人のアバターを笑うな。そして無為な土日を笑うな。殺すぞ。

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ぼくのゴミのような土日について知りたい人がいると思えないが、もしかして人の無為な土日を収集する趣味のある奇特な人がいるかもしれないので書いてみる。

コンビニ人間を金曜日の午後に半休を取って読み、その鮮烈な現代の実存の描き方、普通こんなところまで掘り下げないだろというところを掘り下げて「普通」の人の気持ち悪さを語った小説に私は感服した。クレイジー沙耶香の異名は伊達じゃない、狂ってる。でも、もしかしたら「正常」な僕らの方が狂ってるのかもしれない。なんて思っていたら一日は終わった。

土曜日、歯医者を終わった僕は途方に暮れていた。なんか体調が悪い。何もする気が起きない。PSVRの美少女を家庭教師するゲームも、名作と言われているドラゴンクエストビルダーズも、あと歌詞をミクに打ち込むだけの曲も、名作と名高いホライゾンゼロダーンも。昨日コンビニ人間も読み終わってしまったので読む本もなく(いや、なぜ生物は死を克服できないのか、という生物学のエッセイがあったけど、ちょっと今は気分じゃない)、ベットで寝ては寝方が悪いのか首への血流が悪く余計に憂鬱になる始末。

最後の力を振り絞ってツイッターで流行っている料理研究家のりゅうじさんが勧めるエリンギの海老マヨ風と壺ニラとご飯を食べたがやはり無気力状態は変わらず、仕方がないのでアニメの中でも特に意味のないバーチャルさんは見ているを眺めて、そして、一番目立っていた月ノ美兎の動画を見てしまったのが運の尽きだった。

この子、無茶苦茶面白い。

特に面白かったのが10分で分かる月ノ美兎の三番目である。ボイスチェンジャーを使った即興芸で、多分YouTuberにとってはありふれたネタなのだろうが、彼女はそこで溢れる個性を出してきていた。テレビやネットにかじりついていないと出てこないリアルな芸。これを脚本なしでやっているというところが恐ろしい。ここに「この世において無駄なことは何一つない」というエビデンスが示されたのであった。この辺りも彼女が「インターネットの擬人化」と言われている由縁であろう。インターネットは深い深い闇であるが、時々闇の泥水をすすりながらこんな希望が生まれることがあるのだ。まったくもって大草原でございますわね。

僕は常々、人は見た目が9割という事実に嫌気がさしていた。見た目で人が選る、これはまぎれもない事実だ。別に私はそれで損をしたのは、眉毛も伸びっぱなしだった高校時代までなのだが、単純にそれで面白い人が出てこれなくなるのはとても面倒な事実だし、そもそも天使のような海外の美少女も年月を経るとオートミールがにあうおばさんになる。だからといって美魔女みたいなのも面倒くさい。金と時間をそこにつぎ込み続ける情熱が理解できないからだ。

しかし、そこに二次元アバターを介すだけでこの問題は簡単に解消できる。今、多くのおじさんが二次元美少女になって驚いている。なるほどなと、女の子たちが旅行先で自撮りをするのは、こういう理由だったのか。それはするわ。俺もしたいもの。こうして世代間格差と思われていたものは単純な見た目の違いだったことが明らかになる。年齢も何も関係ないごっこ遊びの世界では大人も子供もおねーさんも全部同じフィールドだ。人間は老人になると子供に戻るというが、そうであれば彼らがごっこ遊びに回帰するのは当然の帰結ではないだろうか。シガーロスのぽっぴぽらのMVが眼に浮かぶ。そう、われわれを縛っているのは見た目、それだけなのだ。

こうして、落合陽一がみたら、あまりの時間の浪費っぷりにめまいを起こして倒れそうな空虚な土日を経て、僕の人生の第2部は始まった、のかもしれない。

バーチャルさんは見ているを見たよ - まだまだ実験段階。この作品で諦めるのはまだ早い。

■ バーチャルさんは見ている ★★★☆☆

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https://www.nicovideo.jp/watch/sm34468072

「悲報、Vtuberアニメがあまりに酷すぎてトランプ大統領ぶち切れ」より。
こけ下ろす動画かと思いきや、最後に月ノ美兎委員長をほめるんかい!

