やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。12/渡 航

Customer Review

Amazonレビューを書いたのは初めてだよ。
でもそれぐらい素晴らしかった。
以下、レビューをそのまま転記。

 

これまでの青春ラブコメが描かなかったその向こう側に行くと宣言した11巻のラストから2年。遂に刊行した12巻は作者の苦悩の跡が見られるものとなった。

文章というのは不思議と書いているテンポが読み手に伝わる。苦しみながら一行一行書いている文章はやはり突っかかる。あの速筆で名高い西尾維新でさえ、ネコソギラジカルの文章はテンポが悪い。(奇しくもネコソギラジカルも三巻同時リリースで完結、と銘打ってから発売まで長かったのだが)

冒頭二章はそんな作者の苦悩の二年が現れているような、多少の突っ掛かりがあったのは否めない。しかし、後半、いろはすからのいつもの面倒ごとを持ち込まれてから、持ち直していく。(この作品にいろはすというキャラを登場させたのは本当に良かったと思う)

前巻で由比ヶ浜が「具体的な言葉は何一つないままに」示したラストが、みるみる具体的な物語となっていく。

小町と雪ノ下の鮮やかな対比、これまで以上に悪魔じみた陽乃の最悪の一言と、それでも先に進む比企谷の格好よさ。由比ヶ浜のあまりの切なさ。既刊と比べても白眉の素晴らしさだった。

あまりに生々しく痛みを伴う青春。

これまで丁寧に紡がれてきたがゆえにまるで生きているかのような登場人物の、一挙一動に、セリフに、心がえぐられるようで、読み終わった後は数日放心状態になってしまった。

僕は友達が少ない」も「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」も果ては「いちご100%」も、どうしても青春ラブコメの最後は尻すぼみになることが多い。曖昧で楽しいままの時間は終わり、最後に誰か一人を選ぶという、現実では当たり前のことが、こうも夢がなく、つまらないものになってしまう。

奇しくも「僕は友達が少ない」と同じような始まり方だった本作が、これまで青春ラブコメが超えられなかった壁を超えてくれる予感がする、そんな巻だった。それが、どれだけ痛みを伴うものだとしても、その先が読みたい。