外でクリスマスの空気をじかに吸うということ

BGMは「Passion/宇多田ヒカル」。冷たい音。逆回転の声。午後六時。僕は自転車にのって、駅に向かう。


クリスマス・イヴ。彼女はまあともかく、僕は今年、家族以外と外に出る機会を得た。自転車に乗りながら、街のざわついた空気を感じる。クリスマスって街の雰囲気も変えるんだ・・・心なしか夜空もいつもより高く崇くみえる。


途中、横断歩道の向こうで近所で一番可愛いあの子に似た人を見つける。そんな空虚もはさみつつ。


BGMを「and world/ACIDMAN」に変えて、電車に乗る。僕の車両にはカップルはいなかった。みるみるうちに僕を遠くへ運んでいく。窓の外の景色がいつもよりせわしなく、飛んでいく街の灯が寂しそうに見えた。大好きな「銀河の街」で音量を上げる。ギターのぼやけた音。不安そうな顔で電車に乗る女の人を見る。彼氏は来ないかもしれない。


そして、目的地。ここからは私事なので省略。


帰り道。無理やり寄り道して、名古屋駅のイルミネーションを見に行く・・・残念ながら意見を戻す。イルミネーションは大したことない。楽しみにしていた青いツリーは肉眼より、携帯を通して写真にした方がより青く、美しく見えた。精度の悪い僕の携帯は光を溜め込めるのかもしれない。虚像のが美しく思えるのが、皮肉な気がした。下に降りて芸大の学生の作品も見たけど、ドキっとするようなのはなかった。なんか中途半端だった。


帰りの電車では「and world/ACIDMAN」を「銀河の街」からもう一度聞いた。疲れた顔の人と、満ち足りた顔の人が混在する電車は、夜の街を滑るように抜けていく。僕はどっちの顔をしていたんだろう。途中、BGMを「Frengers/Mew」に変える。僕は家に帰る。「She Came Home For Christmas」。ヨーナスの声は僕の耳を撫でた後、密度を増した夜の闇にすうっと溶けていった。自転車をこぎながら見た町は、もうそわそわしていなかった。クリスマスがもう来てしまうから。夜が深くなった街からの、理不尽な拒絶を感じながら家に着く。


そんな一日。僕にとって、外でクリスマスの空気をじかに吸うことが貴重な体験だった。だから、好みの音楽で彩った、「行き」と「帰り」は心地よかった。そこらじゅうで見かけた彼氏彼女は、みんな自分達だけの世界の中で、満ち足りた気持ちを吐き出していた。そっと自然に、上手なキスをするカップルがいた。何も言葉を交わさずに、ただ見詰め合ってるカップルがいた。でも、僕は本当に、彼らみたいになりたかったのか?気付くと、うらやましくてしょうがなかった気持ちはどこかへ消えてしまった。僕は何処へ行きたいのか分からなくなってしまった。一体物語はいつ始まるんだろう。予感は予感のまま、粉雪のようにふっと溶けて消えた。