 

昨今話題のVTuberバーチャルYouTuber、又の名をバーチャルライバー。これは、アニメと言いつつ彼女らを豪華に組み合わせた深夜コント番組風の実験的な作品と言える。第一話から内輪ネタ満載で、なおかつ脚本・構成が今ひとつなのか内輪ネタで全力で突っ走るわけでもなく中途半端な出来になっており「学芸会」「痛い」「出演者がかわいそう」などと言われAmazonは荒れている。

 

その意見に対しては概ね賛成なのだが、だが、はじめてのVTuberコント番組でタモリさんもダウンタウン中居正広もいない中で、VTuberをそれぞれプロデュースする企業も異なる中でいきなり成功というのは難しいのではないだろうか。少々みんなのVTuber地上波に関する期待が高すぎたのではないか、と感じられなくもない。

 

何も知らない僕はといえば、特に内輪ネタっぽい発言はスルーし、ぼーっと眺めている分にはそれほど問題ないアニメだった。かぐや様とか見ていると感情が忙しくなっちゃうので夕飯時とか、FGOの周回ついでとかにはこれぐらいがちょうど良かったりして、なんだかんだ最後まで見てしまったという感じであった。むしろ、この退屈さの中でも月ノ美兎委員長からなにか光るものを感じ、10分で分かる月ノ美兎*1をネットで見てしまったところから沼にハマったのだから、このアニメは少なくとも僕と言う一人を沼に誘い込むことには成功している。それだけでも、星3は硬い。大成功である。

 

VTuberに愛がある人がこれを見て辛くなってしまう、彼女たちは本当はもっと面白いのに、そう怒りを覚えて冒頭のトランプ大統領みたいになってしまうのはわかる。ヒカキンがさんま御殿に出て適当にあしらわれたのが許せないことと、似た気持ちと思う。でも逆に考えて欲しい、ヒカキンすらその存在感を示すことが未だできない地上波という別次元の媒体において、彼女らがこのアニメでこれまで触れてこなかった僕のような層に少しでもアピールできたとしたら、それは成功ではないだろうか。

 

このアニメが酷いのは出演者が面白くないからだ、という感想は文脈をある程度読める人であれば抱くことはないはずだ。今視聴者の頭の中には千差万別の「こうすればもっと面白くなった」があるのだと思う。僕にもある。委員長が中居正広的に司会をするトーク番組風に編集すればよかったんじゃないかとかね。これで諦めず、もっといろいろ実験していって欲しい。それを何度か繰り返すうちに、最後には、キズナアイ輝夜月ももじもじと遊びに来るかも、しれないよ。

 

余談

スタッフロールにブラザーPや三重の人などボカロ黎明期を動画制作で支えたメンバーを見つけて嬉しくなりました。やはりVTuberVOCALOIDが下地を作った延長の文化なのだと。

余談2

なんだかんだ言ってサブコーナー「委員長、3時です。」は結構面白かったと思う。「てーへんだ!アカリちゃん」も時々ぶっ飛んだ回答は面白かった。

余談3

いつものアマゾンレビューも。

まだまだ実験段階。この作品でアニメ進出を諦めるのはまだ早い。

*1: 初回から委員長のキャラの濃さが光る

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こんな時代だから幸せになれないとかいうのは毎晩VTuberを見ないやつの戯言に過ぎない

元ネタ:

貧乏だから野菜が食えないとかいうのは毎晩キムチ鍋を食べないやつの戯言にすぎない・冬 - 関内関外日記

競争力を失いお金がなくなった企業が使えない45の中年をリストラしたり? 富士通退職の匿名ダイアリーがバズり? 世の中はやけになったかのようにアライさんなりきりがTwitterではやり? マック赤坂が当選したり? 辛いことばかり?

