日記11

今日は夢の続きを見ようともせず、久しぶりにしっかりと授業を聞いた。
黒板を全て写し終えると、ものすごい充実感を感じたが……わかってる。これはいけない傾向だ。
なぜなら、この充実感と言うヤツは厄介な魔物だからだ。
黒板を写しはしたものの、それがイコールで理解とはつながらないというのに、
心の中に住む不安を、根拠のない自信で上書きしてしまう。
授業寝てしまった分を必死で取り返そうとして、休憩時間に集中して教科書を読んだ時のほうが、
良く理解していることがあるのもまた、皮肉なものだと思う。


まあしかし、その後の演習レポートも時間内に提出できたし、大学に残って課題をやったし、
塾講師のバイトにも励んだのだから、さすがに今日くらいは、自分をほめてもいいのかもしれない。



塾のバイトでは、前に入った新人のお姉さんがまた来ていた。うん、今日も目が死んでる。
わりと端正な顔立ちをしているのだが、なんだかちょっと近寄りがたい女の子だ。


しかし今日は、たまたまその子と話す機会を得た。
いや、あれは話したといっていいのか良く分からないけれど。


「なんだろうね、最近理由が不透明な喧嘩をしてしまうんだよ。多分僕が悪いんだけどさ。」
「まあ、喧嘩する相手がいるだけマシなんじゃないか。」
「うーん、それはそうかもしれないけど、それじゃ答えになってないよ。」


「なら、注意深くなることじゃないかしら。あなたのことは良く知らないけれど、そう思うわ。」


急にその子が会話に入ってきて、僕と友人は顔を見合わせた。
実際にはもっと長く会話を交わしていたから、
なにかしら彼女が口を挟みたくなる何かを(ここでは十中八九、じれったさだろうけど)、
僕の言葉が持っていたのかもしれない。
友人は、突然の参加に面食らって、変な女だなという顔をした。
僕はその台詞に何かしら思うところがあって、さらにこう繋げてみた。


「なら、注意深くするにはどうすればいいと思う?」
「そんなこと、あなたが自分自身で考えなさいよ。
でも、そうね。あえていうなら、あなたが精神的に焦りそうになったときには、
夏の冷蔵庫でひんやりとうずくまっている、きゅうりのこととかを考えるといいかもね。」


それだけ言うと、彼女は満足して、引き戸をぞんざいに開けて塾から出て行った。
友人はますます意味が分からないという顔をした。
僕は「計画通り!」と、夜神ライトのように高らかに叫びたくなった。



その台詞は、村上春樹の「スプートニクの恋人」からとったんだろう?知ってるよ。
僕もmixiのプロフィールで、その小説のその言葉を引用したことがあるからね。


なんとも、仲良くなれそうな先生が来たものだ。


「夏の冷蔵庫にたたずむきゅうり」2007.5.16.11:55pm