KID A/RADIOHEAD(前編)

Kid A

森の中の流れにタオルをひたして、それで身体を拭く。水は冷たく、僕の感情のたかまりをいくらかしずめてくれる。それからポーチに座ってMDウォークマンレイディオヘッドを聴く。僕は家を出てから、ほとんど同じ音楽ばかり繰り返し聴いている。レイディオヘッドの『キッドA』とプリンスの『グレーティスト・ヒッツ』、そしてときどきジョン・コルトレーンの『マイ・フェヴァリット・シングズ』。(海辺のカフカ 下/村上春樹 第39章より)

電車で読書していると、上の文章が現れた。僕は森の中で『KID A』を聴く気持ちに近づくため、iPodで実際に『KID A』をかけてみる。不穏な電子オルガンのイントロ。僕はカフカ少年により同化した心地のよい気分に身体じゅう浸りながら、ページをめくっていく・・・。
 
僕が、本格的に音楽好きになってから、自分の意思で聴いたはじめての洋楽はRADIOHEADの『KID A』だ。どうしてこんな救いようのない暗いアルバムから、洋楽を聴くことになったかといれば、たいした理由ではないのだが・・・。
 
そのころ僕は、SUPERCARの『HIGHVISION』にものすごい勢いではまっていた(そのうちこれも長文レビューを書く予定)。はじめて聴いたテクノアルバムだったんだが、こんな気持ちいいアルバムがほかにあるだろうか(この気持ちは今も変わってない)。そして、ふとしたきっかけで、知人にアルバム中一番好きな「STROBOLIGHTS」を聴かせた。すると、返ってきた答えは「高音ばっかりで聴きづらい。レベルが低い」だった。「なら世界にはどんなレベルが高いテクノがあるんだよ?」と思った僕は、とりあえず名前だけは知っていたunderworldAmazonで試聴してみた。でも、なんか音の感じが違ったのでスルー。そこで、「このCDを買った人はこんなCDも買っています」のところで、なんとなくKID A RADIOHEADをクリック。試聴してみた。そのとき、これが凄そうだ、となんとなく思った。(SUPERCARが『HIGHVISION』で使っている音と『KID A』で使われている音が、なんとなく似ている感じがしたせいで、とっつきやすかったのかもしれない。それに試聴ではあのばらばらにされたボーカルのサンプリングも分からないので、特に怖い感じもしなかった)


・・・そんなわけで、僕はRADIOHEADの『KID A』を借りようと決めたのであった。