俺にはわからない。俺たちにはバーチャルYouTuberがいるじゃないか。

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……

………。

バーチャルYouTuber、昔流行ったけれど今更? とお前たちは言うかもしれない。何もわかってない。そもそもわざわざ美少女3Dモデルを作ってそれを動かして動画を撮ったら、よりお金もかかるし、YouTuberの王道ネタの食べ物を食べたり商品を紹介したりもやりづらいし、ゲーム実況やラジオ配信じゃあ3Dモデルが生きないし、何の意味があるの? 俺もそう思っていたからVTuberは1年間も放っておいた。そういう時期があった。でも今は違う。それを伝えたいんだ。

人間は見た目によって、環境が変わり性格が変わる。俺やお前の3Dモデルはまあテレビ映えはしない。それに加え経年劣化もする。だから仕事やトークで面白くなるように努力するんだろう? 逆に俺が美少女だったら、多分仕事やトークで努力はしない。自分の見た目を維持するためには頑張るかもしれない。最上もが? しょこたん? あれは美少女がオタクで珍しいから売れている。新垣結衣浜辺美波トークはそんなに面白くない。

そこで人類は発明した。プロメーテウスから火をさずかって、立ち上がって歩き始めてから幾星霜、やっと次の進化の火が灯った。最近読んだコンビニ人間では「縄文時代から人間はずっと一緒」が口癖のキャラクターがいたし、Fate/Zero衛宮切嗣も「石器時代から人間の本質は変わっていない」とセイバーに吐き捨てたが、ついに、次の時代が到来したのだ。見た目を外注することができるようになったのだ。

もう気づいているだろう。お前が「今日一杯どう?」と同僚の女性社員に言うとセクハラになるのに、「今日一杯どう?」を優秀な3Dアバターが吐くと「ラブストーリーは突然に」が流れ出す現実に。しかしそれが外注でき、容易に代替可能な存在になれば、あとに残るは俺やお前の純粋な魂だ。VTuberの中の人のことは魂と呼ばれている。ついに魂だけで勝負できる時代がきたのだ。

とりあえず然るべき場所で「キズナアイ」で検索してみろ。話はそれからだ。検索したか? 適当に動画をサーフィンしたか? ならいい。

今売れているバーチャルYouTuberの四天王の五人(?)は、独特の哀愁が受けたねこまたを除き、何人ものスタッフの運営でなりたっているのが感じられてしまったかもしれない。お前は「予想通りだ、面白いが、そこまでか……?」と思ったかもしれない。だが、その反応は俺の予想通りだ。そこで冒頭の動画をクリックするのだ。

そこには、実家で、洗濯機の上にMacを乗せ、洗剤にスマホを立てかけて、中腰のまま自分の顔をバーチャルに変換し、魂の面白さだけで上り詰めた月ノ美兎がいた。雑草を食し、くだらないLINEニュースを待ち受けにし、サブカル知識に精通した彼女の魂は、新垣結衣が持ち得てはいけないものだ。世界の法則が乱れているのがわかるだろうか。

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11:57〜 トロッコ心理テスト(5人引くか、自分で切り替えて1人引くか)に対して想像もつかない回答をする月ノ美兎

 

予言するが、いずれ人間は性別や肩書きは切り替え可能になり、世界征服を成し遂げたGoogleの運営するサイトの下で国籍問わず集い、魂で話し合うようになる。だからお前の会社がなくなろうと、気にする必要はない。好きなことだけしろ。見た目は後から買える、魂だけを磨け。なんなら今のそのブラック体験を3D美少女モデルの顔に変換して配信しろ。バズるかもしれない。お前がどれだけ薄給でも、この日記を読めているなら環境は揃っている。多分。

 

 

 

 

(怒られなければ)次回はサイコパスイルカ少女「電脳少女シロ」を紹介します。

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途中のイルカの声みたいなのは、人間の声です。

その人の作品と人間性を切り離すことが僕らには可能なのか?

本当にヤバイホラーストーリー ネット地獄 (講談社コミックスなかよし)

 多くのアーティストが自分の作品と人間性を切り離すことを切望している。Travisというバンドは「The Invisible Band」で透明なバンドとして自分たちが死んでもいい曲は残ると信じたいとアルバム名に冠すほどだし、ぼくのりりっくぼうよみも似たようなことを言っていた。しかし、最近やっと気づいてきたのだが、マジョリティな人たちにとってその作品と人間性を切り離して語ることはできないらしい。

 そう言えば思い返せば、僕がある女の子と付き合った時に、僕がいかに酷い人間かアドバイスという名目で彼女に吹き込みまくり、あわよくば自分と付き合うように促すという行為に及んだ知人がいた。僕はその知人がそういう奴と伝え聞いて、内心ムカデ以下と見下しながらも別に縁を切りもせずニコニコしていた。なんならその知人はオシャレだったので服を買ったりもしていたのだ。適当に服を褒めると彼は古着への熱い想いを語り始めたのだが、僕はムカデがなんか喋ってるなーと思っていた。

