贅沢にも常に酒を片手において、眺めていた。思わずコタツから立ち上がって。彼らはなぜか、インターネットの向こうの人を振り向かせる方法を知っていた。というより、彼らのやっていることは路上を行き交う雑踏を振り向かせられるのだから、インターネットの向こうの人を振り向かせられるなんてのは当たり前のことなのかもしれない。

 静寂の中からなんとも艶っぽいテレキャスターの音が聞こえてくると「鉄風、鋭くなって」のバッキバキのベースの鉄風がインターネットに吹き荒れた。歓声がない曲間の静寂の緊張感は最高だ。一言もツイッターで拡散してとか、トレンドにするための統一タグの説明とか、何も言わないのに、視聴した誰もがツイッターに 「YouTube のスクショ」をあげていて、誰もがそれをリツイートしていた。言葉が統一されていないので、numbergirlナンバガ向井秀徳/透明少女が、それぞれ雑多にトレンドに上がっていた。演奏のキレは全くもって普段通りだった、体に響く爆音で聞けないことだけがインターネットの欠点だ。

 同時視聴者数は2万からどんどん増え最後には4万に達した。まさにこれは電子フェスだ。お、なんかいいのやってるじゃん。そうやって人が増えていくのは、ワンマンではない出来事だ。なんとなく開いてみて頭にでっかいクエスチョンマークを浮かべた人たちを見て笑いが止まらない。「73分けだっさ」「ボーカル歌下手」……最高である、もっと欲しい、リツイートしたい。100人のうち99人に笑われても1人に刺さればロックだというのに、100人が褒めていては味気ない。最近勢いが止まらない江頭2:50もそんなこと言ってたな。

 今の時代を予言していたかのような歌詞のタッチ、走りまくって研ぎ研ぎ澄まされた NUM-AMI-DABUTZ はベストテイク( CDJ で聞けなかったし)、U-REI の後でアメスピを4本吸っておもちゃの拳銃をぶっぱなす向井は最高にキャッチーで、OMOIDE IN MY HEAD の中で、無観客の客席にコロナウイルス対策万全の格好で現れて、僕らの気持ちそのもののように踊ると言うより暴れ、そしてステージに座り、最後は向井のタバコを勝手にふかして帰っていく森山未來おいおい森山君、尖りすぎだろ。

f:id:so-na:20200302021741p:plain

 最高の音楽であり、同時に最高のショウであり、YouTube急上昇とツイッタートレンド不可避の異常事態だった。これが見れた上で、現場でもう一度観れる(かもしれない)なんて僕は何か? いつの間にか徳を積んでいたのか?

 ここにはインターネット時代の今を生きるための答えがある、そんな風に思った。僕らは不確かなデマに踊らされ、狂った140字の論理で殴り合う面白人間地獄絵図を見たくてここにいるわけじゃなかった。そうだった、ツイッター向井秀徳が4本タバコをくわえる絵面をリツイートするためにあったんだった。

f:id:so-na:20200302021448p:plain

 ナンバーガールを見終わって、仕込んでおいたインターネットでバズる料理研究家のレシピで作ったおでんを食べて、そのまま VTuber のライブに流れ込んだ。今日の僕はGoogle が作った電子のフェスに参戦していた。なんと、電子のフェスでは口に出さなくとも、今、心に思った感想をシェアできるのだ。いとをかし。

 正しいことなどわからない。権力に擦り寄って平和に生きようと思ったら目の前にその権力者の生首が晒されている、そんな世界で、やらなければいけないことなんてない。楽しいことを気まぐれにやろう。前だけを見なくていい、徳を積まなくてもいい、特には青春を思い出したっていい。17歳の頃に出会ったTATTOのある透明少女を思い出して、酒を飲みながら泣いたっていい。ああ、本当に、最高。


【3/2(月)23:59までアーカイブ公開中】NUMBER GIRL TOUR 2019-2020 『逆噴射バンド』@Zepp Tokyo

↑早く見て。あとセトリはその動画のコメントにあるよ。