今日は夢の続きを見ようともせず、久しぶりにしっかりと授業を聞いた。
黒板を全て写し終えると、ものすごい充実感を感じたが……わかってる。これはいけない傾向だ。
なぜなら、この充実感と言うヤツは厄介な魔物だからだ。
黒板を写しはしたものの、それがイコールで理解とはつながらないというのに、
心の中に住む不安を、根拠のない自信で上書きしてしまう。
授業寝てしまった分を必死で取り返そうとして、休憩時間に集中して教科書を読んだ時のほうが、
良く理解していることがあるのもまた、皮肉なものだと思う。
まあしかし、その後の演習レポートも時間内に提出できたし、大学に残って課題をやったし、
塾講師のバイトにも励んだのだから、さすがに今日くらいは、自分をほめてもいいのかもしれない。
塾のバイトでは、前に入った新人のお姉さんがまた来ていた。うん、今日も目が死んでる。
わりと端正な顔立ちをしているのだが、なんだかちょっと近寄りがたい女の子だ。
しかし今日は、たまたまその子と話す機会を得た。
いや、あれは話したといっていいのか良く分からないけれど。
「なんだろうね、最近理由が不透明な喧嘩をしてしまうんだよ。多分僕が悪いんだけどさ。」
「まあ、喧嘩する相手がいるだけマシなんじゃないか。」
「うーん、それはそうかもしれないけど、それじゃ答えになってないよ。」
「なら、注意深くなることじゃないかしら。あなたのことは良く知らないけれど、そう思うわ。」
急にその子が会話に入ってきて、僕と友人は顔を見合わせた。
実際にはもっと長く会話を交わしていたから、
なにかしら彼女が口を挟みたくなる何かを(ここでは十中八九、じれったさだろうけど)、
僕の言葉が持っていたのかもしれない。
友人は、突然の参加に面食らって、変な女だなという顔をした。
僕はその台詞に何かしら思うところがあって、さらにこう繋げてみた。
「なら、注意深くするにはどうすればいいと思う?」
「そんなこと、あなたが自分自身で考えなさいよ。
でも、そうね。あえていうなら、あなたが精神的に焦りそうになったときには、
夏の冷蔵庫でひんやりとうずくまっている、きゅうりのこととかを考えるといいかもね。」
それだけ言うと、彼女は満足して、引き戸をぞんざいに開けて塾から出て行った。
友人はますます意味が分からないという顔をした。
僕は「計画通り!」と、夜神ライトのように高らかに叫びたくなった。
その台詞は、村上春樹の「スプートニクの恋人」からとったんだろう?知ってるよ。
僕もmixiのプロフィールで、その小説のその言葉を引用したことがあるからね。
なんとも、仲良くなれそうな先生が来たものだ。