 それを友達に語ると「怖い」と本気で怖れられた。でも、僕はムカデが服を着ていてそれがオシャレだと思ったら、服を単独で評価できたのである。なるほど、今文章にしてみるとこれはどう考えてもマイノリティな人間性かもしれない。

 ある日、大好きなアーティストの You Tube をのぞいていたら、最新のコメントで「このアーティストは昔、インタビューでいじめを容認するような発言をしている。このアーティストを聞くのはやめろ」なんて書いてあって、本気でうんざりしたことがある。僕はこのようなインターネットの地獄を見つけるとその奥まで踏み込みたくなる性質なので「アーティスト名 いじめ」で検索すると、そのアーティストを聞くのはやめろ、聞いているならば、人として終わっている、むしろ過去を知らなくても本物の音楽を知っている人間は必ずこのアーティストの薄っぺらさを看過するだろうぐらいの勢いで声高に主張するブログと、賛同するコメントたちが目についた。

 「この人の音楽性からもゲスさが伺えますね」

 なんてコメントもあった。これを冷静に論破するのであれば、こじつければ音楽性とゲスさを関連させることなどひどく容易である。清廉潔白な曲を作るアーティストならば「こういう一面的な希望しか歌えない薄っぺらさから人間性の薄っぺらさが見て取れる」と言えるし、ゲスな歌を歌っている乙女であれば「その名の通りやっぱりゲスな人間性だよね」と言えるのである。誰でも当たっていると思う「今日の占いカウントダウン」と同じ手法だ。

 しかも、しかもだ。もし僕がいじめられっ子だった場合、このアーティストについて You Tube でわざわざ「こいつはいじめっこ、こいつの音楽を聞いてはいけない」なんて書いてない方が、トラウマを刺激されず心おだやかにいられると思う。しかし、このコメンターはゲスな人間が作った音楽を背景を知らずに好きになってしまう(本物の音楽を知らない)不幸な人間を救いたいと思って書いているのだ。IFルートでいじめられっ子だった僕が間違った音楽に惹かれないように導いてくれているのだ。大きなお世話だ。こうして、インターネットにまた一つ、誰も幸せにならない小さな地獄が生まれていく。正義の名のものに、ね。

 このような最低な正義感の発露に貢献するパターンに対する嫌悪感も後押しした上で、やはり僕はその人の作品と人間性は切り離していきたいし、僕のこのマイノリティな感性は多様性の名の下、守られるべきだと思う。同様に、おそらくマジョリティと思われるその人の作品と人間性を同列に語る人たちの感性も守られねばならない。わかっている、わかっているんだが、そのマジョリティの中の一部の人間があまりに嫌いすぎて、ふと思い出してこんな文章を書いてしまっている僕がいる。あわよくば、マジョリティの一部がマイノリティな感性に変わらないかと欲を出してしまっている。わざわざブログを書いたり You Tube にコメントする人なんて一部で、その集団の代表でもなんでもないのに。多くの人はベッキー騒動でゲスの極み乙女を聞かなくなり、関ジャムに出演していたら違うチャンネルに回すだけの無害さだというのに。

 そうして気が付いた。なるほど、こうして僕は人間性で選ることで良い音楽や絵や本に出会う可能性を狭める不幸な人間を救いたいという大きなお世話を働いてしまった。深淵が僕を覗き返している。ヘイトにヘイトが連鎖していき、インターネットの地獄に今僕は加担した。

 その人の作品と人間性を切り離すことが僕らには可能なのか? ある人には可能で、ある人には絶対に不可能だ。しかし、インターネットの地獄に加担するのは、多様性を犯すのは、誰だって可能なのかもしれない。ダークな内容すぎたね、ごめんね。

wowakaさんが繋いだもの、繋がっていくもの。

僕の超ざっくり理解で言うならば、音楽の進化というのは常に「今まで手が出せなかった人が手を出せるようになる」という価値観の転換によるものだと思うのです。

 

クラシック

こんな沢山の楽器で編曲できねーよ。ギター、ベース、ドラムで十分だろ。

ロック

コードなんて三つ覚えれば十分だろ。

パンク

歌歌えないけど他の歌のカッコいいとこ切り出してループして早口乗せればよくね?

