日記9

帰りの電車の中で、僕の前にピンクの目立つ服で、短パンにニーソックスの女の子が座った。
別にそれだけなら普通なのだが、その女の子はたくさんの人がいる電車の中で、
何かの曲を口ずさむように唇を動かし、足をじたばたさせていた。とても楽しそうだった。


僕は思わず、日常から僕を遮断するために大音量でミッシェルを鳴らしていたイヤフォンを外し、
本当に歌っているかどうか確かめたが、さすがに口パクだった。
だが、それにしても動きすぎている。そのうち、足を伸ばしてニーソックスを履きなおし始めた。
足の先っぽをくいくいやる動作が、まるで僕に呼びかけているようにも見えたが、
どう考えても知らない女の子なので、僕は目の前のテトリスに集中した。


また身体をリズミカルに揺らし始めたので、盗み見ていると、
隣の太ったお姉さんが寝ぼけてこちらに倒れてきて、一瞬視界が途切れた。



結局僕が地元の駅に着くまで、その子は楽しげに動いていた。
僕は「どうしてそんなに楽しそうなんですか」ということを聞きそびれてしまった。
しかし手元のテトリスはハイスコアをマークしていて、
耳元のイヤフォンはご機嫌に「ゲットアップ・ルーシー」を歌っていた。


「ご機嫌なニーソのお姉さん」2007.5.12.01:09am