数々のドラマを乗り越え、そのたびに新たな地平に立ったバンド、レッチリ。
彼らが「コレを気に入らないってことは、僕らが好きじゃないってことだね」と言わしめる自信作、二枚組み。
しかしながら、二枚組みって成功しにくい。もちろん、二枚組みの名盤はたくさんあるけれど、その反面、(セールス的に)失敗してしまうことも多い。それはやはり、そのアルバムの売りとなる核みたいなものが、ぶれてしまったり、単純に値段が上がったりするせいだと思う。
初めてこの二枚組みを聞いたときは、ひっかかりがなくあまりにすうっと聞けてしまって、その「失敗例の一つかな」って思ってしまった。友達の言うとおりファンク復帰も中途半端な気がした。でもそれは早とちりだったのだ。
ほんの数回、聞き込めば分かること。ひっかかりがないと思えたのは、あまりに高い水準に一つ一つの曲がそろっているから。これは、ただ単純にいい曲を28曲詰め込んだ、レッチリの今の調子の良さを活かしきった素晴らしいアルバムだと思う。
そもそも、「レッチリの良さ(特に後期)って何?」と聞かれたら、僕は迷わず「バラード」と答えるだろう。別に激しい曲をやっているバンドが、バラードもできるっていうことは今やそこまで珍しいことではないかもしれない。でも、レッチリのバラードは違うのだ。簡単に言えば、歌だけではなく、バラードでどちらかというと脇役にまわってしまうことが多いベースとドラムがしっかり主張することで、グルーヴを持っているのだ。切なくなるのに、泣けるのに、どこか身体が反応する。前にバラードをサラダに例えていた人が「レッチリのバラードはパワーサラダだ」ということを書いていた記憶があるが、まさにそれだと思う。そしてそれは、このバンドにしか奏でられない。本当にすごい演奏力というのは、何も前面に出てバカテクを主張しなくても、ただ淡々と弾くときにさえ、なにかしらグルーヴを生み出してしまうものなのだ、と思う。
その上、一体感だけではない。ちょっと気を許せば、フリーはソロかと思うようなメロディアスなベースを奏で、ジョンはギターで思いっきり泣き始める。これだけ自由で、かつまとまっている演奏は、世界中のバンドの、憧れの的なんじゃないだろうか。ジョンに引っ張られすぎた前作より、シンプルにバンド全体の演奏力を活かした曲作りになっている今作は、今上げた「唯一無二のバラード」が思う存分聞ける、素晴らしいアルバムなのだ。
もちろん、随所で言われていたファンクネスの復活も、メロウさのなかにアクセントとしてうまく入れ込むような形で果たしていて、『Blood Sugar Sex Magik』好きなファンも納得できたのではないだろうか(確かに二枚組みなら、昔のようなファンクだけで押し切っちゃうナンバーも一つぐらいあってもよかったかもしれないが)。
まあもちろん、このレベルでさらに「By The Way」(曲のほうね)ぐらいの、一回聞くだけでガツンとやられてしまうようなキラーチューンが両サイドに一曲ずつあったりしたら、伝説の中の伝説といわれる凄まじい名盤になったかも、みたいな不満は多少あるけれど。それよりも今は、こんな調子のいいレッチリの曲を28曲も聞いていられる幸せに浸っていたいと思います。
では最後に、特に気に入った曲を上げてみます。
(DISC 1:JUPITER)
3 Charlie
メロ部分でのアンソニーの声が可愛らしい、ファンクとメロウがちょっと新しい形で融合したナンバー。
4 Stadium Arcadium
タイトル曲。ジョンの爪弾くようなギターが凄い。
8 Torture Me
フリーのベースが終始暴れ周り、トランペットも昔風コーラスも交えてどんどん盛り上がっていく、アルバム中、一番激しいと思われるナンバー。ちょっとマーズ・ヴォルタ風味。
1 Desecration Smile
とにかく同じメロディの部分を、サビが終わるごとに、ジョンが違う色のギターで少しづつ盛り上げていくのが圧巻。この人はどれだけのギターの弾き方のヴァリエーションを持っているというのだ。
2 Tell Me Baby
ファンクファンクしてる。ギターもベースもドラムも歌も、一緒にリズムを刻んで。でもサビはメロウで聞きやすい。「Charlie」と対になるような曲。
3 Hard To Concentrate
フリーの自由気ままなベースが堪能できる曲。ベースだけ聞いてても十分おなか一杯。凄い。
7 If
センチメンタルがこぼれる小品。
14 Death Of A Martian
最後を飾るはこの曲。ラストの、アンソニーのポエトリーリーディングっぽい語りに、畳み掛けるような大泣きのギターとメロディアスなベースが炸裂する部分はすごいカオス。
さあみんな。レッチリを聞こうよ!!