ラップ

 

そしてこの変化が起きる時には、古い人達から「こんなの音楽じゃない」と言われることが常であり、逆にいえば「こんなの音楽じゃない」と言われ始めた時が音楽の進化する時だったりします。日本でラップが流行り始めた時を思い出してください。あの頃ドヤ顔で「ラップは音楽じゃない」と言ってた方々、元気ですか? なんちゃって。

 

そこで、ボーカロイドです。黎明期、ただの楽器であるボーカロイドも「こんなのは音楽じゃない」「歌ってみたの前の仮歌」などと言われて、その都度炎上したりしていました。そういう意味で、ボーカロイドは確かに音楽の進化の一つだったのだと思うのです。つまり、矢印の続きはこうなります。

 

ラップ

→歌も歌えない! 早口も下手! PC一台で初音ミク使えばよくね?

ボカロ

 

こうしてボカロ曲は一つのジャンルとして成り立つことになりました。VOCALOIDは所詮楽器なんですけれど、楽器が一つのジャンルを作ることはわりとあることなので大して驚くことではないのです。シンセサイザーがなかったらテクノはないわけで。

 

しかし、思い返せばこのジャンルにおいて、ロックの焦燥感を初音ミクの無機質なボーカルで表現することに成功した人は少なかったと思います。単純にロックとして完成度の高い曲を投稿する人はいました。ryo(supercellさんの「恋は戦争*1」、梨元ういさんの「ペテン師が笑う頃に*2」、などなど。でもそれは、ボカロが最適解、という曲かと言われるとちょっと疑問符がつくものだったように思います。

 

そこで出てきたのが現実逃避Pことwowakaさん、曲を重ねるごとにちらほら話題に上がっていた彼は「とおせんぼ」からの「裏表ラバーズ」で完全に有名ボカロPに成り上がりました。彼の曲の構造は非常に分かりやすく、BPM早めのチープな電子音やピアノで構成される一小節のループをひたすら繰り返して、そこに低音を思いっきりカットしたミクの声を乗せるスタイル。

 

ポイントは二点。
・繰り返しが多く、構造が理解しやすいこと
・リズムが性急すぎてライブハウスやクラブ向きでないこと 

 

前者は、なんか僕でも作れそう、となって爆発的なフォロワーを生みます(ちなみに、作れないので安心してください)。そして後者は、すなわちPCの前でイヤフォンをして全身を貧乏ゆすりするのに最適なリズムなのです。引きこもりの僕らにぴったり! 音楽の進化においてよくある、聞き手の環境に最適化した進化ですね。千本桜なども、平坦な連打が「針金のようなドラム」と揶揄されたりしましたが、ライブハウスで体を揺らして聞く想定がそもそも間違っている。当時のしょぼいサウンドカードのPCもしくはスマホで貧乏ゆすりするためのリズムからすると最適解だったのです。

 

これ以降、このスタイルはボーカロイドによるロックのテンプレという枠を越え「ボカロっぽさ」として周知されることになります。Last Note.さんの「セツナトリップ*3」、日向電工さんの「ブリキノダンス*4」、Neruさんの「ロストワンの号哭*5」、トーマさんの「バビロン*6」、といったそれ以降のヒット曲において、wowakaさんが影響を与えていることは間違いないと言っていいと思います。

 

そして、僕個人としてエポックメイキング的な作品であるのが「ローリンガール」。この曲はボカロっぽい作風の完成形だけでなく、ナンバーガールから続く文系ロックの文脈も持っている曲であり、僕が初めてこの曲を聴いた時の衝撃といったら、言葉にできないレベルです。今でも鮮明に思い出せます。

少女というモチーフ。
歌詞全体から漂う生き急ぐ感じ。
ピアノ主体のリフと感情のないミクの声が生む焦燥感。

 

ここで僕が死ぬほど聴いていたNUMBER GIRLの文脈に続く曲がボーカロイドに現れ、点が線として繋がったのです。絵にするとこんな感じ。

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高速ボカロックの曲たち単体で見ると、NUMBER GIRLからの線がつながらず、この絵が描けないことがポイントです。前述したwowakaさん以降のヒット曲たちからは、NUMBER GIRLの匂いは感じられない。けれど、wowakaさんがいることでロックの文脈として繋がるのです。

 

ちなみに、ロッキンユーという漫画でも、この音楽の影響の流れは明確に提示されています。「透明少女」を部活動紹介で轟音で鳴らす先輩。そして次の校内ゲリラライブは「ワールズエンド・ダンスホール」。この展開が偶然とは思えない。

 

shonenjumpplus.com

ワールズエンド・ダンスホールは3話です。無料で読めない。すまない)

 

どうでもいい僕の話ですが、僕はBUMP OF CHICKENからロックに入り、そこからくるりスーパーカーナンバーガールにどっぷり浸かるという灰色の青春時代を送った人間の辿る文系ロックの王道ルートをなぞってきました。米津玄師がバンプ好きを公言しているように、バンプの影響はそこかしこに溢れています。ボカロの物語性のある歌詞もその一つ。バンドリの愛美もバンプが原体験だったはず。しかし、邦楽ロックで凛として時雨アジカン椎名林檎が影響を公言し心酔しているナンバーガールの系列がボカロに出力されないのが物足りなかったのです。そして、ずっと待っていたそれは最高の形でwowaka氏からアウトプットされたのです。

 

ローリンガールという曲は、PC一台で、自らの声という「感情を最も表現する楽器」を封印して、それでもNUMBER GIRLの奏でた焦燥感を鮮やかに鳴らせるということを証明した曲でした。wowakaさんはこうして、PC一台でロックの歴史の一つの線を繋げ、ワールズエンド・ダンスホールにてそれを締めくくったのです。PCの前で貧乏ゆすりしながら踊ったっていいじゃない、と。

 

そして早々にロックの焦燥感を無機物に乗せることに成功した彼は、ヒトリエでそれに肉体性を再度復活させる試みをして、そこでも成功を収めました。今や邦楽バンドの一つの登竜門となったアニメのテーマソングにも取り上げられ、これからさらに羽ばたく、そんな時に。

 

しかし、これまで語った通り、彼はここ数年で一人が成し遂げたとは到底思えないレベルの影響を与えたんだと思います。これで肉体性に回帰してさらに無敵になり、米津玄師と同じようにお茶の間で話題になる姿が見られなかったのが残念ですが、別にお茶の間に知られなくたって、すでに多くの人の心に刺さり、過去の邦楽ロック(文系側)とボカロを一本の線でつなぎ、数多のフォロワーを産んだという点においては、すでに米津玄師に勝るとも劣らない影響力と言って差し支えないでしょう。その影響力が偉大だからこそ彼の訃報が受け止められない人がたくさんいて、僕もその一人なのですが、ファンとしてただ語りたかったので気持ちが整理できないまま語ったのがこの文章です。

 

****

 

もし、もしも、初音ミクという概念が、形となってこの世界のどこかに存在すると仮定したなら、彼女がロックのステージをする時には、wowakaさんの曲が選ばれて、初音ミクの隣でwowakaさんがギターを弾くことになるんだと思います。きっとね。

 

 

 

 

*1:リズムはヒップホップっぽくもあり。

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*2:ミクが歌うと少しダークで怖いのだが、格好つけて歌うとビジュアル系っぽくもなる曲。

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*3:ドラムがリフとユニゾンしていてリズム隊というより感情の発露みたく聞こえる。

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*4:wowakaさんの別名義みたく言われていたりしたけれど、歌詞の書き方が全然違う。言葉遊びが面白い。

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*5:わかりやすくも衝撃的な歌詞とあまりにキャッチーなメロディで大ヒットしました。

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*6:ハチさんの影響も受けた感じがする世界観重視の高速ボカロック。

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上から目線のすヽめ

友達と話していてよく聞く困りごとランキング上位に位置するのが「過去の自分をひけらかして自慢するオジサン・オバサン」への対処。例えば市役所勤務の友人なんかは元市役所勤めのオジサンが窓口にやってきて、

「手際が悪いなあ。俺の若い頃は……」

と説教風自慢が始まるとのこと。なかなかのストレスになるらしいのです。

そんなとき、僕がよく思い出すエピソードがある。これは友達の話なんですが、当時小学校四年生だった友達は、父方の祖母が体調を崩し入院してお見舞いに行きました。そこで友達は母親と親戚のおばさん同士の話を聞いていたのですが、

「◯◯は本当に賢くてねえ、すごく物覚えがはやいんですよ。この前も……」

「◯◯ったらそこで、玄関の前で健気に待っててねえ」

という親戚のおばさんの会話を聞いて、物凄く対抗意識を燃やしたらしいのです。

「僕もこの前の漢字テスト100点だったよね」

「僕も毎週お風呂掃除手伝っているよね」

その時の母親の苦々しい顔になんとなく違和感を覚えながらも、少年は割り込み続けました。そしたら、帰りの電車の中で母親は言ったのです。

「あれ、親戚おばさんのの話だったんだけど……」

僕、じゃない友人は流し聞きしてて気づかなかったんですが、どうやら僕、じゃない友人は猫に対抗意識を燃やして僕もこんなに優秀だよアピールしていたと。もう、赤面ですよ。顔から火が吹き出るかと思った(友人談)。恥ずかしすぎて、20年以上経った今でもたまに思い出すトラウマエピソードとなっています。友人の。

 

まあしかし、当時のゆうじ……僕は友達がうまく作れず、昼休みに図書室でシャーロックホームズと漫画「ことわざ辞典」を読みふけっていたので、承認欲求が著しく満たされていない状態だったのです。だから、他人が褒められていることに(他人が猫でも二歳児でも)耐えられず抵抗してしまったのです。そして、ここまで読んだらお分かりかと思いますが「過去の自分をひけらかして自慢するオジサン・オバサン」の心理状態は当時の僕にひどく近いのではないかと予想されます。

つまり、あなたが不幸にも彼らに遭遇した時に思うべきは腹たつ、とか、ムカつく、とかではなくて「承認要求満たされてなくてかわいそう……」 なのです。だって猫に抵抗した小学校四年生の僕と同じ心理状態なんですよ! 可哀想でしょう! こうやって思うことで、腹立たしさが少し減るので、精神衛生を保つテクニックとして覚えておいてください。

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かぐや様は告らせたい14巻より

ちなみにこのテクニックは応用がとても効きまして、僕などは全人類に対して上から目線で生きていますので、逆に博愛主義者ではないかと思えるぐらいなのですが、どうでもいい依頼を丸投げしてくる使えない同僚、やたら否定から入る昭和な感性が抜けない上司、購入用紙をコピーするのになぜか三十分かかった店員、などなどが自分に迷惑をかけた時も「かわいそう……もうすぐAIに代替されちゃうんだな……」と思うことでかなり精神衛生が保たれます。

 

ちなみにくれぐれも、間違って口に出さないようにしてください。人間を怒らせるもっとも簡単な方法は事実を述べることですので、口に出した瞬間、それはもうこの世で見たことがないぐらい顔に「怒り」マークがでた人間を見ることになるでしょう。

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HUNTER × HUNTER より

 

まあしかし、よくよく考えると、猫は自慢していいのに小四の僕やおじさんは自慢しちゃいけないって不公平ですよね。それに、市役所のおじさんや当時の僕がこういう自己承認欲求が満たされていない状態を自覚してしまうと、それはそれで心の中に闇を詰め込む状態になって辛いと思います。世知辛いことに、聞かされる方も辛い、聞かせられない方もそれはそれで辛い。

この辺りの心理は平成の名曲「チキンライス」で書かれており(「せめて自慢ぐらいさせてくれ!」とはっきり言ったJ-POPは珍しいなと思ってました)、こういうところからも松本仁志ってやっぱり目の付け所が優れているなあと思ったりします。

チキンライス 浜田雅功と槇原敬之 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索

それでも僕は小学校四年生当時の僕のようなことをいうおじさんとは一秒も話したくないので、やはりここはVR空間がもっと発展して、おじさんが美少女アバターにて承認欲求を満たす時代が早く来ないかなあと思っています。この記事の僕のすヽめはあくまで暫定対処。全人類の承認欲求を満たすのが根本対処。

 

美少女ならば、それだけですべての人類から承認されるはずなのです(断言)。

かぐや様は告らせたいを全人類に布教したい〜エモくて理性的で抱腹絶倒の最高傑作の14巻〜

かぐや様は告らせたい?天才たちの恋愛頭脳戦? 14 (ヤングジャンプコミックスDIGITAL)

作者の赤坂アカ氏は僕より年下なのですけれど、この情報過多の現在において、幼い頃から情報を取捨選択できる選ばれし人たちはそれほど年を取っていなくても本当に賢いなあと思います。僕は伊井野ミコを実は推していまして、不器用な彼女が活躍するエピソードはどれも泣くぐらい好きなのですが、12巻第115話の彼女のセリフ、

「いいですか!! 確かに条例は厳しい! 自治体も渋ってます!
 それは私たちが大人から信用されていないからです!!
 じゃあ大人の信用を勝ち取るために必要な事とは!?
 風紀です
 風紀委員とは大人から信用をもぎ取る仕事の事なんです」

という台詞の持つ多角的な視点に感動しました。どんな創作でも忌み嫌われ敵として扱われやすい風紀委員を、これほどまで冷静に評価した創作が今まであっただろうかと感動し、そして僕より年下の人たちの溢れる知性に恐れおののいたものです。きっと赤坂アカ氏はこの視点があればサラリーマンだとしても大活躍でしょうね……。

さて、前置きが長くなりましたが。そんな風紀委員の彼女が勝ち得たキャンプファイヤーも重要な伏線となっている本巻。長い文化祭編がついにクライマックス。

すでに我慢できずに、(普段はコミックス派なのに)ウルトラロマンティックを先読みしてしまった方々も多いでしょうが、それの素晴らしさはもう言わずもがな、それ以外にも珠玉の話が多く揃っています。まず最初の第132話から刺さります。かぐや様が会長を好きな理由。

「大勢で歩く時……列から離れて歩く人がいると ちらりと振り向く時の横顔が好き
 心配になる位眠そうな目元とか
 難題にぶつかった時の引きつり笑いとか
 嫌味なほど実直で 地味に負けず嫌いで 人は頑張れば何にでもなれるって思わせてくれる姿が 好き」

もうここで涙がでます。これは絵がついてなくても十分に通用する表現です。その意味の深さは歌詞かと思うぐらい。最初の1行をみてください。これだけで、たったこれだけで会長の人間性とかぐやとの関係性が鮮やかに表現されています。いろんな人を気にかけてしまう、でも大勢の人を率いているから構うこともできずちらりと振り向く。手を差し伸べるべきか分からず何もできない自分の無力さから、少し悔しそうな、それでいて心配そうな横顔。溢れ出る優しさ、器の大きさ。そして、これを好きな理由の一番最初に挙げるかぐや様は本当に会長をよく見ていることも分かる。

理性的なのに、溢れるほどエモい。一見相反する要素が奇跡的なバランスで成り立っていることこそ、この漫画の稀有な部分です。ついに二人がキッスをするウルトラロマンティック回の135話136話においてそれは最高潮に達し、両者のモノローグは、まるで心の和歌を送りあっているようです。

そしてそんなシリアス回を経て「ついに二人はキッスしたから終わりに向かうのか」と思う読者を裏切るような抱腹絶倒のギャグ回の連続。早坂とかぐやの掛け合いの良い意味での低レベルさとテンポの良さににやけが止まらない。かぐや様のコメディ要素は実は決して軽くないこの作品の根幹のストーリーをうまく中和してポップにするという意味ですごく綺麗に機能していると思います。

14巻で綺麗に終わればよかったのに。かぐや様は多重人格なの? そんな声も分からなくはないです。確かにこの巻はこれまで緻密に積み上げて来たかぐや様の面白さの到達点といって差し支えないものですし、ここまで面白いと今後失速しないか心配にもなります。でも、でもですよ。こんなに面白い漫画が14巻で終わるなんて耐えられますか? いかに綺麗に完結しようとそこで満足できなくないですか? もっと読みたくないですか?

だから、ここで綺麗に終わらず続いてくれて、本当によかったなあと思うのです。石上はやはり最後には伊井野ミコと付き合うことになるのかなあと予想したりしながら。(石上が撮ったキャンプファイヤーを楽しむ人たちの写真を見るミコちゃんの目が本当に尊かった……。この巻には一体何個山があるのだろうか)

 

Amazon レビューにも書いてます